俳句ポスト365結果発表

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第172回 2017年5月18日週の兼題

日焼

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天

擦れ違う日焼の群れの塩素臭
江口小春
さまざまな人物のさまざまな場所での「日焼」を描いてくれた作品の数々。楽しませていただきました。「天」に推したい句はたくさんありましたが、今回は一瞬の実感を切り取ったこの作品を!
「擦れ違う」という複合動詞は、人物と人物の短い時間の動作を描写。どんな人物と擦れ違ったのだろうと思った瞬間、「日焼の群れ」というフレーズが出現します。作者の側は一人、向こうからやってきたのは見事に「日焼」した一団。光景が明確に再現されています。
そして、最も誉めたいのが下五。「日焼の群れ」と擦れ違う瞬間、「塩素臭」がしたという嗅覚です。体から髪から匂ってくる「塩素臭」は、長い時間プールで泳いだ人ならではの特徴。「日焼の群れ」とありますから、中学や高校の水泳部ではないかと読みました。同じ「塩素臭」を匂わせている可能性としては、オリンピック選手とかも想定できますが、彼らは立派な屋内プールで練習しているでしょうから、「日焼の群れ」という表現にはならない。プール帰りの親子の可能性も考えましたが、その賑やかな明るさに対して「日焼の群れ」という措辞はニュアンスが違いますね。
「擦れ違う」という時間を切り取りつつ、「日焼の群れ」という人物たちをリアルに想像させる言葉の選択。さらに、その「日焼の群れ」が発する「塩素臭」を瞬間的にキャッチする嗅覚。俳人らしい鋭敏なアンテナが、日常の何気ない出来事を見事に切り取りました。

地

なりはひは明らかならず日焼の背
クズウジュンイチ
上半身を脱いでいる人物に出会ったのは、浜辺でしょうか、公園でしょうか。「日焼の背」の日焼け方が尋常ではないのでしょう。「なりはひ」とは、生計を立てていくための仕事。この日焼け具合は、一体どんな仕事をしている人なのだろうという疑問が心を過ぎるほどの「日焼の背」が見えてきます。
日焼とも翅を捥がれし痛みとも
とおと
「日焼」の痛みも侮れません。日焼けと火傷は紙一重。その痛みを「翅を捥がれし痛み」とイコールで並べる発想が面白い一句です。まるで自分が蝶になったかのように、「日焼」の痛みを感じとれるのが作者独自の感性。「~とも~とも」という型を選んだことも、この発想をうまく表現し得た要因の一つでしょう。
島の子も旅の子も日焼けかゆいかゆい
ぐわ
「日焼」は痛いだけではありません。「かゆいかゆい」もリアルな症状。「旅の子」だけではなく、夏の太陽に慣れっこの「島の子」だって、「日焼」の痒みは同じ。下五字余りにした「かゆいかゆい」が可愛くも情けなくて、面白作品です。
配球にまだ頷かぬ日焼の眼
かま猫
「日焼」というと甲子園を思い浮かべた人たちも多いようです。「配球」という一語の持つ言葉の経済効率。「配球にまだ頷かぬ」というフレーズによって、野球のバッテリー間のやり取りが続いている様子がありありと伝わります。下五「日焼の眼」と焦点を絞った点も巧い。勝負の「眼」の迫力を活写しています。
日焼子がエラーのグラブ叩く叩く
隣安
これも甲子園でしょう。「日焼子」の動作を中七下五で描写しました。「エラー」という場面、「グラブ」を悔しくて「叩く」という動作が、見事に切り取られています。下五「叩く叩く」のリフレインが、映像と共に、選手の表情まで想像させます。
日焼子の眼へ照り返すチューバ
樫の木
こちらは応援団席ですね。ブラスバンドの一団の中、光を放っているのが金ぴかの「チューバ」。前半の「日焼子の眼へ」と焦点を絞り、「眼へ」何がと思わせておいて、「照り返すチューバ」と描写する。順の効果を熟知しての一句、さすがです。
日焼して二言めには波のこと
かるかるか
「日焼して」という状況からの展開が、軽くもあり気怠くもあり。「二言めには波のこと」しか言わないのは、波だけを見つめる海の休暇を心から楽しんでいるのか。はたまた「波のこと」しか言えない恋人同士のはにかみの時間なのか。様々な人物が浮かんでは消えていく、夏の午後。
角笛を空へ日焼の象使い
かまど
メルヘンの「日焼」も一句いただきました。「角笛」を「空」へ向かって吹いているのが「象使い」であるという光景はまるで絵本の世界のよう。いやいや、ひょっとすると現地でこんな「象使い」を見たのかもしれませんが、一句の味わいとしては季語「日焼」の楽しさを別の角度からみせてくれた作品として心に残りました。
予備校にそれは見事な日焼の子
トポル
どんな場所で「日焼」の人物に出会っているのか、と発想することも有効です。「予備校」の一語で、場面を確定させ、「それは見事な日焼の子」を登場させる楽しさ。余裕しゃくしゃくの「日焼」か、すでに捨て鉢な「日焼」か。想像がさまざまに膨らみます。
そんなこと日焼の顔で言われても
耳目
これは会社かな。悠々と夏季休暇を海外で楽しんだ上司が、ハワイ土産かなんかを部下に配った後で、「君、この資料はなんだ?!」なんて言い出したのでしょう。自分は休暇を楽しんでたくせに、「そんなこと日焼の顔で言われても」納得できない!と心のなかで呟くOL。そんな場面を想像して、笑えました。
証人の日焼がどうも嘘つぽい
初蒸気
まさか「日焼」で裁判所が出てくるとは思わなかった(笑)。俺はね、ずっと野外で仕事しているから、あの日その男が不審な行動をとっていたのをこの目で見たんだよ!なんて、証言しているのでしょうか。裁判員裁判の法廷にかり出された一般人の呟きか、と読みました。「証人の日焼」は、日焼サロンで無理やり焼いたみたいな「日焼」に見えるけど……なんて、疑っているのか。
同時投句には「おばあさんは川で洗濯した日焼」も相変わらずの自在な発想。初蒸気ワールド、楽しませてもらいました。

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