俳句ポスト365結果発表

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第232回 2019年11月14日週の兼題

雪女

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天

雪女の気配に雲の香が強い
酒井おかわり
歳時記で「雪女」という季語に出会う。それが天文に分類されていることに驚く。これは俳人アルアルというやつでしょう。擬人化された季語には、春の佐保姫、秋の竜田姫などがありますが、「雪女」はもっと人間との接触が濃い印象があります。伝説や怪談によって、生身の人間めいた「雪女」が様々に想像されるからでしょう。
今回は、できるだけ天文の季語であることを押さえた句をいただこうとキャッチャーミットを構えておりましたら、この句が飛び込んできました。
今日は「雪女の気配」がするぞ。「雪女」に遭遇しそうな、大雪になりそうな、そんな気配がするぞ。雪を呼ぶ「雲の香」がこんなに濃く匂っているものな。
このように書かれてみると、「雪女」というのは「気配」に違いないと思います。人間の側の想念が「雪女」を見せる、見てしまう。そんな「気配」なのでしょう。後半を「雲の香が強い」と体験的な措辞で押さえることで、「気配」という曖昧な印象が詩の言葉として定着します。そのあたりは十分考慮した上での一句に違いないと確信します。

地

雪女の息か神鏡砕きしは
RUSTY
兼題「竜田姫」の時に、こんな句がありました。「神鏡は昏い太陽竜田姫 ちゃうりん」 竜田姫に対して「神鏡は昏い太陽」を取り合わせた点が巧い一句でしたが、「雪女」ならば「神鏡砕きしは」となるのかと納得してしまいました。
神社の神霊として祀ってある鏡か、ご神体の前に置く鏡か。「神鏡」が砕けていることに驚いたとたん、ハッとするのでしょう。昨夜の雪の激しさ。これは「雪女の息」が砕いたとしか思えないぞ、と。「~か~は」と断定しない語り口が、巧い作品です。
あれは雪女だったと筆談す
あみま
雪の中から助け出された人物でしょうか。「あれは雪女だった」と書き付けられる、震えた文字。恐ろしさのあまり口がきけなくなっているのか、声を奪われたのか。様々な想像が交錯します。
祖父も知らぬ祖母の生ひたち雪女
ももたもも
気がついてみれば、うちの家系にも分からないことが色々ある、という発想でしょうか。「祖父も知らぬ祖母の生ひたち」という措辞にどんな季語を取り合わせるかによって、ほのぼのとした句にも恐ろしい句にもなる。「雪女」は、祖母の生い立ちの答えのように下五にひっそりと座っています。
逆立てる水の鱗や雪女
ウロ
凍りかけている湖を思いました。岸に近いところは凍り、湖の中心あたりは「逆立てる水の鱗」のように吹雪いているのではないかと。上五中七の比喩の鮮度が魅力。下五「雪女」という季語が出現したとたん、読者である私たちも「水の鱗」の向こうに冷たい影を見たかのような心持ちになります。
雪おんな致死量ほどの塩を買う
かもん丸茶
この発想にも驚きました。言われてみれば、雪や氷を溶かす融雪剤は塩化カルシウム。「雪おんな」にとって「塩」は、死なのですね。「致死量ほどの塩を買う」この雪女に一体なにがあったのでしょう。ここから始まる「雪おんな」の物語。
六軒の雪女しか居ない村
ざうこ
廃屋が「六軒」ある光景から、このような発想に至ったのかもしれません。この「六軒」は「雪女」の住んでいる集落。「雪女しか居ない」という措辞が、寂れた「村」の様子を想像させます。冷え冷えと昏い村なのでしょう。「六軒」という数詞が、妙なリアリティとなって。
あれは雪女のコロニーではないか
こじまはじめ
先ほどの「六軒の雪女しか居ない村」という発想と方向は同じですが、「雪女のコロニー」という措辞にさらに吃驚! 「コロニー」にはいくつかの意味がありますが、【一地域をある程度の期間占有する同一種または数種の生物の集まり】という生物学の意味にとらえるのが、よいかと思います。吹雪の中に見つけた集落は「雪女のコロニー」のように見える。まるで安部公房の世界に足を踏み入れたかのような、戦慄が走ります。
子の重さほどの石なり雪女
古田秀
「雪女」と知らず「雪女」と出会い、「子」をおぶってくれと哀願されたのかもしれません。気がついてみれば、「子の重さほどの石」を抱いて雪の中を彷徨していた。そんな怪談を一話聞かされたような心持ちになりました。
雪女泣くから子の首を絞めた
あるきしちはる
我が子殺しを犯してしまった女の供述のようでもあります。だってあの夜は「雪女」がしきりに泣いてたんです。だから私は「子の首を絞めた」のです、と。朝になってみれば、私は我が子の骸を抱きしめて、ここに座っていたのです、と。
ゆきをんな去つてこけしのやうな死者
今田無明
「ゆきをんな去つて」とは、吹雪の去った朝でしょうか。そこにあるのは「こけしのやうな死者」であるという比喩の、なんと恐ろしく生々しいことか。「こけし」のように真っ直ぐに硬い死体。「こけし」のように表情なく見開かれた目。比喩の力に圧倒される作品です。
今回の兼題「雪女」は、虚構の世界に生々しく息づいている季語でしたね。季語の力が生み出した作品の数々に、心かき乱された金曜日。力作、ありがとうございました。

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