俳句ポスト365結果発表

  1. TOP >
  2. 結果発表 >
  3. ていれぎ

第213回 2019年1月24日週の兼題

ていれぎ

  • よしあきくん一期一会の一句
  • 初心者向け解説コーナー今週の俳句道場
  • 今週のお便り
  • 人・並選の俳句
  • 天・地の俳句

天

わがはいはネコでこのくさはていれぎ
高橋無垢
「ていれぎ」はアブラナ科の多年草。大葉種付花(オオバタネツケバナ)が正式な名前ですが、松山ではもっぱら「ていれぎ」と呼ばれています。松山の天然記念物でもあります。俳人宮坂静生さんが提唱する「地貌季語(ちぼうきご)」の一つ。これが兼題として出され、困惑した人たちも多かったはずです。松山らしさをどう出すかの一手として、夏目漱石著『我が輩は猫である』の一節を拝借。「わがはいはネコで」となりきっているのが面白い。小説の中の「ネコ」も英語教師として松山に赴任した漱石も「ていれぎ」は知らなかったに違いないという正直な思い。そんな困惑と共感を「わがはいはネコで」あって「このくさはていれぎ」であるという詩的定義で表現した発想が愉快な作品です。

地

御杖より種こぼれけむていれぎは
ひでやん
松山らしさを表現するために、弘法大師つまり空海のイメージを取り合わせる、という発想もありました。お遍路さんの持つ杖も「御杖」と呼びますが、この句の「御杖」は空海の杖。空海が杖を突いたところから湧き水が溢れてきたという伝説は各地にあります。この湧き水を、弘法水とも呼びます。水を湧き出させた「御杖」から「種」がこぼれて「ていれぎ」が生まれたに違いないという一句。「けむ」という推量、「ていれぎは」のあとの余白など、巧い作品です。
ていれぎや眼を明るうす独鈷水
富山の露玉
「独鈷水」は「とっこすい・どっこすい・どっこんすい・おこうずい」など様々な読み方があるようです。空海が「独鈷(仏具の一種)」を使って水を湧き出させたという伝説に由来します。清らかな水に群生する「ていれぎ」。まるで「眼」を明るくするかのように湧き上がる「独鈷水」が育くむ美しい緑です。
ていれぎや町ごとマッチ箱のやう
ヒカリゴケ
松山らしさを表現するために「町」の印象を取り合わせる発想もありました。「マッチ箱のやう」とは、夏目漱石が松山に赴任した時、「マッチ箱のような汽車」が走っていたと表現したところから引用したもの。「町」そのものが「マッチ箱」のようだとは、いかにも松山らしい表現です。今もお城を中心にまとまっている、暮らしやすい町です。
ていれぎや出べそのようなお城山
樫の木
松山の町を俯瞰すると、真ん中に「お城山」が在ります。「出べそのような」という比喩がいかにも楽しい作品。まるで日本昔話のような味わいの比喩です。こんな「お城山」が見える水辺に「ていれぎ」はすくすく育つのです。
ていれぎの諱のなんと長きこと
地球人
「諱(いみな)」とは、身分の高い人の実名。つまり「ていれぎ」の本名である「大葉種付花(オオバタネツケバナ)」を「諱」であると比喩したわけです。二つの名前のギャップを「諱のなんと長きこと」と洒落ている。ふふっと笑える一句です。
ていれぎのいかにもたのしさうな位置
蟻馬次朗
湧き水に生えている「ていれぎ」が「たのしさう」に揺れているのでしょう。その様子を「いかにもたのしさうな位置」に生えているよ、と捉えた点に俳人の目と心が感じとれます。湧き水のひかり、「ていれぎ」の動きもありありと見えてきます。
ていれぎや貧しき水の清らなれ
柊 月子
「貧しき水」とは、慎ましやかな湧き水と読んでもよいですし、貧しきものたちの拠り所となっていた水だとイメージを広げることもできます。今でこそ松山の天然記念物だと喜ばれていますが、「ていれぎ」を沢山摘み取って貧しい食卓の一品とした時代もありました。「貧しき水の清らなれ」に思いが溢れます。
ていれぎや川の鼻には棲む勿れ
めいおう星
「川の鼻」とは、流れに向かって鼻のようにせり出している土地のこと。「水量が増えると簡単に水に呑まれる地形です」と作者からのコメントも添えられていました。「住む」ではなく「棲む」ですから、そこに潜む生き物や川辺に育つ「ていれぎ」のことまでをも思いやっているかのような心情が感じとれます。川の鼻にすんではいけない、という古老の言葉のような「棲む勿れ」という措辞です。
こんな水では死ぬていれぎも我も
雪うさぎ
「こんな水」としか述べてないのですが、「死ぬ」の一語が読み手の胸を打ちます。「こんな水」になってしまったら「ていれぎ」が絶滅してしまうではないか。そんな水を飲んでいる「我も」また同じではないか。環境への思いが切実な一句になりました。同時投句「ていれぎを食べて愛比売を身籠りぬ」も魅力的な作品です。
ていれぎを知る新宿のホストかな
油揚げ多喰身
「新宿」という地名を入れつつ、ちゃんと松山を感じさせる発想に脱帽。「新宿」のクラブで「ていれぎ」の話題がでたのでしょう。「ホスト」の一人が、僕知ってますよ、子どもの頃に刺身のツマに添えられてて、でも子どもの舌には辛くて、なんて語ったのかもしれません。小さなドラマがパッキングされている作品。

ページの先頭