俳句ポスト365結果発表

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第255回 2020年11月26日週の兼題

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天

御巣鷹はしづかな墓標鷹昇る
石井一草
兼題「鷹」の取り合わせは凄く難しいから、一物仕立ての句を天に推すことになるだろうと、そのあたりにキャッチャーミットを構えていたのですが、この句が飛び込んできました。
兼題「鷹」と「鷲」の違いをどう表現するか、という命題において、鷹の文字の入った言葉を使うやり方も定石の一つです。実際、今回の投句には「御巣鷹」という固有名詞を使った句、「御巣鷹」「墓標」二つの言葉を入れた類句もありました。が、敢えて今回これを推すのは、残りの音数の選択によって、作品の味わいは物凄く違ってくることをお伝えしたかったからです。
言うまでもなく御巣鷹山は、墜落事故のあった山。1985年( 昭和60年)8月12日のことでした。今も、事故当日には慰霊祭が行われていると聞きます。
この句のポイントの一つは「しづかな」です。俳句ではよく使われる単語ですし、油断するとありふれた使い方になったりもします。が、この句の場合は、御巣鷹山そのものが事故の記憶を抱えた深閑たる墓標として聳えている。「しづかな」は、その山の様子であり、鎮魂の静けさでもあるのです。
さらに下五「昇る」の選択も重要でした。仮に、下五が「鷹の舞う」「鷹舞へり」だったとします。(実際に動詞「舞う」を使った句は物凄く沢山ありました。)「舞う」と「昇る」の効果は愕然と違います。「舞う」の擬人化、ある種の華やかさは一句の鎮魂の想いにそぐいません。
かたや「昇る」は、渡りの前の鷹柱の動きを想像させます。「御巣鷹」で亡くなった方々の魂を抱き、魂を守るように「鷹」がゆっくりと天へ昇っていく。そんな印象を与えます。
たった17音しかない俳句ですから、一語の選択によって、味わいや効果が全く違ってくる。自分の句とあの句は似たような言葉を使ってる、類句だ! と騒ぐ前に、丁寧に分析してみましょうと、お伝えしたい。そういう意味において、有難い教材のような一句でした。一草くん、ありがとう。

地

野鼠へ縮まってゆく鷹の視野
俳句ファイヤー立志@TFP句会
実は「野鼠」と「鷹」の句もかなりありました。が、この句を「地」に推したいのは、描写の確かさが全く違うからです。
「野鼠」から始まると、私たちの脳内カメラは、野鼠を大きく映し出します。が、その後の描写の工夫が見事なんです。「へ」という助詞によって、野鼠へ向かってという方向が示され、さらに「~へ縮まっていく」のです。この中七によって、脳内カメラは野鼠の大写しから、カメラがぐーんと引いていき、「鷹の視野」まで一旦高く広がってから、再び「野鼠へ」向かって縮んでいくという、離れ業をやってるわけです。
これも、天に推して、同じように解説したいぐらいの作品でした。立志くん、ありがとう。
藪へ鷹突つ込み悲鳴一度きり
一阿蘇鷲二
一読、NHK『ダーウィンが来た』のドキュメンタリーを観ているような気持ちになりました。「藪」の中で起こっていることはなにも書かず、「悲鳴一度きり」という描写のみに託す。簡潔な描写でリアルな光景を描く。さすがの一句です。
鷹の爪より恍惚の耳垂るる
にゃん
「恍惚の耳」という表現に詩があります。「耳垂るる」によって、小さな野ウサギかもしれないと思いました。「鷹の爪」とクローズアップしてから、それが掴んでいる獲物の「耳」へと映像が動いていく。これもカメラワークが見事な作品です。
ただ鷹の食ひちぎる音風の音
中岡秀次
俳句において「音」をどう描くか、読者の耳に聞かせるか、というのも大きな命題の一つです。この句の「音」のリアリティにも圧倒されます。「鷹」が獲物の肉を「食ひちぎる」かすかな音が、我が耳奥に伝わってくるような、静かな迫力に感服します。一句に、二つの「音」を詠み込むのも難しいのですが、種類の違う音を見事に描きました。
鷹征けば傾ぐ関東平野かな
比々き
堂々たる「鷹」に対して「征」の一字の選択が見事です。さらに「征けば」は、征くときはいつもというニュアンスを表現しますから、その叙述も的確です。「傾ぐ」は鷹自身の視界を思わせつつ、「関東平野」の俯瞰図を見せる。さすがはベテランの技です。
天道より覗く鷹柱が卍
かもん丸茶
「天道」には幾つかの意味がありますが、天体が運行する道という意味で読みました。天体が運行する道から覗いてみると、複数の鷹がゆっくりと回りながら昇ってくる「鷹柱」は、まるで「卍」のようであるよ、という一句。視点の置き方、カタチの把握がユニークな作品です。
鷹しづか青き心臓もて眠る
眠る「鷹」をリアルに描いた句もありましたが、「青き心臓」という表現が新鮮な詩性です。「青」の一字の印象からでしょうか、蒼鷹を思い浮かべたものですから、鷹狩りの前夜のような静かな緊迫感が一句の底にながれているようにも感じました。
鷹はるか吾が墓小さくここに在り
RUSTY=HISOKA
自分の躰を離れた魂が、「鷹」とともに地上を離れていくかのような感覚です。「吾が墓」が「小さく」「ここに」在るという虚の世界。昇っていく魂。今回の天に推した句の、犠牲者のたましいたちは、こんなふうに御巣鷹という墓標を見下ろしているのではないかと、感銘を受けた作品です。
王の名を知らず墳墓の上を鷹
くりでん
日本の古墳を思う人もあれば、外国の墳墓を思う人もあるでしょう。「鷹」自身は、そこに眠る「王」の名を知らないまま、「墳墓」を見下ろして飛んでいくのです。歴史という時間と、「墳墓の上」という空間を悠々と飛ぶ「鷹」です。
ドーハ空港隣の客は腕に鷹
山辺冬里
こんな発想の句がでてくるとは思いませんでした。日本の空港だとちょっと考えにくい場面ですが、「ドーハ空港」といわれると、あるかもしれないと思ってしまう。これも固有名詞の力でしょう。「隣の客」という距離感が、「腕に鷹」という驚きの伏線となっていて、これもカメラワークが巧みでありました。

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