俳句ポスト365結果発表

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第176回 2017年7月13日週の兼題

菊日和

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天

ひかひかと手話の一団菊日和
とおと
「菊日和」と「秋日和」の違いについて、改めて考えさせられた今回の兼題でした。季語として取り合わせる時、どちらを選んでも一句としては成立するのですが、どちらを選ぶことがよりよい効果をもたらすか、そこが大事な選択となります。ポイントは「菊」の一字。菊の咲き薫る映像を含んだイメージが、効果的に生かされてるか否か、の判断になります。
今回推したいこの一句。まずは、「ひかひか」という不思議なオノマトペに惹かれます。しかも「ひかひか」が交わされる「手話」に対する擬態語であることに驚きます。ひらひらと動く手、目に見えない言葉がその空間を飛び交っている感覚。「一団」とありますから、人数のイメージもまた「ひかひか」という音のない空間の厚みとなります。
「ひかひかと」どんな会話が交わされているのだろうと思った瞬間に出現する季語「菊日和」が、なんとも鮮やか。交わされているのは(一句の映像には映ってないけれど、確実にその世界には咲いているに違いない)「菊」を愛でる会話かもしれませんし、頭上に広がる秋晴れの美しさを喜ぶ会話かもしれません。
「菊日和」という匂やかな季語が、「手話の一団」という人物たちを包み込む。その様子もまた「ひかひか」というオノマトペに収斂していくような思いです。

地

漣の半分は影菊日和
鞠月けい
「漣」は光と影でできている、ということに気付いた作者。「漣」という小さな光の瘤は、その「半分」を「影」としつつ動いていくのです。微細な映像を美しく切り取った一句ですね。
上五中七が水の光と影のみの映像ですから、「菊日和」という映像のイメージを内包した季語を選ぶのは、実に効果的。「漣」の行き着く岸には野菊が咲きみだれているに違いないと、読者の脳内にはさらなる映像も浮かんできます。
菊日和影もハシビロコフの形
くらげを
「ハシビロコフ」は、「ハシビロコウ(嘴広鸛)」ですね。ペリカン目ハシビロコウ科ハシビロコウ属に分類される鳥類なのだそうです。「嘴広鸛」という字のごとく独特の姿をしていますので、「影もハシビロコフの形」という淡々たる形容に共感しないではいられません。
仮に「秋日和」とした場合、光と「影」の関係を単に述べただけで終わってしまう。「菊日和」という季語の効果が十二分に味わえる作品です。
はたらいている象つなぐ菊日和
酒井おかわり
生き物と取り合わせた句が思いの外たくさんありました。なぜか象の句も多かったのですが、「はたらいている象」という措辞が巧いですね。下五の季語が「菊日和」ですから、インドとかアフリカで労働している象ではなく、日本の動物園の象に違いないと読めます。また、平仮名書きの「はたらいている」は子どもたち相手に鼻で餌を取って見せたりしてる「象」かなと、具体的な映像も浮かんできます。中七終わりの「つなぐ」の一語も絶妙。繋いでいる大きな鎖も見え、その鉄の色合いと「菊日和」との対比も効果的です。
金糸猴の上向きの鼻菊日和
初蒸気
「金糸猴」は「きんしこう」と読みます。ゴールデンモンキーの俗称だそうです。辞書には【頭胴長70センチメートル 程度。鮮やかなオレンジ色と黒褐色の体毛をもち,孫悟空のモデルとされる。中国の四川省などに分布するが,個体数が減り,絶滅の危機にある。】と解説されていました。「上向きの鼻」とのみの描写ですが、この猿の顔つきの特徴が端的に書かれています。「金糸猴」と「菊日和」それぞれの字面の対比が面白く、「きんしこう」と「きくびより」という音もまた響き合います。
菊びよりかんときつねのとびさうな
緑の手
「きつね」という生き物の名前が入ってはいますが、生身のキツネという感じはあまりしません。着物の柄、のれん、コースター、小さなタペストリー、手ぬぐい、そんなものに描かれた「きつね」が「かん」と「とびさうな」「菊びより」でありますよ、と読みたい作品。「きくびより」「きつね」のキ音の中に響く「かん」という擬態語が「菊びより」という季語の空間に響く。そこに詩があります。
本山の銅鑼じやんじやんと菊日和
どかてい
「本山」という場所から「銅鑼」の音への展開。「じやんじやん」は銅鑼の音に対してはややありがちなオノマトペですが、下五「菊日和」の出現が鮮やか。高らかに「じやんじやん」と鳴り出す「銅鑼」の音が秋の陽射しを揺すり、「本山」の境内には、住職が丹精込めて育てた菊の鉢が並んでいるに違いありません。
受付の硯の乾き菊日和
いまいやすのり
「受付」は何の会場かなと想像が動き出します。「菊日和」だから葬式ではないだろうし、結婚式だと「乾き」という描写がそぐわない。結局たどり着いたのが、書道展とか絵画展とかの「受付」。芳名帳に名前を書くための「硯」かなと思い至りました。静かな会場、晴れやに並ぶ作品。「菊日和」の目出度い気分がぴったりです。
婦人部ときつねうどんと菊日和
赤馬福助
こんな「菊日和」もあっていいなと、楽しくなりました。「婦人部の」ではなく「婦人部と」と、全てが並立で置かれているのが、この楽しさを醸し出している理由。「婦人部」の人たちがいて、「きつねうどん」を売ってて、村の文化祭は気持ちの良い「菊日和」に恵まれました。文化会館と名付けられた小さな建物の外には、愛好家の皆さんがこれまた丹精込めた菊の鉢が並んでたりするのでしょう。
菊びより月の抱く水地の抱く火
めいおう星
「菊びより」からこんな壮大な句が生まれるとは思いませんでした。何よりも素材に驚きました。「月」は「水」を抱いており、「地」は「火」を抱いている。その雄大な感慨が「菊びより」の明るさの中に置かれることによって、時空が美しく結ばれていく。今夜は、改めて「月」を見上げてみたくなった作品です。
以下、作者のコメントも興味深い。
●完全乾燥の状態と長らく信じられてきた月の内部に驚くほどの大量の水が存在するらしいです。そう聞いてから、見上げる月が、美しい水風船に見えて仕方ありません。/めいおう星

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