俳句ポスト365結果発表

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第2回 2013年1月31日週の兼題

春めく

  • よしあきくん一期一会の一句
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天

行くあてのなき犬海は春めかん
理酔
 風も空も波もすべてがひかりの粒を弾きはじめるのが春という季節です。「行くあてのなき犬」までを一気に読ませた後に出現する「海」には、冷たくも明るい光の波がひしめきあっています。
 そんな春めく埠頭には野犬が一匹。首を垂れ餌を漁る「犬」を「行くあてのなき」ものとして見つめる作者のまなざしにあるのは、憐れみか、いたわりか、自身の境遇を投影した自嘲でしょうか。
 「行くあてのなき」は、痩せて汚れた「犬」を連想させるだけではなく、作者の心を暗示する言葉として働くことに気づくと、一句の心理的奥行きが広がります。「海の」ではなく「海は春めかん」と呟く心、春を希求する作者の心情に寄り添いたくなった一句です。

地

「春めく」と告げマラソンの中継車
樫の木
 松山の早春の風物詩となっているのが愛媛マラソン。毎年、俳句仲間たちが出場するものですから、私も応援吟行に参加します。先日二月十日に行われた今年の大会には八千人がエントリー。まさに「春めく」一日でありました。
 この句を読んだとたん、大会当日のテレビ「中継車」のアナウンサーが、この季語でもって、あの日の麗かな日射しやまだ冷たい風を表現していたに違いない! と確信しました(笑)。俳句には馴染みにくいカギ括弧をうまく使いこなしてもいます。
 樫の木さんからは「愛媛マラソンが近づいてきました。選手の皆さん頑張ってください。いつき組マラソン部の皆さん応援してます!」というお便りも頂きました! 来年は是非、樫の木さんも応援吟行に来て下さいね~。楽しいよ~♪
春めきてジャム煮る音のモデラート
登美子
 「モデラート」は【中庸の速さ】を意味する音楽用語だそうです。春光のあふれる台所で煮ているのは何の「ジャム」でしょうか。「ジャム煮る音」を「モデラート」と表現するセンスが素敵。春もゆっくりモデラートでやってきます。
 同時投句は、発想がユニークな二句です。「春兆すムンクのような欠伸する」「地球儀の芯の蠢き春動く」
遺されし私が春めくだなんて
根子屋
 「遺る」は【後世に伝わる。死後消えないである】の意。もし「残る」の字が使われていたら、失恋かも…という読みもあり得ますが、「遺る」によって死別したとの読みが確定します。
 「遺されし」が文語で「春めくだなんて」が口語と、異質な文体が混じっていますが、「遺された私が春めくだなんて」と口語で統一した時の感触が、少し軽いと感じ、特殊な文体混合の言い回しを選ばれたのではないかと推測します。
 何もかもが「春めく」なか、遺された人間の悲しみは何度目の春を迎えれば癒やされていくのでしょうか。
春めくやメレンゲに角生ゆるまで
神楽坂リンダ
 「メレンゲ」を作るために卵白を泡立てているのですね。「春めく」という映像を持たない季語は、映像や音など具体的な要素を取り合わせるのが定石です。
 「春めく」気分と「メレンゲ」の質感の取り合わせがうまくマッチし、メレンゲに「角」が生えてくるという発想も楽しい一句でした。
 同時投句「春めいてアイロン進む布の海」も家事から生まれた素敵な発想です。
春めくや積木のような丘の家
甘えび
 「春めくや」という上五の詠嘆には、春らしくなってきたなあという気分はありますが、具体的な映像はありません。「~や」の詠嘆の後に「積木のような丘の家」が出現することで、「春めく」という季語そのものが彩り豊かに表現される、取り合わせの一句。
 季語が「春めく」であり「積木のような家」でありますから、心理的な深読みは不要。積木を積んで作ったかのような可愛い家を想像すればいいですね。
 同時投句は、色彩が印象的な二句です。「春めいて埠頭の鳥は白ばかり」「春めくや空に銀色飛行船」
医薬酒のあまき草の香春めける
緑の手
 「医薬酒」というと養命酒を思い浮かべてしまうワタクシですが、勿論それに限定する必要はありません。「医薬酒」の匂いを「あまき草の香」と表現することで、こくのあるとろんと香る薬酒がうかんできます。
 下五「春めける」は連体形。倒置法で語順が入れ替えられていますので、意味としては「春めける医薬酒」「春めけるあまき草の香」と解釈することができます。
日の終る春めく水を飲んでいる
兼光
 「日の終る」は一日が終わる、の意。上五で切れがあると読むか、「日の終る~水」と繋がると考えるか、迷うところではありますが、私は上五で切って読みました。さらに、「日の終る」は、一日の労働が終わったよ、という安堵の夕暮れを意味していると解釈。「春めく水」はその温度であり、美味い水としてのほのかな甘さであり、水を生み出す春という季節への喜びでもあるのでしょう。下五「飲んでいる」の淡々たる語りに、静かな臨場感があります。
 同時投句「グランマルニエ一滴落とす春めく夜」にも惹かれました。「グランマルニエ」とは、甘口のリキュール。「春めく夜」の艶めく香りです。
城山の今日は春めくものを撮る
ポメロ親父
 日本各地に「城山」を真ん中に置いた城下町がありますが、松山の町もその一つです。松山城に登るルートは幾つかありますが、毎朝散歩やジョギングの人たちが天守閣を目指して上ってきます。
 一昔前でしたら「撮る」といえば、ずっしりと重い大仰なカメラしか思い浮かびませんでしたが、今はケイタイで誰でも「撮る」ことができる時代。この句の「今日は春めくものを撮る」という言い回しもまた、イマドキの軽やかさですね。
 ○○を撮ると具体的に提示せず、敢えて「春めくものを撮る」と表現したことで、読み手の心にさまざまな「春めくもの」を想像させます。そこに作者の工夫がみえる一句です。
春めくや熊のやうなる男来る
村夫子
 「熊」は冬の季語ではありますが、この場合は比喩として使われていますから、主たる季語は上五「春めく」ですね。「熊のやうなる男」とは、体格? 性格? いま冬眠から覚めたような寝ぼけた顔つきかもしれませんね。のっそりと現れた「男」と季語「春めく」の取り合わせが愉快な一句です。
 作者村夫子さんからこんなコメントも頂きました。「大学生のころ、同学年に春だけ姿を見せる男がいた。秋田の出身で、普段は下宿で万葉集を読みふけっているという噂だった。4月には授業料を納めに来ていたらしい。春になると姿を見せる熊のようなやつだと仲間内で言っていた。今頃どうしているだろうか。」 万葉集読んでるとは、気が合いそうな「熊」です?(笑)
首回りさうなアンテナ春めける
ハラミータ
 この発想も実に愉快です。昔ながらの枝を張ってるような「アンテナ」ではなく、家庭のベランダなどに取り付けてある丸いパラボラアンテナを想像しました。「アンテナ」の「首」という発想もさることながら、首が回らない(やりくりがつかない)という諺も想像され、尚更愉快。「春めく」光景って、こんなところにもあったんだなあ〜と共感した一句です。

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