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初級者結果発表

2022年7月20日週の兼題

原爆忌

【曜日ごとに結果を公開中】

【優秀句】

  • 原爆忌ゆるゆる当たるウォシュレット

    井上れんげ

  • そしてまた死没者名簿原爆忌

    夏つばめ

  • 原爆忌掩体壕に干す肌着

    安武絹紬

  • げんばくきそらをとぶにははねがいる

    のはらなおみ(4歳)

選者コメント

家藤正人

初級コースの金曜日掲載は中級への昇級の目安。中でも特に目を惹く句についてピックアップコメントをお届けします。


「原爆忌掩体壕に干す肌着 安武絹紬」

掩体壕は愛媛県松山市にもあり、松山市指定有形文化財に指定されています。晩夏から初秋の季語となる「原爆忌」。軍用機を守るための分厚いコンクリートはまだ暑く灼けていることでしょう。濡れた肌着はみるみる乾いていきます。原爆忌を逞しく生きていく人間の営みを率直に書くリアリティ。


「原爆忌ゆるゆる当たるウォシュレット  井上れんげ」

なぜ「原爆忌」にこの取り合わせ!? と困惑しつつも離れられなくなった句です。科学は多くの人間の命を奪ったけれど、同時に快適な生活ももたらすもの。原爆忌という日に科学の功罪を思いつつ、安穏と自らの尻を清める水の心地よさ。歴史的重みのある季語だけに、カウンター的にこんな描き方も味わいを生みます。


「げんばくきそらをとぶにははねがいる  のはらなおみ(4歳)」

一見単純なおしゃべりの言葉を、季語「げんばくき」が奥行きのある祈りへと昇華してくれます。人間は科学の力で空を飛べるようになりました。その力が悲惨をもたらすものではなく、良きものをもたらす力であってほしい。下五の言い切りの潔さに初秋の澄んだ空を思います。その空にはなにか鳥でも飛んでいるのでしょうかねえ。


「そしてまた死没者名簿原爆忌  夏つばめ」

いきなりの上五の展開に意表を突かれました。この場面の前段になにがあったかは描かれないのに、その余白がこんなに詩を生むとは。次なる行動「死没者名簿」への言葉少なな接続も巧みです。そして、上五中七の生み出す効果を全てまとめあげる「原爆忌」の重み。いったい何度この名簿を指はなぞりなおしたのでありましょうか。


いずれもお見事でした。自信がついたら中級にもぜひ挑戦してみましょう!

