俳句ポスト365結果発表

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第254回 2020年11月12日週の兼題

寒海苔

  • よしあきくん一期一会の一句
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天

寒海苔を洗ふ真水の匂ひ初む
くりでん
愛媛県西条市の海苔養殖場にロケに行ったことがあります。寒風の漁場では、船の上のウィンチのようなもので海苔網を引き揚げ、海苔だけを巻き取る?摘み取る?仕組みだったと記憶しています。
収穫した寒海苔は、すぐに作業場に運ばれ、水洗いします。「真水」で洗い、小さな砂やゴミを取り除くのですが、匂いのない「真水」に「寒海苔」の匂いが交じる瞬間、それを「真水の匂ひ初む」と表現したのでしょう。手の切れるように冷たい寒の「真水」に放たれる「寒海苔」。濃い潮の香が揺らぎます。それは、確かに「真水」に潮の匂いが移ることでもあるのだなと気づかさる一瞬です。
私はたまたまこんな現場に立ち合い、この「匂ひ」の変化に強く心を惹かれた体験をもっているのですが、作者もこの現場に立ったことがあるのでしょうか。もし、YouTubeなどの映像を観て、この句が生まれたのだとすれば、嗅覚のリアリティに感心します。写真吟行映像吟行のコツの一つは、視覚以外をどこまでリアルにとらえられるかです。そういう意味においても推奨したいと思った作品です。

地

寒海苔や千畳岩を太らせて
うづら@第二まる安
「千畳岩」と呼ばれる岩は全国各地にあるのでしょうが、上五「寒海苔や」によって、この海苔が岩海苔であること。この岩のある場所は北海道の江差かもめ島かもしれないこと等が想像できます。下五「太らせて」の描写によって「寒海苔」の豊漁も読み取れ、冷たく荒い潮に「寒海苔」が揺らぐさまも見えてくるようです。
寒海苔や浪のおほかみ吠えかかる
いしはまらんる
寒海苔の太る頃の寒い海をストレートに比喩。こんな「浪」では、今日の漁は無理なのでしょう。捕るにしても、干すにしても天候との相談。「浪のおほかみ」は狂暴であることと同時に、浪の音の不気味さも表現しています。下五「吠えかかる」は、漁に出られるものなら出たいがこの浪では……という思いも滲ませます。
海は牢獄めいて寒海苔絡みつく
けーい〇
これは岩海苔ではなく、海苔網だろうと思います。養殖する海苔を付着させるための海苔粗朶(浅い海中に立てる木や竹の枝)ではなく、沈めた網で育てる方法ではないかと。
前述のロケ現場。海中に沈められている海苔網が引き上げられていく時、この「海は牢獄めいて」に近い印象を持ちました。この詩句が、あの暗く冷たい「海」をありありと思い出させてくれた、と言い換えてもよいでしょう。前半の比喩から、後半の映像へ。「絡みつく」もまさに海苔網の形状をリアルに描写しています。
寒海苔を干しゐて髭に洟としほ
古田秀
「寒海苔」の「寒」の一字を保証する意味で、下五は良い目の付け所です。勿論似たような視点で、「寒海苔」作業の現場を書いた句が他にもありましたが、「洟としほ」という表現が的確で巧いですね。「寒海苔」を漉いた海苔簀を干していく作業もまた、寒風の中の仕事。この「髭」を眼前に観ているかのような一句です。
寒海苔の裏にそそける風の痕
トポル
海苔簀に乾いた「寒海苔」を一枚一枚はぎとっているのでしょう。「寒海苔」の「裏」の、ある部分がそそけたようになっているのです。嗚呼、これは寒風の「痕」に違いないと思う。その視点にリアリティとオリジナリティがあります。「そそける」という動詞の選択が映像的でもあります。
寒海苔干され烏の口の生臭き
トマト使いめりるりら
「寒海苔」の海苔簀が立てかけられている干し場です。産地によっては、広げ干したり、吊し干したりするところもあるようです。そこにやってくるのは烏。ずうずうしいほどに人馴れしている烏が、餌を探して寄ってくるのでしょう。後半の「烏の口の生臭き」という措辞が生々しく、「寒海苔」の強い香りと相まって、何やら圧倒されました。
寒海苔や静かに海の体臭来
伊予吟会 宵嵐
「寒海苔」の強い香りを、「海の体臭」であると把握した点に詩があります。「静かに~来」という表現は、ひたひたと静かな強さをもっています。「新海苔」「初海苔」ではない、まさに「寒」の一字の力を発揮させている作品です。
寒海苔や神の名のよなうっぷるい
古都ぎんう
「うっぷるい」は日本海に突き出す十六島鼻と呼ばれる岬で、岩海苔の産地です。「十六島」という地名を入れた句もかなりあったのですが、「神の名のよな」は正直にして的を射た呟きです。しかも場所は、島根の出雲市。まさに神の集う国です。日本海の冷たい潮が育てる見事な「寒海苔」です。
同時投句「経典のごとく寒海苔干されをり」も、面白い比喩です。
練炭に落つ寒海苔の屑香ばし
ははろ
製品になっている「寒海苔」ですが、非常にリアリティがあります。「練炭」で焙っているのですね。そこに落ちた「寒海苔の屑」が思わぬ強い香を放ったのです。その海苔は「新海苔」と同じものではあるのだけれど、「寒」という季節の匂いを感じ取ったのではないかと思わせる力があります。「練炭」との季重なりですが、バランスもとれていて、実体験の強みではないかと受け止めました。

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