俳句ポスト365結果発表

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第90回 2014年10月30日週の兼題

ジャケット

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天

ジャケットの腕の淫靡に折れ曲がる
クズウジュンイチ
 火曜日の「俳句道場」にて「ジャケット」と「ジャケツ」の違いについて情報交換しました。元々「ジャケツ」というのは、毛糸で編んだカーディガン・ジャケットのことを指していたんだけど、現代の歳時記の「ジャケット」は、もっと色んな素材の上着(スーツよりくだけた上着)を意味するものになっていましたね。
 ひとまず兼題は「ジャケット」ですので、出来れば「ジャケツ」ではなく「ジャケット」の句をいただきたいと選句していたワタクシの目に、こんなヘンな句が飛び込んできてしまいました。申し訳ないですが、「ジャケット」の一物仕立てとして「淫靡」などという言葉が機能するとは思ってもいませんでした。
 今、脱いだ「ジャケット」がそこに置かれているのでしょうか。ハンガーに掛けられているのかもしれませんね。その「腕」の当たりが生身の人間の痕跡そのままに「折れ曲がる」という描写はできるかもしれませんが、それを「淫靡」と描写したとたん、この「ジャケット」は生々しい存在として、臭い始めます。生ぬるい体温を持ち、生臭い息を吐き、生温かい「淫靡」な臭いを発し始めるのです。脱ぎ捨てられた「ジャケット」をここまで生々しく表現できる感覚は、まさにクズウジュンイチという作家の持つ奇才でありましょう。いやはや驚きました。

地

古着屋の倫敦臭きジャケツかな
樫の木
 こちらは「ジャケツ」部門で「天」に推したかった作品です。毛糸編みの古い「ジャケツ」を「古着屋」で見つけたのでしょう。イギリスの紳士が着ているような「ジャケツ」だなあという印象が「倫敦臭き」という比喩となったに違いありません。
 同じような発想で「ジャケットを脱げば倫敦の夜霧のにほひ」という緑の手さんの句もあったのですが、この感覚を季重なりにならぬよう表現すれば、樫の木さんの作品になるのかと思います。「ジャケット」と「ジャケツ」の違いを読み解いていくにも、対照的な二句であります。
ジャケットの憤死している赤いソファ
三重丸
 「天」に推した「ジャケット」は「淫靡」でしたが、こちらは「憤死」です。一日の労働の果ての「憤死」と読むか、男女の関係における「憤死」と読むか、さらにさらにドラマは枝分かれしていきます。そんな想像を掻き立てるのが「赤きソファ」の存在かもしれないなと思います。
ジャケットの鳥のかたちに眠りをり
内藤羊皐
 「淫靡」「憤死」の次は「鳥のかたち」です。こうなると一気に優しくなりますね。「ジャケット」を二つに折ってソファに置くと、なるほどこうも見えますね。「眠りをり」は「ジャケット」の持ち主であり「ジャケット」自身であり、と重ねた読みを展開してもよいかと思います。
ジャケットや同志が眠る丘の上
えちくらい
 「同志」とは、かつて戦争を共に戦った兵士でしょうか。大学紛争の仲間、文学運動の仲間、新しいプロジェクトに挑んだ仕事仲間、さまざまな「同志」が浮かんできます。「同志が眠る丘の上」に佇む「ジャケット」は、(兵服やスーツではない)初老のイメージ。静かな時間と思いを、季語「ジャケット」が表現しています。
おさがりのジャケット何の臭いだろ
三島ちとせ
 お父さんから叔父さんから先輩からもらった「おさがりのジャケット」を、ありがとうございます!と手に取ってみると、今まで嗅いだことのない「臭い」がしているのに気付きます。ナフタリンでも煙草でも酒でもない、未知の「臭い」。誰かの人生が染みた「臭い」の「ジャケット」は,ずっしりと重く作者の手にあります。
ジヤケツトの裏に象やら戦車やら
葦信夫
 「ジヤケツトの裏」を描いた作品も何句かあったのですが、「象やら戦車やら」という取り合わせの妙に笑ってしまいました。が、案外すごく有名なデザイナーのセンスかもしれないと、小市民のワタクシは微妙に畏れ入っております(笑)。「~やら~やら」という述べ方も軽やかで、句意に似合っていますね。
ジャズメンのジャックのジャケットは蛇紋
ゴマ四郎
 「ジャケット」の「ジャ」という音で遊ぼうという発想の句も幾つかありましたが、その中ではこの句が最も季語としての「ジャケット」を表現できています。「ジャズメン」「ジャック」「ジャケット」「蛇紋」で順々に光景が完成し、映像的にも焦点が絞られていく構造も巧いです。
山小屋のやうな貴方のジャケットよ
こま
 「山小屋のやうな」が「貴方」にかかるのか、「ジャケット」にかかるのか、はたまた「貴方のジャケット」全体にかかるのか、多少読みを迷いましたが、最終的には同じイメージに収れんしていくので、これはこれで良いかと納得しました。「山小屋のやうな」という比喩は、「貴方」という人物の人格であり体格であり人柄であり、また「貴方」の「ジャケット」を着せかけられた時の作者の心持ちでもあるのでしょう。さりげない恋の句かなあ。
ジャケットや磯の香りのウヰスキイ
田中ブラン
 この句を読んだとたん、ある「ウヰスキイ」の香りをありありと思い出しました。なんと驚いたことに、作者のコメント欄にあった具体的な酒の名前が、まさにワタクシの鼻腔に香ってきた酒の名!こんなこともあるのだと吃驚して、思わず「地」に選んでしまいました(笑)。田中ブラン君、いつか一緒に酒飲もうな♪
●ツイードのジャケットとラフロイグ!(=強烈な個性を持つアイラ島のスコッチ)/田中ブラン

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