俳句ポスト365結果発表

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第234回 2019年12月12日週の兼題

寒椿

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天

寒椿雪の温度となつてゐる
佐藤直哉
山茶花の変種のカンツバキもあるようですが、季語としての「寒椿」は冬季に咲く椿という定義になります。
意欲的な句が寄せられ、感覚的に好きな作品も沢山あったのですが、「寒椿ではなく、むしろ椿の句として仕上げたほうがよいのではないか」と思える句も少なくなかったように感じます。ならば寒椿の「寒」の一字を保証している句を推したいと、キャッチャーミットを構え直した上で、この一句を推すことにしました。
「雪」との季重なりですが、上五「寒椿」が主たる季語。雪の中の「寒椿」は赤に違いありません。「寒椿」にかぶさるように積もっている雪。もうすでにこの「寒椿」は「雪の温度となつてゐる」に違いない、という気づきに詩があります。
つまり、寒椿に雪が降っている光景を描写するのではなく、「雪の温度となつてゐる」という措辞によって、伝えたい映像を読者の脳内にて再生させる。ここに新しい試みがあるのです。しかも視覚だけでなく触覚としての冷たさもパッキング。読み下した瞬間に、この「寒椿」に触れようと手をのばす自分を感じました。俳句は、まだまだ色んなことができるのだという刺激をもらった作品です。

地

真つ白な日本の隅に寒椿
すりいぴい
「真つ白な日本」を雪と読むこともできるのですが、日本という国のイメージと受け止めました。和紙、白壁、日の丸の国旗等の印象をもつ人もいるかもしれませんね。その「日本の隅」に凜々と咲く「寒椿」。日本人の心根のようにも感じられる「寒椿」です。
寒椿口から産んだような赤
高橋無垢
「寒椿」が赤いという句は山ほど届きましたが、中七の比喩にハッとさせられます。「口」の中の赤さを思わせつつ、子宮の赤も連想させます。「口から産んだような」という比喩の鮮度におののきます。まるで己の口が椿を産み落としたかのような生臭い恍惚感。
寒椿知るや海城だった過去
GONZA
海から切り立った崖の上に群生する「寒椿」を思いました。かつてここは「海城」であったという歴史の地。「寒椿知るや」の「や」は、知っているだろうか、いや知らないに違いない、という意味に取りました。下五「過去」のあとの余白に波音が響いてくるかのような作品。
ろんろんと美しき神水寒椿
にゃん
「ろんろん」は湧き上がる「神水」のオノマトペ。「神水」に対しての「美しき」が気になる読者もいるとは思いますが、「神水」の透明感や冷たさを何かの言葉で書きたかったのだろうと、好意的に解釈しました。「寒椿」の一つは「美しき神水」に落ち、冷たい水面を揺らすのだろうなと。
鈴の音の止まぬは怖し寒椿
RUSTY
「鈴の音」は神社の鈴かもしれませんし、お遍路の杖の鈴かもしれません。が、それらが止むことなく、時に強く、時に静かに鳴り続けていたとしたら……、恐怖がじわじわと押し寄せてくるに違いありません。「怖ろし」と言い切った後、身じろぎもしない「寒椿」も又、じわじわと怖ろしい存在に変わっていきます。
寒椿に空ごっそり落ちにけり
ゆうが
リズムが気になったのですが、全部足せば確かに十七音です。敢えて字余りにして中七を「空はごっそり」「空のごっそり」「空ごっそりと」等とすることも考えられるのですが、ともかくもこの発想にギョッとさせられたのです。
「寒椿に」の「に」は、寒椿によって空が落ちるという意味になります。「寒椿」の激しい咲きぶりによって、寒の「空」が「ごっそり」落ちたというのでしょうか。雪催の昏い空か。不吉と不条理が「寒椿」をますます鮮やかにみせる、なんだか怖ろしい作品です。
寒椿井戸はあたたかな暗がり
よだか
五音の季語「寒椿」に対して十二音のフレーズを取り合わせてはいますが、中七下五が破調です。ぎくしゃくしたリズムが気にはなるのですが、内容に見合ったリズムではあります。
「寒椿」の木は「井戸」の端にあるのでしょう。井戸の蓋の隙間から、井戸の底へと続く「暗がり」が見えます。「寒椿」の冷たさに対する、井戸の「暗がり」を「あたたかな」と感じ取ることができるのが、この作家独特の詩的センサーです。
寒椿瞼を昏く鶏ねむる
きゅうもん@木ノ芽
「鶏」の「瞼」に着目した句はあったかとは思うのですが、「寒椿」の冷たさ、鮮やかさとの対比に惹かれます。「鶏」の瞬膜を「瞼を昏く」と表現しているのかもしれません。科学と詩のはざまに切り取った「鶏」の表情。まるで上質な日本画を眺めているような心持ちにさせられます。
寒椿信仰は血のなかに凍る
ほろろ。
「信仰」というのはどう捉えればよいのでしょう。愛であり願いであり希望でありつつ、我が「血」の中に「凍る」こともある。「寒椿」の前でひたすらに祈るしかないのか。中七下五のフレーズは、まるで聖書の一節のような警句でもあります。
しぐしぐ込み上げるこれが怒りか寒椿
上五の音数を大きく余らせています。「しぐしぐ込み上げる」の9音が「怒り」の描写だと分かった瞬間、「寒椿」が強い光を発するかのような作品。赤い椿だと思うか、白い椿を感じ取るか。読者はそれぞれ「しぐしぐ」というオノマトペの心理的生々しさに囚われていくのです。

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