俳句ポスト365結果発表

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第229回 2019年10月3日週の兼題

初冬

  • よしあきくん一期一会の一句
  • 初心者向け解説コーナー今週の俳句道場
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  • 天・地の俳句

天

初冬や花弁のやうな付箋摘む
あいだほ
「初冬」と書いて「しょとう」と読むか「はつふゆ」と読むか。俳句は音数というヒントがあるので(ある程度までは)容易に判断ができます。「しょとう」の音読みの響きは硬くて暦上の用語めいていますが、「はつふゆ」の訓読みは温かみがあります。さらに「初」の一字には、厳しい冬を迎えるという重苦しい感情ではなく、新しい季節出会うささやかな心の華やぎが感じとれます。
「初冬や」という強調の後に「花弁」の一語が一句の世界をふわっと優しく展開していきます。何のお花?と思えば、それが書物、資料、書類等に貼られた「付箋」の比喩だと分かる。様々な色合いの「付箋」は「初冬」という季語の持つ、ささやかな明るさに呼応します。
さらに下五に「摘む」という比喩の動詞を置いたのも素敵です。大仕事が一つ終わって、あるいは書き上がって、「付箋」を一つ一つ外していく。その指先がまるで花を摘むようだと感じる心にもささやかな華やぎがあります。「花弁のやうな付箋」までは動かないモノに対する比喩でしたが、「摘む」の一語が入ることで、動く映像となります。比喩相互のバランスも絶妙な一句です。

地

鍵盤の一番右の初冬の音
純音
季語「初冬」を音の感覚で表現しようとした作品。「鍵盤の一番右」は最も高い音です。「初」の一字を繊細に感受しているからこその発想だと思います。「初冬の音」と言い止めた点も効果的です。
切り紙をひらいてはつふゆの形
木塚夏水
こちらは「はつふゆ」を形で表現したらどうだろうという発想。面白いのは、具体的にどんな形かを述べず「切り紙をひらいて」とのみ表現して、どんな「形」なのかは、読者に委ねたところ。読者の脳裏には様々な「はつふゆの形」が開かれていきます。
初冬のかごめかごめの中に犬
豊田すばる
子どもたちが「かごめかごめ」で遊ぶさまに「初冬」を感じているだけなら物足りないのですが、「~の中に犬」で俄然楽しい光景となります。「犬」を「かごめかごめ」の鬼に見立てて、子どもたちは笑っているのでしょうか。それとも、犬がトコトコと輪の中に入ってきたのかもしれません。心のほっこりする光景にも「初冬」を感じます。
初冬のそろばん教室の匂ひ
紫檀豆蔵
「そろばん教室の匂ひ」に「初冬」を感じるという嗅覚の発想。「そろばん」に接したことがない若い人たちも多いのかもしれませんが、「そろばん」世代としては納得の「匂ひ」です。手に手に持っている「そろばん」は木製。言われてみると「そろばん」の珠にはかすかな木の匂いがする。温かな手触りのする匂いです。
初冬や鳥籠の影美しき
一阿蘇鷲二
「初冬や」と強調してからの取り合わせ。「影」という映像=視覚で「初冬」を表現しました。窓には「初冬」の日差し、窓辺には「鳥籠」。その「影」がくっきりと床に映っている。それを素直に「美しき」と呟く心そのものが詩であるよ、と。
「鳥籠」に鳥がいないと読む人もいるかと思いますが、私はそこには鳥がいて、「鳥籠」の影の中に小さな影が動いているさまを想像しました。心がほっこりと温かくなりました。
同時投句「初冬や駝鳥の睫しづかなる」「初冬の時計の中のうなそこめく」も佳句。
街ははつふゆ映画のやうに妻を待つ
今田無明
「妻」との待ち合わせ。お互いに外出していての待ち合わせか、今夜は外でお食事しましょう♪という夫婦のデートか。「街ははつふゆ」という字余りの上五だけで光景が立ち上がります。「映画」を見ようとしているのかと思えば、「~のやうに」と比喩に展開。「妻を待つ」自分をそのように感じられるところに、心の華やぎがあります。平仮名で「はつふゆ」と表記した点にも心遣いあり。
待ち合わせの喫茶店がない初冬
沢田朱里
こちらは「初冬(しょとう)」という読みを選択した一句。「待ち合わせの喫茶店」は自分が指定した場所ではないか、と読みました。行ってみたらその店がないという経験はよくありますが、待ち合わせ場所に自ら指定した店がないとなれば、少々狼狽えます。下五「初冬(しょとう)」の響きによって、冬の初めの冷たい風も連想されて。
初冬のドアノブへ我放電す
ときこ
「初冬の」で始まる句は多かったのですが、この句は「初冬のドアノブ」と限定する用法です。一年中ドアノブというモノはそこにあるのですが、「初冬のドアノブ」と期間を限定することで、その時期の「ドアノブ(は)」と意味を展開します。助詞「へ」で、ドアノブに何を?と疑問に思った瞬間、「我放電す」と畳みかける表現が巧い。静電気が走る一瞬のバチッという感触を、生々しく追体験させられます。
はつふゆのはちみついよよいこじなる
こま
平仮名書きが優しい一句。「はつふゆの」と、これも限定する用法です。何を限定しているかというと「はちみつ」。冬のはじめの光のような蜂蜜の瓶がみえてきました。愉快なのは後半。「いよよ」は増々の意、「いこじなる=意固地なる」の擬人化は、ただの擬人化に終わらず、きちんと映像を作っています。このあたりが、さすがベテランの技術やな~こまさん♪
同時投句「初冬の葬儀指輪は殉死する」も、こまさんらしい視点の一句。
蜜漬に琥珀の角度冬はじめ
えむさい
「蜜漬」にしているのは栗か金柑か。百合根も蜜漬にするとコトバンクに書いてありました。「蜜漬」の瓶を眺めているのでしょう。「琥珀の角度」という把握そのものが詩です。「琥珀」の色合い、「角度」という硬い響きを、下五「冬はじめ」がずしりと受け止めます。
同時投句「袖口を掴んで初冬を漕いで」にも心惹かれました。
はつ冬の交番どれも匚
神山刻
これも「はつ冬の交番」と限定する用法。「匚」は「はこがまえ」と読みます。初冬の街を歩く。ふと「交番」って「どれも匚」だなと気づく。俳句を始めると、こんなことに気づくだけでなんだか得したような気分になります。こんな句に出会うと、「交番」を観察して歩きたくなる。「はつ冬」という表記も明るくて。好きだなあ、こういう句も。
同時投句「ビブスに首とおして初冬の空だ」は口語の魅力。

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