俳句ポスト365結果発表

  1. TOP >
  2. 結果発表 >
  3. 轡虫

第223回 2019年6月27日週の兼題

轡虫

  • よしあきくん一期一会の一句
  • 初心者向け解説コーナー今週の俳句道場
  • 今週のお便り
  • 人・並選の俳句
  • 天・地の俳句

天

轡虫と貧乏神のさびさびと
せり坊
「轡虫」はキリギリス科。傍題の「がちゃがちゃ」はその鳴き声から。馬の轡が鳴る音に似ているとは、なるほど納得の命名です。
秋の季語となっている虫たちは様々おります。例えば、鈴虫の別名は「月鈴子」。鈴を振るように美しく鳴くという命名です。鈴虫の音が響く夜に「貧乏神」なんてやってくるような気はしません。 庭とも呼べないようなウチの庭で、「轡虫」がガチャガチャ鳴きやがる。こんな夜に「貧乏神」がやってくるのか。いやいや、我が家には「轡虫」と「貧乏神」がすでに居着いているに違いない。
「轡虫」と「貧乏神」の取り合わせもさることながら、下五「さびさびと」という押さえが、「轡虫」の鳴く庭の様子、「貧乏神」の風体、作者の心情までを想像させ、飄々たる味わいを醸し出します。

地

女子寮の石鹸硬しくつわ虫
ゆすらご
「女子寮」という場所、そこの手洗いか洗面台に置かれている「石鹸」、それが「硬し」という感触、きっちり描写できていますね。「硬し」の一語が、下五「くつわ虫」と「女子寮の石鹸」をうまく繋いでいます。取り合わせの骨法を掴んでいる一句。
耳塞ぎたきはがちゃがちゃではなくて
茄子美
耳を塞ぎたいのは今聞こえている「がちゃがちゃ」の声ではないのだという語りに、心をハッと衝かれます。嗚呼、もう何もかもが嫌だ嫌だ!と耳を塞ぎたくなる日。「~ではなくて」の後の空白に作者の心が滲みます。
馬の尿は滝のごときや轡虫
亀田荒太
一体何の音かと振り向くと、厩舎に並ぶ「馬」の一頭の「尿」だと分かり、えっ?!と思う。「滝のごときや」という驚きにリアリティがあります。実際こんな感じですものね。滝のような尿の音がやむと「轡虫」の音が戻る。「馬」と「轡」のささやかな響き合いも計算済みの一句でしょう。
轡虫月をよごさぬやうに鳴く
きゅうもん@木ノ芽
「轡虫」のガチャガチャは濁った音なのに、「月」の美しい夜には「月をよごさぬやうに鳴く」と感じているところに詩があります。空には澄んだ「月」、草むらには「轡虫」の音。滑稽に傾きがちな季語「轡虫」をこんなふうに綺麗に描けることに拍手を贈りたいですね。
つくづくともろい切岸くつわ虫
みちる
「切岸」は切り立った崖です。崖を見上げているのでしょうか。崖を覗き込んでいるのでしょうか。火曜日「俳句道場」に「轡虫の食草が葛とは…!/アガニョーク」という情報が寄せられていましたが、この「切岸」には葛も生えているのかもしれません。「くつわ虫」の音にもポロポロ崩れてきそうな「もろい切岸」です。
轡虫人みなちょっと不良品
あいだほ
「轡虫」の傍題「がちゃがちゃ」からの発想でしょうか。「不良品」という言葉がこんな使われ方をしていることにドキッとします。「人」はみんな「ちょっと不良品」なんだよと言われてみると、我が身からガチャガチャと音がしているような気がしてくる。面白い作品です。
がちゃがちゃの旅路ざらつくほどの星
「がちゃがちゃの旅路」という詩語に心惹かれます。轡虫が生きて死ぬまでという意味かもしれませんし、オトナの絵本のような世界をも感じさせます。「がちゃがちゃ」が鳴けば鳴くほど、「星」たちは「ざらつく」のです。星々の心がざわつくのです。
無人ビルの鉄骨清か轡虫
ほろろ。
「無人ビル」は壊れて「鉄骨」が剥き出しになっている所もあるのでしょうか。「無人ビルの鉄骨」と「轡虫」の取り合わせは、鉄と轡のイメージを沿わせているわけですが、実は中七「清か」の一語が一句の要。秋の寂しさ、澄んだ空気をこの言葉がありありと伝えている。取り合わせの接点となっています。
壁をなす盾の光りて轡虫
小市
「壁をなす盾」って何?と思った瞬間、デモ隊に向けられる「盾」なのだと気づきました。それが光っているという視覚に「轡虫」の音が重なってくる。この季語の使い方は、むしろ比喩的効果を持たせようと意図しているのかもしれません。中七「~て」はプラスマイナスあろうかとは思いますが、実際にデモの現場に出向かなければ掴めない生々しい一句であることは間違いありません。
轡虫ひばばは後妻だったのか
りんたろう
あーあるよな、こういう話……と納得して、この子のささやかな驚きに共感してしまいました。祖母ではなく「ひばば」という年代的距離感が、この句のリアリティになっているのかもしれません。「轡虫」みたいにガチャガチャした「ひばば」だったのかもしれないし、「後妻」だったという事実への感慨が「轡虫」の音めいていたのかもしれません。「~のか」の後の空白も巧いですね。

ページの先頭