俳句ポスト365結果発表

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第256回 2020年12月10日週の兼題

狐火

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天

河川課のみな狐火を見しといふ
一阿蘇鷲二
兼題「狐火」らしくおどろおどろしい句が沢山集まりました。ひたひたと怖ろしさが押し寄せてくる秀句も多く、あれこれ選を迷っていたのですが、小さな疑問が再び浮かび上がってきました。狐火はなぜ地理の季語なんだろう、と。
この句は、いかに生々しい恐怖を描くかという視点ではなく、地理の季語であることの不思議から生まれた作品に違いないと気づきました。
河川課は、河川の整備、水資源やダムの対策、護岸の整備、災害復旧などさまざまな仕事に携わります。デスクワークだけではなく、川や水源の森などの現場へ足を運ぶのでしょう。
狐火? 見たことありますよ。いや、そんなに驚かれることじゃないですよ、河川課はみんな狐火に出会ってますから。
この句における「河川課」は、別の課に置き換えがたい真実味があります。しかも、当たり前のように淡々と語っているのが、逆に恐ろしい。河川課の一人一人がどんな状況で、どんな狐火を見たのか。一人一人の深層心理が、それぞれ違った狐火を見せてしまうのではないか。この一句から「狐火」のオムニバス映画が作れてしまうのではないか。そんなことも思った次第です。
「狐火」を描くために、こんな切り口があったのかと、勉強させてもらった作品です。

地

狐火や門灯ならばもつと右
おぐら徳
あの火はなんだろう、「門灯ならばもつと右」にあるし……と呟きつつ、再度その火をしげしげと見つめる。読者も怪しい火に目をこらします。中七下五の真実味が、「狐火」の存在をまざまざと表現します。
狐火の尾の長き夜や風強し
28あずきち
こちらの句は、折々「狐火」を見ている感じです。この「狐火」は炎の尾っぽが長いなと気づく。そうか、風の強い夜だからかと、納得する。切字「や」の位置が効果的で、下五の余韻が「狐火」にリアリティを添えます。
狐火の右の二つは新しい
富山の露玉
中七下五の叙述が巧いですね。「右の二つ」と提示することで、狐火が幾つか列になっていることが分かります。その二つに対して「新しい」としか述べてないのですが、色合いの対比、火の勢いなどがありありと想像できます。シンプルな表現で、大きな効果を手に入れている作品です。
狐火を見し夜は乳がようけ出る
ぐでたまご
「狐火」を見てから、何かが変わってしまうという発想の句は沢山あったのですが、「乳がようけ出る」という台詞が怖いですね。乳の匂いや赤子の泣き声が、一句の奥から伝わってきます。方言もまた「狐火」を効果的に描く働きをしています。
狐火を見しより月の物の来ず
樫の木
こちらも「狐火」を見てからの変化ですが、「月の物の来ず」は怪談めいています。狐火とまぐわってしまったのではないか、このまま月を経ていく腹に怪異のものが育っていくのではないか。そんな怖ろしさが、押し寄せてきます。
夫に似ぬ子は狐火のごと美し
清波
惹かれるのだけれど恐ろしいという「狐火」の本意を表現しています。生まれた子は、夫に全く似てない。そして「狐火」のように美しい、というのです。いつぞや狐火を見てから、月の物が来なくなったという樫の木さんの句と、まるで連作のよう。青白いまでに美しい肌をもった子に違いないと想像すると、ますます怖い一句。
情濃き狐火にして藻の匂
くらげを
怖いという点においては、この「藻の匂」も相当怖いです。「情濃き狐火」ですから、海の藻のように絡みついてくるのでしょうか。ふっと臭ってくる「藻の匂」は、海の死者の魂を思わせもします。嗅覚でも充分に恐怖が描ける。さすがの作品です。
狐火やぺてんぺてんと弾く琵琶
いなだはまち
「狐火」と「琵琶」を取り合わせた句もありはしましたが、中七のオノマトペがよいですね。まさに琵琶の音の表現ですし、「弾く」という感触でもあります。「狐火」を呼ぶ琵琶でしょうか、集まってきた炎たちが、ゆらゆらと揺らぎつつ、琵琶に聞き入るさまが浮かんできて、ほのぼのと恐ろしい一句です。
同時投句「戒名は長し狐火は明るし」の表現にも惹かれます。
化膿してなほ狐火の余臭あり
倉木はじめ
狐火の夜の怪我でしょうか。じくじく痛んで、いつまで経っても癒えないのでしょう。とうとう「化膿」してきた傷口からは、「狐火」の匂いがしているとは、なんと恐ろしいことか。「余臭」という表現が巧みで、「狐火」に虚のリアリティを添えています。
石千個夜には狐火とならむ
野良古
「~ならむ」は、断定の助動詞「なり」の未然形+推量の助動詞「む(ん)」が重なってできた連語です。意味は次の二つ。
1 断定的な推量の意を表す。…であろう。…だろう。
2 仮定の事柄や想像した事柄などを表す。…であるような。…のような。
河原の石千個は、夜になればみんな「狐火」になるだろうと読むか、なるような……と読むかで、一句の世界に微妙な違いが生まれます。
私は、断定的な1の意味で読みました。この人物は、それを知っていて、たぶん今夜も……というニュアンスで呟いていると読んだほうが、より恐ろしいのではないかと。そんな目で石を眺めると、それぞれの形がそれぞれの炎のかたちにも思えてきて、疑いつつも怖くなってくる。そんな一句です。
同時投句「踏みゆくはかつて狐火なりし石」も連作として秀逸です。

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