俳句ポスト365結果発表

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第69回 2014年5月22日週の兼題

  • よしあきくん一期一会の一句
  • 初心者向け解説コーナー今週の俳句道場
  • 今週のお便り
  • 人・並選の俳句
  • 天・地の俳句

天

蛍火やキトラ古墳に獣の絵
桜井教人
 「キトラ古墳」は奈良県明日香村の古墳。亀虎古墳とも書くのだそうです。ネット辞典には【東西南北の四壁の中央に四神の青龍、白虎、朱雀、玄武が描かれている。(中略)四神の下に、それぞれ3体ずつ十二支の獣面(獣頭)人身像が描かれていると想定されているが、北壁・玄武の「子(ね)」、東壁・青龍の「寅(とら)」、西壁・白虎の「戌(いぬ)」、南壁・朱雀の「午(うま)」など6体の発見に留まっている】とありますので、掲出句のいう「獣の絵」とは、これらの獣面人身像を指しているのかもしれません。
 私たちが入っていくことは出来ない「キトラ古墳」ですが、修復のためにその壁面は剥がされ、キトラ古墳展として公開されているようですし、写真等で壁画の映像を観ることは可能かと思います。
 かつて「キトラ古墳」が封印される前には、この古墳に絵を描いていた人物がいたはずです。古墳の中に灯された松明に、描きかけの「獣の絵」がゆらゆらと揺れていたに違い有りません。一日の作業が終わり、静けさを取り戻した古墳内の闇に、「蛍火」が一つ、二つと点滅していく、作者の脳内ではそんな光景がありありと再生されているのでしょう。
 生きて在る「蛍」の「火」と、壁画に描かれた「獣」たち。黴臭い古墳の匂いと、生臭い蛍の匂い。虚の「蛍」と実の「蛍」。そんな断片がコラージュのように浮かんでくる作品です。

地

濡れ髪にほうたる付けてゐて正気
とおと
 自分の「濡れ髪」にふと「ほうたる」が止まったという光景。風呂上がりの「濡れ髪」のまま川辺の「ほうたる」を観に出ていったのか、あるいは家の中に迷い込んできた「ほうたる」か。「髪」に「蛍」を縋らせている我が身の姿に狂気を感じつつも、尚も「正気」でいることへの理不尽。女の情念の強靱。
獸めく雨の残り香蛍の夜
やのたかこ
 長く降り続く「雨」に「獣めく」「残り香」を嗅ぎ取る鼻は、いかにも俳人らしい感知。「蛍」の生臭い匂いが、「雨の残り香」に混じっていく実感。「蛍の夜」は情緒的に詠まれることが多いのですが、この句のように感覚的に把握することも季語の本意に迫る一手です。
その骨は恐らくタロー蛍散る
理酔
 何かの理由で土地を掘り返していたのでしょう。「骨」のようなものが出てきて、これは一体?!と訝しむ人たちに、「その骨は恐らくタロー」だよと呟いたのは、その家の老人か、その村の長老か。
 上五中七の呟きだけで、「タロー」の死をめぐる出来事が、読者の脳裏に描かれていきます。「蛍散る」の「散る」はやや過剰な動詞かとも思いましたが、「タロー」への格別の思いを表現した言葉かと許容致しました。
鎮守てふ巨石に風と蛍火と
田中憂馬
 「鎮守」の働きをしている「巨石」を見上げていると、その「巨石」を吹き上げるように「風」が出てきます。そして、その「風」に吹かれて「蛍火」が一つ二つと現れます。上五中七までは昼間の光景かと思わせ、下五「蛍火と」で一気に夜の光景となる構成も巧みでした。
戦争の終つた年の蛍かな
あつちやん
 「蛍」に人間の魂のイメージを込めた作品は数知れずあります。今週もその手の発想の句は沢山届きました。それらの作品とこの掲出句との違いは、ものを言い過ぎてない点です。
 「戦争の終つた年の」と限定された「蛍」が想起されているだけの一句ですが、きっとこの「年」は「蛍」が異常発生していたのではないかと、そんな思いが過ぎります。亡くなった人たちの魂が「蛍」になるのであれば、「戦争の終つた年の蛍」はいかばかりであったろう……という思いを、敢えて言葉にせず、「かな」の詠嘆に託すのが、俳句という十七音の極意というものでしょう。
山姥の蛍食ろうた口が光る
可不可
 「山姥」が「蛍」を食べるという発想にも惹かれましたが、それをただの空想にしていないのが「蛍食ろうた口が光る」という措辞です。「蛍」なんぞ食べてないぞ!と言い繕う「山姥」の「口」がゆっくりと光り始める光景は、日本版ホラーファンタジー。その口が次第に大きく裂けていって、作者をも飲み込むのかもしれません。
象の見る夢にもきつと蛍飛ぶ
ヤッチー
 こちらはまさにファンタジー。あの大きな「象」はきっと「夢」を見るに違いない。そして「象の見る夢」の中にも、今夜の見事な「蛍」の残像が飛び交うに違いない。この発想の根底には、今宵の「蛍」に感動した作者の思いがたゆたっています。

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