俳句ポスト365結果発表

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第231回 2019年10月31日週の兼題

鱈場蟹

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天

鱈場蟹この一本が水つぽい
一阿蘇鷲二
我が義妹のさっちゃんと蟹を食べにいったことがあります。調理師のさっちゃんは言います。「タラバよりはズワイがええな」と。私は、蟹であればどれも同じ味に思える程度の舌しかもってないのですが、さっちゃんの舌は「鱈場蟹」の足それぞれの微妙な味の違いが分かるらしく、まさにこの一句のような感想を述べるのです。
「鱈場蟹」がヤドカリの仲間なのだと初めて知った時、さっちゃんの舌は凄い!と思いました。そして「この一本が水つぽい」という食レポの如き呟きで、「鱈場蟹」に一物仕立てを作ってしまう力業に共感の拍手を贈りたい。そして作者一阿蘇鷲二も調理師のような精度の高い舌を持っているに違いない、と確信した次第です。

地

鱈場蟹持てば足みな項垂るる
可笑式
「鱈場蟹」の長い足を描写した句は沢山あったのですが、「持てば~項垂るる」という描写が見事です。甲羅の部分を持ち上げる動作まで見えてくるのが、まさに写生の効果。「項垂る」という動詞の選択がさすがです。
同時投句「鱈場蟹網走の安飲み屋かな」も地名の力が発揮されて。
人間の爪やはらかし鱈場蟹
高田祥聖
蟹の爪を平然と食べておりますが、「人間の爪」と比較するという発想を持ったことがなかったので、ハッとしました。「人間の爪やはらかし」からの展開が、作者の意図通りの効果をもたらしています。語順は大切ですね。
鱈場蟹しづかに重機めく深海
海底で生きている「鱈場蟹」を詠むという発想もいいですね。「しづかに重機めく」という中七全てが「鱈場蟹」の比喩になっています。「深海」で何かの作業をしている「重機」かのようにゆっくりと動く「鱈場蟹」。生きている時の暗紫色もその印象を強めます。
陸繋のポンコタン島鱈場蟹
星埜黴円
「陸繋」とは、陸繋砂州の形成によって主陸地と陸続きと化した、過去の島のこと。「ポンコタン島」を調べてみると、北海道根室市の港にある小さな島でした。響きが楽しい名前ですが、アイヌ語では「小さな集落」を意味するのだそうです。地名を取り合わせる発想の句も沢山ありましたが、あまり知られてない地名でも充分楽しめますね。
同時投句も固有名詞入り。「鱈場蟹火山は千島てふ名なり」「地を這いし根室の街や鱈場蟹」
熊の家てふ食堂のタラバカニ
池之端モルト
ネット検索の知識で申し訳ないですが、「クマのことはアイヌ語でキムンカムイ(山の神)といわれ、アイヌ語名を全部で83種類も有しています」という記述を読んで吃驚しました。そうなってくると「熊の家」は、熊たちが食べる山の幸川の幸という意味だけでなく、神が施してくれる食堂という意味合いでも読めるか、とも思いました。「家」の一語がそのような印象を醸し出しているのかもしれません。
同時投句「ウトロ漁協婦人部鱈場蟹茹でる」も賑やかでいい。
アイヌ語の鼻音は甘し鱈場蟹
古田秀
「アイヌ語」の唄を目の前で聴いたことがあります。子守歌でしたが、心がゆっくりと引き出され広がっていくような歌でした。「アイヌ語の鼻音は甘し」という描写に心惹かれます。「鱈場蟹」をアイヌ語でどういうのか調べたのですが、カタカナでは表記しにくい響きなのだということだけが分かりました。アイヌの子守歌を歌ってくれた、いつかの彼女の声で発音してもらいたいと思った「鱈場蟹」です。
鱈場蟹女給の尻を目で追ひて
亀田荒太
「鱈場蟹」の漁にたずさわる男たちが集う酒場なのでしょう。「女給」の一語が、ある時代の手触りを思わせます。「女給の尻」や「目で追ひ」という男の表情など、映画のワンシーンのような切り取り方が巧い。映画監督の視線で切り取った一句です。
堪察加は果てし陽物蟹工船
山名凌霄
「堪察加」はカムチャッカなのだそうです。この場合「陽物」は陰茎、男根を意味すると読めます。カムチャッカ半島の形をこのように比喩する発想にも驚きました。「蟹工船」という季語との取り合わせに様々なイメージが重なってきます。兼題が「蟹工船」ならば、これを天に推したい、鑑賞をさらに書きたいとも思った一句です。
たらば蟹甘いゴルバチョフが恋しい
蟻馬次朗
「たらば蟹」に対して「甘い」と言い切り、対句表現で「ゴルバチョフが恋しい」と畳みかける。時事を含んだこの取り合わせも巧みです。現在のプーチンは、なかなか苦い。北方領土問題も「たらば蟹」漁の行方も拿捕される船も、色々と厳しい。気の良い田舎の親父みたいな「ゴルバチョフ」が恋しくなるよという、これもさすがの一句です。
同時投句「鱈場蟹の口に蠢くなにかゐる」「たらば蟹はて眼球が見あたらぬ」も見事な一物仕立てです。

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