俳句ポスト365結果発表

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第243回 2020年5月14日週の兼題

翡翠

  • よしあきくん一期一会の一句
  • 初心者向け解説コーナー今週の俳句道場
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  • 人・並選の俳句
  • 天・地の俳句

天

かはせみの飛ぶとききゆつとちぢむ空
どかてい
鳥の季語を描く場合、似たような別の鳥に置き換えても句として成立してしまうことが往々にしてあります。この句も念のため脳内にて、様々な鳥の季語に置き換えてみましたが、いやいややはりこれは「かはせみ」以外では成立しないと、納得させられました。
「かはせみ」の出現はいつも突然です。そんなに遠くないところからいきなり飛んでくる。「かはせみ」のあの速さは、波動として「空」に伝わり、空気が「きゆつ」と引き締まるのかもしれません。それを「きゆつとちぢむ」と表現したのです。さらに、あの色。太陽によって色が変化する「構造色」というものだそうですが、独特の青が視界に入ったとたん、眼球も「きゆつ」と縮むかのようです。私たちの心も「きゆつ」と動きます。今の、カワセミだよね?!と、まぶたの裏に残る色を確かめる。「かはせみ」の青は、一瞬「ききゆつ」と縮んだ「空」の残像のようでもあります。一句の調べもまた、スローモーションの映像のような味わいです。

地

翡翠の鋭くみづに咲くやうな
高橋無垢
「翡翠」の動きを「鋭く」と書き、水面に残す波紋を「咲くやうな」と描く。いかにも「翡翠」らしい美しさです。歴史的仮名遣いの平仮名「みづ」の文字もまた、実に瑞々しい。「やうな」も、たおやかな余韻です。
かはせみの青はかはせみだけの青
ゆすらご
この世のものではないような色を、神様は「かはせみ」に与えました。太陽から授かる構造色という名の「かはせみの青」。この「青」は翡翠という種のみに与えられた「青」だという断定そのものが、詩となりました。
ひとコマ前の翡翠も居て連写
ペトロア
全部足すと17音になる破調。1音1音が、コンマ何秒の「ひとコマ」をイメージさせます。「ひとコマ前」の残像としての「翡翠」を脳内に意識しながら「連写」し続ける眼球と指。カメラマンとしての実感があります。
四万十の翡翠糸魚川の翡翠
ひでやん
高知の「四万十」川、新潟の「糸魚川」、二つの川の名を配して、かたや「かわせみ」、かたや「ひすい」と読ませるとは、巧いことを思い付いたものだと。どちらの川も豊かで、どちらの「翡翠」も美しい。ご当地ソングを見事な詩にしてしまう、その手腕を誉めましょう。
一万歩十五日目の翡翠よ
ぐわ
毎日「一万歩」歩くようになったのは自粛生活のおかげかもしれませんが、その「十五日目」に出会った「翡翠」。この池に「翡翠」がいるらしいと聞いてはいるが……というニュアンスも含め、「一万歩十五日目」という数詞だけで状況をありありと描いているのが手練れの技だなあ。
かはせみの影みずいろに瞼撫づ
とりこ
あ! 今のは「かはせみ」?! と思う瞬間、私たちは網膜の残像を探します。「かはせみの影みずいろに」までは光景として、下五「瞼撫づ」を含めたその余白は残像を追う意識として、一句を味わわせてもらいました。
かはせみのいつも来る樹を伐るなんて
めぐみの樹
これから伐る予定であることを知ったのか。なんと伐ってしまったとは!という非難なのか。「かはせみ」が「いつも来る」ことを知っている人物は、いつもここで、この「樹」と「かはせみ」を眺めていたことも分かります。呟きがそのまま一句に。
かはせみのふれぬみづたそかれのみづ
古田秀
平仮名書きの句は、その表記の特性上、一字一字をゆっくりと追いつつ、脳内で意味が完成していきます。一句の時間がゆっくりと動いていく効果もあります。「ふれぬ」が「触れぬ」であり、「みづ」が「水」であり、「たそかれ」が「黄昏」という時間帯であることが分かっていくと、ゆっくりと光景が完成されていくのです。そこには「かはせみ」が触れなかった静かな「みづ」の美しい陰影があるばかりです。
青年期終はる かはせみは形見
RUSTY
心象風景として「かはせみ」が置かれています。「青年期」を辞書的意味で解釈しても致し方ないでしょう。各々自身の心の中で「青年期終はる」という感慨を手にする時期は必ずあるに違いありません。一字の空白の後に出現する「かはせみ」は、一瞬鮮やかな光を放ちますが、「~は形見」によって象徴化される。「青年期」の光と影が、「かはせみ」の飛ぶ速さで読者の心をよぎります。
翡翠もキング牧師の目も綺麗
ウェンズデー正人
「翡翠」という存在があまりにも鮮やかなものだから、取り合わせの句にするのはとても難しいことが、今回改めて分かりました。その中で、ハッとしたのがこの一句です。
「翡翠」=「綺麗」とイメージし、他の「綺麗」なものを探す。これが基本的な取り合わせの考え方ですが、まさか「キング牧師の目」がくるとは思いませんでした。「I Have a Dream(私には夢がある)」は「キング牧師」の有名な演説の一節。「キング牧師の目」が見据えていた「 Dream」は、「翡翠」のような類い稀な色をした未来なのかもしれません。今回の「天」に推したいほどの感銘を受けた作品です。

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