  • 片足の鳥居の微熱長崎忌

    近江菫花

  • 爆心地から二キロ葉は瑞々し

    山川凛

  • 像は陽に当たれば白し原爆忌

    蜘蛛野はるか

  • 黒光る臍帯切りて原爆忌

    鈴木秋紫

  • 原爆忌水菓子少し残りけり

    井上たとぅや

  • 邪鬼の抜舌静かなる原爆忌

    亘航希

  • 原爆忌平和大通は綺麗

    眞さ野

  • 原爆忌こころの錆びの穴あまた

    素々 なゆな

  • 原爆忌子らはいずれも起きださぬ

    戸井島はな

  • 信号は真っすぐに青原爆忌

    竹の子

  • 草の声しづかな朝の原爆忌

    いまいやすのり

  • 原爆忌花屋は花を歌手は詩を

    シュレディンガーの獏

  • 折れた電柱の空洞原爆忌

    星屑放歌

  • 膨らみゆく浮き輪原爆忌の市電

    南方日午

  • 原爆忌地図に数多の知らぬ国

    游真

  • 生きるてふ垂直の崖原爆忌

    蝦夷野ごうがしゃ

  • 原爆忌竜頭廻せば合ふ時刻

    加藤ゆめこ

  • 原爆忌じんわり沈む水枕

    北岳醍醐丸

  • 原爆忌少し白ける緑の葉

    清瀬ハイジ

  • トーストのちょっと焦げた日原爆忌

    齋陽花

  • 百張の白きテントや原爆忌

    粒の杏子

  • 原爆忌即席麺が湯を吸う音

    彫刻刀

  • おうおうと仰ぐ楠木広島忌

    大橋

  • 原爆忌滝廉太郎の喀血

    可秘跳

  • 知らぬ傷避けて毛を剃る原爆忌

    水須ぽっぽ

  • しあわせなときの地図見る原爆忌

    春風京桜

  • ガジュマルのうねり伸びる根原爆忌

    日日新

  • 瘡蓋のよな錆びバケツ原爆忌

    あすか蘭紅

  • 原爆忌ふっくら広げる鶴の羽

    橙茶

  • 金縛り解け原爆の日の夜空

    ぜのふるうと

  • 原爆忌おかずのかけら突く鳩

    紅塩猫子

  • 原爆忌一人で歌うラブソング

    永山シャンシャン

  • 原爆忌雨に乱るる水鏡

    畑山六十二

  • 原爆忌わたしと同じなまえの子

    カフェオレ草

  • 地球儀の海は錆色原爆忌

    沼宮内 かほる

  • 昼はカレー原爆忌の造船所

    大盛茄子紺

  • 原爆忌歪みて途切れたる地層

    福みつこ

  • 百円の珈琲薄し原爆忌

    長良くわと

  • 母のまねく手原爆忌のかけっこ

    あかのほあかほほほろほ

  • 人去りて供花匂い立つ原爆忌

    町田明哉

  • 大欠伸のわづかに甘し原爆忌

    渡野しえん太

  • 原爆忌きれいな雲の下の川

    ゆうゆう朔ら望

  • 原爆忌靴の右側すり減りて

    吉岡美葉

  • 匙の粥へ児は口丸く原爆忌

    杏乃みずな

  • コストコの天井の鈍び広島忌

    アナミスト

  • 一寸の雑草にヤニ原爆忌

    しなもりいふ

  • 鉄瓶の湯垢の白や原爆忌

    四季春茶子

  • 投票箱の冷たき光原爆忌

    とまや

  • 千羽鶴もつれ抱き合ふ原爆忌

    藤川鴎叫

  • 缶切りを使わぬ日々や原爆忌

    すずき 弥薫

  • 太陽に黒点二つ原爆忌

    庭野環石

  • 原爆忌ミルクセーキと老いた手と

    美乎梛

  • 樹のように祈ってしまう原爆忌

    豊川

  • 原爆忌焦げた名札の美しさ

    空小麦

  • 粥すする胃腸はんぶん原爆忌

    磯貝あさり

  • 図書五冊抱へ原爆忌の熱波

    野口景奇

  • 原爆忌的の描かれた小便器

    和季

  • 原爆忌師は長崎の人なりき

    竹たけのこ  

  • 原爆忌星のピアスを選ぶ朝

    神宮寺るい

  • 6Bの鉛筆の黒原爆忌

    神津草茶

  • 原爆忌血のやうに桃完熟す

    藤永桂月

  • 原爆忌すすぎの渦に浸す足

    御茶請みなみ

  • 鉄臭き起き抜けの白湯原爆忌

    角野角子

  • 原爆の日の水ぬるく通る喉

    中村すじこ

  • 白花は発火寸前原爆忌

    たかはし薫風

  • 原爆忌自動ピアノにハッピーソング

    Early Bird

  • 飲み干して木に寄りかかる原爆忌

    岡崎ゆきこ

  • 断水の街に雷雲原爆忌

    紅さやか

  • 入浴剤しんと沈める原爆忌

    高梁巴波

  • 放鳩の帰らぬ自由原爆忌

    横山雑煮

  • 原爆忌市電の床の重油の香

    津々うらら

  • 切れば出る脇芽次々原爆忌

    八ちゃん

  • 原爆忌記録映画の雨止まず

    森海まのわ

  • 原爆忌余白の多い平和の字

    渓翠@青東高

  • 大阪のカルキの水や原爆忌

    青に桃々@いつき組俳句迷子の会

  • 原爆の日の手のひらの夥し

    山海和紀

  • 原爆忌ゼゴリゼゴリと製氷機

    柳川迷蟻

  • 継ぐ息の空気綺麗な原爆忌

    万里の森

  • うつぼかずらの袋枯れ落ち原爆忌

    龍 桔花

  • 父はまだ船の営倉原爆忌

    水須ゆき子

  • 被爆樹の二百八本原爆忌

    有野 安津

  • 瘡蓋を剥がしつづける原爆忌

    ノセミコ

  • オイラーの等式短し原爆忌

    松山 松男

  • 手付かずの義父のカステラ原爆忌

    山下こけ女

  • 原爆忌祖母の大腿骨の螺子

    日日詠子

  • スープの香辛くて苦い原爆忌

    白井百合子

  • 少年は一本の木に原爆忌

    八田昌代

  • 雨降ってぽつん原爆忌の受胎

    松本笑月

  • 原爆忌野を突つきをる鳥一羽

    今琳

  • 熱湯の開かぬ貝捨つ原爆忌

    都月もなか

  • 原爆忌余白おおきな詩集借り

    四季

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