俳句ポスト365結果発表

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第242回 2020年4月16日週の兼題

梅雨寒

  • よしあきくん一期一会の一句
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天

梅雨寒ただよふまんばうてふいぎやう
倉木はじめ
「梅雨寒」漢字三つの後に平仮名が並んでいます。どこで一単語を構成するのかが分かりにくいので、ゆっくりと読んでいきます。「ただよふ」=漂う、「まんばう」=翻車魚(マンボウ)、なるほど翻車魚が漂っているのだと分かる。「てふ」は「ちょう」と読んで「~という」の意。「いぎやう」=異形と、意味が全て脳内で構成されたとたん、あ、この句は時候の季語「梅雨寒」を「まんばう」という異形の魚に喩えたのか、と気がつきます。翻車魚は一トン半から二トンにも及ぶ巨大な魚。胴体が途中で切れたような異形です。外洋の深海にいるかと思えば、ぽかりと表層に浮いていたりもする。その巨体の暗灰色は「梅雨寒」の色です。「梅雨寒」をカタチにすれば、まさにこのようなものではないかという作者の発想に脱帽いたします。

地

レシートにうさぎの単価梅雨寒し
ふるてい
「レシート」には買い物した品目、個数、値段が印字されているわけですが、ペットショップで「うさぎ」を買った、その「レシート」なのでしょう。普段、豚肉、鶏肉、牛肉と記されているのを見ている目には、「うさぎ」という生き物の「単価」が何やら寒々しいものとして映ったのでしょう。「梅雨寒し」は時候でありつつ、作者の心もちでもあります。
梅雨寒や鳩尾にいる何かいる
くま鶉
体調が悪い、胃が本調子ではない。そんな状態なのでしょうが「鳩尾にいる何かいる」と畳みかける口調が、切羽詰まっているようでもあり、狼狽え方が滑稽なようでもあり。「鳩尾」と書いて「みぞおち」と字面の効果も巧く使えている一句です。
マッチ擦る擦る臭ふ擦る折る梅雨寒
いかちゃん
要は「マッチ」を擦っているだけなのですが、このように動詞を多用して、コマ送りの映像を作るのもテクニックの一つ。「擦る擦る」でなかなか火のつかないマッチ棒が見えてきますし、「臭ふ」で一瞬火がつきそうになって火薬の臭いもしてきて、よし、今度こそと力を入れると、折れてしまう。4コマ漫画のような構成ですが、季語「梅雨寒」の湿気や冷たさもきちんと描けています。
テレビゲームに死んだ回数梅雨寒し
あいだほ
「テレビゲーム」をしている子たち、大人たちは「あ、また死んだ!」なんて声をあげますが、改めて「テレビゲームに死んだ回数」と言葉にされると、寒々とした思いに囚われます。「死」という文字、「死」という概念、誰でも百パーセント「死」を迎えるという事実。「梅雨寒」の時空は、冷え冷えと私たちを包んでいます。
あの群はきっと教員梅雨寒し
でらっくま
なんで一目で分かってしまうのでしょう。「あの群はきっと教員」に違いないと思うことがよくあります。私はかつて中学校の教員をしておりましたが、でらっくまさんも教員なのでしょうか。同族の匂いがするというか、空気を嗅ぎ取ってしまうというか。「梅雨寒し」によって、かすかな自嘲も伝わってくるかのよう。
梅雨寒の週刊ジャンプ鈍器めく
玉庭マサアキ
「梅雨寒」と「週刊ジャンプ」を取り合わせれば、残りの音数はほぼ5音しかありません。この後、一体何ができるのか?と思いきや、「鈍器めく」という比喩に着地。漫画雑誌の厚さをそう感じたのか、あるいは激しい絵やオノマトペがぎっしり詰まっていることに対する印象か。「梅雨寒の」という限定も効果的です。
梅雨寒のドンキ蛍光灯ぢぢぢ
月の道馨子
この句の「ドンキ」は、鈍器ではなくドンキホーテ。驚安の殿堂というキャッチフレーズで有名な安売り店ですが、この句も「梅雨寒のドンキ」と季節を限定しています。どんよりと薄ら寒い空気の中で「蛍光灯」が「ぢぢぢ」と鳴っている。電球が切れかかっているのでしょうか。作者が見た光景が、読者の脳内でほぼ百パーセント再生される。これが俳句の力です。
砂肝の虚ろを洗ふ梅雨寒し
トマト使いめりるりら
「砂肝」と「梅雨寒し」の取り合わせ。こうなると中七勝負です。「虚ろを洗ふ」という描写が巧いですね。「虚ろ」の一語を入れることで、映像だけでなく詩が確保できているのです。実際に砂肝を調理する手順を書いたといえばその通りですが、「虚ろ」は心理的なイメージを季語「梅雨寒し」につなげていく働きを持ち、作者自身の虚ろな心情も匂わせます。
梅雨寒や暗渠の水の胃に響く
木江
「梅雨寒」の頃ですから、「暗渠」を走る「水」の勢いも増しています。いつもは音が聞こえない「暗渠」から、強い「水」の音がする。あの音は確かに、耳で聞いているというよりは、体で聞いている感じがします。音が振動として「胃に響く」のかもしれません。自分の感覚を正直に言葉に置き換えようとすると、このような句が手に入るのですね。

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