俳句ポスト365結果発表

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第251回 2020年9月17日週の兼題

  • よしあきくん一期一会の一句
  • 初心者向け解説コーナー今週の俳句道場
  • 今週のお便り
  • 人・並選の俳句
  • 天・地の俳句

天

くつさめや灯油ポンプは手動式
にゃん
「くつさめ」を強調する「や」は、まさに今、ハックション!とくしゃみした感じです。歴史的仮名遣いの大きな「つ」の表記が、ゆっくりと大きな嚔を思わせるから、面白いね。
すっかり寒くなってきたな、ストーブの灯油が切れるのも早いよな・・・などと思いつつ、灯油を入れるために勝手口から外に出た場面でしょうか。「灯油」を入れるために、手にした「ポンプ」は「手動式」。パフパフと握る感触は、まるで己の「くつさめ」の息を補充するかのようで、愉快です。
「くつさめ」の音と体感、「手動式」の我が手の感触、さらに「灯油」の匂いもツンと我が鼻腔を指します。軽く作っているようでいて、五感の様々をリアルに刺激する。配慮の行き届いた作品です。

地

鼻の奥嚔の玉が今割れる
シュリ
「嚔」の一物仕立てはかなり難しいので、まさかとは思っていたのですが、果敢に挑んだ作品が幾つかあって驚きました。
「嚔」という季語の成分は、聴覚が抜きんでているという分析。火曜日俳句道場にて、碧西里さんが解説してくれてましたね。その聴覚に続くのが触覚かと思います。鼻がムズムズしたり、目のあたりがチカチカしたりというあの感覚です。
掲出句の面白い点は「嚔の玉」という比喩。しゃぼん玉を吹く時のように、「鼻の奥」にて「嚔の玉」がじわじわ膨れていき、嗚呼嗚呼と思うちに、ハックション!と割れる。この動詞「割れる」によって、季語の成分の核を構成する聴覚と触覚が確保され、「今」という短い時間の表現が「嚔」の一物仕立てを成立させました。敢闘賞ものの一句です。
嚔する眉間ひかひか発光す
播磨陽子
こちらは「嚔」の触覚を「ひかひか」というオノマトペで再現。「眉間」という場所の指摘にリアリティがあり、「発光する」という比喩にオリジナリティがあります。「眉間」に「ひかひか」と光が集まってきて、一定量に達すると、「嚔」という音と息になる。季語「嚔」を詩的に表現し得た一物仕立てです。
嚔して頭蓋に揺れる水のあり
せり坊
ハックション!と「嚔」をする体感を自分に問い直しているうちに、「頭蓋」の中にある「水」が「揺れる」かのような感覚だと気づいたのです。下五「あり」と言い切った着地も効果的。これも比喩を含んだ一物仕立てです。
津軽の嚔南部の嚔聞き分けり
吉行直人
日本海側の「津軽」と太平洋側「南部」は、同じ青森県の中でも、全く異なる文化が培われてきた地域です。津軽弁と南部弁、それぞれ言葉の端々やイントネーションも違うのでしょうが、「嚔」を「聞き分け」ているところに俳味があります。たかが「嚔」から、それぞれの歴史の成り立ちが思われる。面白い視点です。
嚏や7番ホームてふ孤島
あいだほ
駅という場所にての「嚔」という発想の句はたくさんありました。が、「7番ホーム」という数詞の効果、つまり1番から7番までという空間の作り方が巧いですね。さらに「~てふ孤島」という比喩によって、人っ子ひとりいないホームに大きな「嚔」を響かせる。技術的にもしっかりした作品です。
囲みデッサン5時方向より嚏
いさな歌鈴
「囲みデッサン」ですから、真ん中に描くべき何かが置いてあるのです。みな一心に見つめ、手を動かしているのです。
面白いのは「5時方向より」という表現。自分の後方「5時」の針の「方向」から、いきなり「嚔」が聞こえてきたのです。一瞬、それに気を取られるのだけど、視線は集中している。そんな場面を思いました。言葉として裸体モデルとは書いてないのですが、一糸まとわぬ人物を思ったのは、冬の季語「嚔」からの連想かもしれません。
タイガース貧打に嚔続けざま
いしはまらんる
「タイガース」ほど俳句ネタになりやすい球団はないと思います(笑)。これまでにも「タイガース」を詠んだ句には、折々出会っていますが、そのほとんどが負けてる場面だったり、「貧打」だったり。「嚔」を「続けざま」にしてしまうのは、心が寒くなっている熱烈ファンの性というものかもしれません。阪神がんばれ!
老衰よ木くずこぼるるよな嚔
ウェンズデー正人
いきなり上五で「老衰よ」と詠嘆する構成は、ちょっと勇気がいります。こんな抽象名詞を上五に置いてしまうと、残りの十二音に季語を入れつつ、全体のバランスをとらなくてはならないのです。かなり難しい。それを可能にしたのは「木くずこぼるるよな」という比喩。人が老いていくイメージを「くず」「こぼるる」で表現しつつ、それらがみな「嚔」の喩えとして機能していきます。一句詠み終えて、嗚呼こんな「嚔」を聞いたことがあるよ、という切ない臨場感が押し寄せてきます。やがて我が身・・・の「嚔」です。
モナリザのあれは嚔を了えた顔
稗田鈴二郎
「モナリザ」のあの微妙な微笑みは、「嚔」を「了えた」あとのちょっとはにかんだ表情なのだというのです。よくもまあ、そんなことを思い付くものだと愉快になりました。あまりにも大きな嚔だったのか、可愛い嚔だったのか。あら、失礼・・・と軽く会釈したあとの表情があの「顔」かもしれないという作者の企みに乗っかって、楽しませてもらいました。
ワシコフの大きなくしゃみ露西亜型
亀田荒太
西東三鬼の句に「露人ワシコフ叫びて石榴打ち落す」があります。それを本歌取りしての一句。下五に敢えて「露西亜型」とダメ押ししてるのが、ヘタうまの味わい。秋には石榴を打ち落としていたワシコフ氏にも、深い「露西亜」の冬が訪れているのです。

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