俳句ポスト365結果発表

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第189回 2018年2月8日週の兼題

春潮

  • よしあきくん一期一会の一句
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天

春潮やしばし縮みてあきつしま
クズウジュンイチ
干満の差が大きいのが「春潮」だといわれていますが、科学的なデータでは最低潮位を記録するのが春なのだそうです。「あきつしま」つまり日本の国が最も広がるのが春。豊かな潮の流れをここまで俯瞰できるのが俳人の目なのだなあと、感心し共感しました。
広がる干潟では潮干狩り、岩場では磯遊びを楽しむ人たちもいます。やがて少しずつ潮が満ち始める時間がくれば、人々は三々五々帰り支度を始めます。一句を読み終わったとたん、「縮み」始める「あきつしま」というグーグルアース的映像から、干潟や岩場へと焦点が絞られ、そこにいる人々の動きや潮の干満が早送りの映像で見えてくる。こんな「春潮」の描き方あるのかとしばし感嘆の一句。

地

春の潮遅れて細い流れあり
としなり
船で航行していると、素人の目にも、潮の動きが見えてきます。潮と潮とがぶつかる渦潮もあれば、この句のように太い潮の後に「細い流れ」を見て取ることができる。「春の潮」を一物仕立てで切り取ろうと観察した努力作。「遅れて」という描写にリアリティがあります。
邑君の網に春潮ゆたかなり
くらげを
「邑君(むらぎみ)」とは村の代表者を指しますが、農民のかしら、漁夫の長という意味もあります。この句の場合は、網元でしょうね。古風な言葉が、古き時代の手触りを伝えます。引き上げる「網」から溢れるのは豊かな海水、生き物を育む豊かな「春潮」。この日の漁の「ゆたか」もありありと想像できる作品です。
春潮や備蓄タンクの浮きさうな
トポル
いきなり現代です。「備蓄タンク」がはるかに見えるのでしょう。作者は「春潮」に乗って走る船の上でしょうか。「浮きさうな」という描写が、春の駘蕩たる空気を表現しているかのよう。「春潮」と「備蓄タンク」との体感的遠近感も感じ取れます。
校舎から春潮眺めゐる白衣
はまのはの
「校舎」から「春潮」の流れが眺められるのですから、高台にある「校舎」の3階とか4階とかの教室でしょう。理科室を思ったのは下5「白衣」の一語からの想像か。春休みでしょうか、離任の決まった日でしょうか。「眺めゐる」にささやかな時間経過と春の愁いも読み取れます。
春潮の夜の河口の鳩羽鼠
井上じろ
「鳩羽鼠(はとばねずみ)」は紫色をおびたねずみ色。「春潮」の満ちてくる「夜の河口」の色をこう表現しました。「春」という季節の感触が「鳩羽鼠」の色として匂い立ってきます。助詞「の」を畳みかけながら映像を作り、一句の眼目である「鳩羽鼠」の色に焦点を絞っていくあたり、巧い構成です。
側溝のごぼりと噎せて春の潮
遠音
河口から遡る「春の潮」は、狭い「側溝」にも流れ込みます。この海水の動きは、「春の波」でもなく「春の海」でもなく、やはり「春の潮」と表現されるべきでしょう。「ごぼりと噎せて」という擬人化がリアリティのある音を聞かせてくれます。同時投句「まほろばは陸(くが)春潮の尽きざりし」は、大きな潮の流れ。どちらも秀句です。
春潮や冬の屍の仄臭し
理酔
暖かくなってきた海辺には、独特の匂いが立ち込めます。その磯の臭さに酔ってしまう人もいます。この句を読んだとたん、そうかあの臭いは「冬の屍」なのかと思い、いやいや実際に冬のうちに死んだものの一部が打ち上げられているのか……とも思いました。下5「仄臭し」が、春という季節を大づかみしつつ、虚の嗅覚を漂わせる。さすがの一句というべきでしょう。
月は膿み人魚は匂う春の潮
三重丸
さらに虚に踏み込んだ句もありました。「春の潮」の生暖かい臭さは、「月」をぼったりと膿ませ「人魚」をなまめかしく匂わせるというのです。この句も「春の海」でもなく「春の波」でもない、「春の潮」だから表現できる世界を生み出しています。
船底に咲うフジツボ春の潮
柝の音
春に咲く花はたくさんありますが、「船底」には「フジツボ」も咲くのだよという発想の楽しさ。「咲う」は「わらう」と読みます。このように書かれると、「フジツボ」とはまさに「咲う」ように育つ生き物だなあと、納得しきりです。
本当に椰子の実一つ春の潮
くりでん
♪名も知らぬと遠き島より~という歌そのままに、「本当に椰子の実」が「一つ」流れていることに驚く、その楽しさ。私も全く同じ光景に出会ったことがあり、船べりから「あの歌そのままや~」と笑った覚えがあります。が、それを俳句にするということを忘れていたよ!(笑) 作者くりでんさんの軽やかさに乾杯ですね♪

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