俳句ポスト365結果発表

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第207回 2018年10月18日週の兼題

重ね着

  • よしあきくん一期一会の一句
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天

重ね着て父恍惚の幹となる
次郎の飼い主
「重ね着」の「父」という発想の句はいくらでもありますが、後半の「恍惚の幹となる」という措辞に胸を衝かれました。「父」とはまさに「幹」のような存在ですが、今「恍惚」の人となっている。
この「恍惚」という言葉には幾つかの意味があります。何かに心を寄せうっとりする恍惚。美しい冬夕焼けに見惚れているのかもしれません。意識がはっきりしていない恍惚。人生に疲れ切っているのかもしれません。老人特有の病的恍惚。もはや作者である娘を認識できない父となっているのかもしれません。どの意味に読んでも、この句はそれぞれの味わいとなります。年輪のように「重ね着て」静かに佇む「父」。その「幹」のような姿に静かな感動を覚えます。
同時投句「重ね着て牝馬に打ちし◎」も、最後の二重丸の読ませ方が面白い。

地

重ね着の最後の袖が通らない
樫の木
まさに「重ね着」らしい一句。季語「着ぶくれ」との違いは、「最後の袖が通らない」のような途中経過が入ってくるのが「重ね着」の特徴の一つ。「最後の袖が通らない」という実感を読み手はリアルに共有します。
同時投句「重ね着の襟擦り切れて哲学科」は、袖ではなく「襟」であるところに「哲学科」っぽい(勝手なイメージだけど)世捨て人的無雑作が見えます。
重ね着の最後の色がそれではな
司啓
「重ね着の最後の」まではさっきの句と全く同じなのに、そこからの展開が笑えます。ここまで奇麗な色のものも重ねて着てきたのに、なんでよりによって「最後の色」をそれにするのか。「それではな」という台詞が、他人として突き放した感があってリアル。
重ね着ちくちく読経いよいよ佳境らし
一阿蘇鷲二
本堂は寒いからと親族一同喪服の下に「重ね着」しての法事を想像しました。いつもは着ないモノを念のためと着込んでみたら、首のあたりが「ちくちく」する。「ちくちく」と足の痺れに苛まれてきたが、和尚の「読経」も「いよいよ佳境」に入ってきたような気がする。小さな安堵が広がり始めている「重ね着」です。
同時投句は、以下それぞれの味わい。やはりこの作家は巧い。「重ね着の腹に病ひの猫眠る」「重ね着て産後の馬の様子見に」「重ね着の最後の穴を抜けにけり」
重ね着に探る陽物見つからず見つからず
凡鑽
前半「重ね着に探る」は、切符とか鍵とかを「重ね着」のどのポケットに入れたのか分からなくなって探している状況なのだろうと、読者の脳は勝手に想像します。ところが後半の「陽物見つからず」が傑作。ズボンのチャックのその奥を探しておりますという自虐に苦笑しきり。
同時投句「検診に開く重ね着曼陀羅華」中七の「開く」は「はだく」とも読みます。作者としてはそう読んで欲しいとのこと。この句も後半「重ね着曼陀羅華」が、恍惚感があって好き。
重ね着や波は自傷を繰り返し
あいだほ
「重ね着」と光景を取り合わせるのは案外難しいのですが、波打ち際の光景を巧く描いています。「波」が寄せては砕けていく様子を「自傷を繰り返し」と比喩。冬の冷たい光が砕け散るさまが痛々しく表現されています。この比喩から、「重ね着」の中に隠している手首にも自傷の傷があるのかも、と深読みを始める読者もでてくるのちがいありません。
同時投句「厚着して10対0の事故現場」「山荘のプードル誰よりも厚着」共に場面をありありとスケッチしています。
アイドルのショー重ね着のガードマン
アダー女
「アイドルのショー」に押し寄せる観客。アイドルの名前を書いたプラカードや団扇。お揃いのファッションでやってくる女の子たち。髪をつんつん立てた男の子たち。大きなお友達と呼ばれるオトナ。その喧噪の中、無表情に立っている「ガードマン」の「重ね着」に気づくのが俳人のまなざしですね。「重ね着」のみが漢字。そこだけ着ぶくれている気分です。
同時投句「重ね着や番記者の待つ永田町」は、「番記者」「永田町」がややお決まりっぽい展開だけど、ここにも「重ね着」があるよなという納得。
重ね着の霊安室の遺族かな
星埜黴円
「霊安室」は寒いですからと促され、コートを着込んで入っていくのでしょう。淡々たる語り口ですが、外気の寒さとは違う冷気、匂い、悲しみがひたひたと押し寄せてくる一句。最後の「遺族かな」という詠嘆が、映像と思いを伝えます。
同時投句「重ね着やカードのサインやや歪む」「重ね着のまま万歳を叫びたり」、小さな場面を切り取って、様々に想像させるテクニックの二句。
重ね着や倉庫三つを失つて
Y雨日
「倉庫三つを失つて」は火事かと読みました。勿論、倒産とか詐欺にあったとか、読み方は色々あってよいのですが、冬の季語「重ね着」が、冬の季語「火事」を思わせたのかもしれません。「重ね着」をした人物が、倉庫三つ分の焼け跡に立っている。そんな光景と共に、「失つて」のその先をも想像させる一句です。
重ね着空きつ腹詩はいつだつて黎明期
めいおう星
「重ね着空きつ腹」を長い上五として置き、中七下五で「詩はいつだつて黎明期」とリズムを取り戻します。貧乏で腹を空かせていて、でも「詩」を書きたい表現し続けたい。そんな滾る思いを腹に溜めている。「詩はいつだつて黎明期」という言葉に元気づけられます。ワタシたちの、俳句という17音詩も「いつだつて黎明期」だぞ!という気概をもって続けていきたいものです。
同時投句は愉快。「重ね着の仕上げに呼べば猫来る」
重ね着やちゃんと前向いて歩け
ちびつぶぶどう
「ちゃんと前向いて歩け」は世相への批判と読んでもよいですし、自分自身へのエールだと読むこともできます。今のワタシは、後者として読みたい(状況および心情)です。かっこ悪くムクムク「重ね着」してドタバタ必死で生きてるけど、下向いちゃいけない。ましてや後ろを向いてはお仕舞いだ。「ちゃんと前向いて歩け」よ、ワタシ。
以下、ちびつぶぶどう、中年の主張も♪
●ちゃんと前向いて歩こうと思った。そしたら、行き交う人達が呆れるくらい前を向かず、歩きスマホはもちろん、下を向いて無防備に歩いている。数えたらほぼ8割の歩行者が、前を向いていない。 平和な世の中とはいえ、ちょっとおかしいな。前を向いて歩こう!/ちびつぶぶどう

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