俳句ポスト365結果発表

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第173回 2017年6月1日週の兼題

秋櫻子忌

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天

白樺のあまき樹液や群青忌
比々き
本来であれば傍題ではなく、ズバリ「秋桜子忌」の句を「天」に推したいところなのですが、「紫陽花忌」「喜雨亭忌」「群青忌」など、魅力的な傍題も捨て難い今週。この句を推させて下さい!
秋桜子の「白樺」の句といえば、「白樺に月照りつつも馬柵の霧」「白樺を幽かに霧のゆく音か」などが思い浮かびます。「白樺」という素材は、まさに印象派のような明るさ。「啄木鳥や落葉をいそぐ牧の木々」に代表される秋桜子らしい世界です。「白樺」の「樹液」なんて舐めたことはないのですが、「あまき」の味覚を読み手それぞれが追体験し、「~や」という強調を味わいます。
「白樺のあまき樹液や」というフレーズに対して、仮に「秋桜子忌」をもってくると、「秋桜」という植物を思わせる文字面が「白樺」と相殺。「紫陽花忌」も同じです。「喜雨亭忌」だと「喜雨」が微妙な因果関係を匂わせます。「群青忌」は、「白樺」との色の印象が美しく、さらに秋桜子作「瀧落ちて群青世界とどろけり」の世界も同時に立ち上がります。「白樺」の林の向こうにあるに違いない渓谷や「瀧」が想像されて、涼やか。うっとりと素敵な句。
以下は、作者の体験です。
●10年ほど前の夏、貸自転車で1泊2日かけて秩父を回ったことがあります。その貸自転車屋さんのお店で売っていたのが「白樺のジュース」。白樺に疵をつけて染み出てくる樹液を集めたもので、その樹液を採ったという白樺も庭先にあり、今年採ったら来年は休ませないと枯れてしまうとも言っていました。珍しいものには目がない私。早速買って飲んで見ましたが、爽やかに甘かったのを覚えています。/比々き

地

あをかきに万葉のいろ喜雨亭忌
永井潤一郎
「あをかき」は「青垣」、青々とした山々が周りを取り囲む様子を青い垣に見立てた言葉です。その土地を言祝ぐ言葉でもあります。
秋櫻子は万葉調と呼ばれる調べを俳句に取り込んだ人でもあります。周囲の青い山々は「万葉のいろ」であるよ、折しも(秋桜子の亡くなった)喜雨亭忌でもあるよという一句は、秋桜子への尊敬、倭の国への言祝ぎを詠っているのです。「喜雨」の印象が、山々の青をますます美しくするかのような印象も。
書架922-3箔押し金よ秋櫻子忌
としなり
こんな体験もそのまま一句になるのだなあと、感心。「書架922-3」に数詞のリアリティがあります。中七「箔押し金よ」という色と詠嘆が、「秋桜」という文字を含む季語「秋櫻子忌」と、つかづ離れずのイメージを構成しています。
以下も、作者の体験です。
●歴史ある大学図書館を利用させて頂いている。秋桜子と検索すると一画面に収まりきれない蔵書がヒットした。表示された本棚へ進むと、背表紙に水原秋桜子の金文字が並んでいた。/としなり
師系てふみづ溢れたり紫陽花忌
夜市
秋桜子は、虚子のもとで四Sと呼ばれる高弟でしたが、次第に虚子の主張に違和感を持ち始め「師系」から離脱します。「てふ」は「ちょう」と読んで、「~という」という意味。「師系」から溢れ出た「みづ」は、新しい師系を作ります。「紫陽花」の一語を含む「紫陽花忌」という季語が、瑞々しい印象を醸し出します。
群青忌大河は時を急がざり
とおと
「瀧落ちて群青世界とどろけり」から生まれた傍題「群青忌」を、象徴的に表現。瀧を落ちていった水は、やがて「大河」となります。「大河」は「時」を急ぐことなく、ゆったりと流れ、大きな時流を作っていきます。水原秋桜子という俳人の業績を思わせる、悠々たる一句です。
産道はひかりへ続く喜雨亭忌
鞠月けい
産婦人科医であった秋桜子からの発想です。「産道はひかりへ続く」というフレーズは、赤ん坊が生まれてくることへの賛歌でありつつ、比喩的な意味も含んでいます。「喜雨」という言葉を含む季語「喜雨亭忌」は、命をつなぐイメージをうまく表現しています。
胎脂ぬぐう秋桜子忌の夜明け前
かみつれ
産科の現場を詠んだ句も沢山ありましたが、「胎脂ぬぐう」のリアリティにハッとします。まさに産婦人科医の日常の行為。下五「夜明け前」という時間にも臨場感があります。この句の場合は、他の傍題ではダメですね。「秋桜子」という人物がストレートに想像されてこその一句です。
捩れたる黒き臍の緒群青忌
豊田すばる
「臍の緒」を入れた小さな桐箱でしょうか(イマドキは、そんなものに入れないのかな)。乾ききって「黒」く「捩れ」ている我が子の「臍の緒」に、「群青」の一語を含む季語「群青忌」が鮮やかな印象を添えます。
クレゾール匂ふ長椅子紫陽花忌
トポル
秋桜子の働く現場は「クレゾール」の匂いも親しいものとしてあったに違いありません。「クレゾール匂ふ長椅子」は待合室でしょうか。季語「紫陽花忌」に含まれる「紫陽花」の一語。秋桜子を慕いつつ、雨に揺れているのかもしれません、受付窓口に飾られているのかもしれません。
喜雨亭忌やもりのつらの少し濡れ
いごぼうら
忌日の季語は、季節感というよりは連想力を核としていますので、別の季語と取り合わせても、あまり違和感はありません。「喜雨」の一語を含んだ「喜雨亭忌」は飄々とした味わい。雨を喜び、書物に没頭する秋桜子も、こんな光景と出会っていたかもしれません。「やもりのつら」という表現、「少し濡れ」という描写。地味ですが味のある一句です。
光漲る秋櫻子忌の野球場
樫の木
野球好きだった秋桜子。「ナイターの光芒大河へだてけり」から「ナイター」という夏の季語が生まれました。これも、他の傍題では成立しないタイプの一句。「秋櫻子忌」を中七に入れてくるのも、技あり!です。
秋櫻子忌のネップモイ乾して星
ウェンズデー正人
秋桜子はお酒はほとんど飲まなかったですが、酒ネタの句は案外ありました。「ネップモイ」とは、ベトナムの焼酎。意外な取り合わせに味わいがあります。
「秋櫻子忌」は、秋櫻子という人物が全面に立つ季語。秋桜子の忌日は7月17日。ベトナムの酒を飲み「乾し」て見上げる「星」。気が付けば、そうか今日は「秋櫻子忌」だったか、という感慨。秋桜子は酒を飲まなかったらしいなと思いつつ飲む「ネップモイ」の豊かな香ばしさと甘い香り。「白樺のあまき樹液」も「ネップモイ」も、その甘やかな豊かさが「秋櫻子」に似合うのかもしれません。

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