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初級者結果発表

2022年9月20日週の兼題

鰯雲

【曜日ごとに結果を公開中】

【優秀句】

  • 池波の地図を歩いて鰯雲

    こきん

  • 指で溝掘る塩釜や鰯雲

    塒 小判

  • 汲み分けん朝の光の鰯雲

    長野 雪客

  • 万を超す墓標新し鰯雲

    びぼん

選者コメント

家藤正人

初級コースの金曜日掲載は中級への昇級の目安。中でも特に目を惹く句についてピックアップコメントをお届けします。



「池波の地図を歩いて鰯雲   こきん」

池波正太郎の歴史小説に登場する様々な土地を実際に歩く。本当にそんな本があるそうで、なんと池波正太郎自身の著作にもあるのだとか。作中の世界と大きく変貌した現代。しかし面影を留めている部分もあるのでしょう。作中と現実をリンクさせながら歩く、充実した秋の一日。鰯雲はかつて江戸と呼ばれた空に広がっています。


「万を超す墓標新し鰯雲   びぼん」

普遍的な魅力を持った句というよりは、2022年に生きる人間にとって離れがたい句でありました。世界を席巻する疫病、武力による他国への侵略、少数民族への弾圧。万を超える墓標が続く光景はいったいどれほどの広さに及ぶのか。「新し」と言い切るドライさが逆にやるせない現実を突きつけます。無数の鰯雲が鎮魂めいて白く。


「汲み分けん朝の光の鰯雲   長野 雪客」

映像の鮮度が魅力です。「汲み分けん」は意思を表す言葉。読みの可能性はいくつかありますが、鰯雲を汲み分けようとしていると読みたいところ。もちろん空の鰯雲は汲めません。でも水に映った鰯雲ならできるでしょう。朝の冷たい水鏡。手か、桶か。水面の鰯雲は汲み分けようと触れた瞬間、散り散りに揺らぎ消えてしまいます。


「指で溝掘る塩釜や鰯雲   塒 小判」

「鰯雲」の持つ豊漁のイメージから、魚を丸ごと閉じ込めた塩釜焼きと読みました。愛媛に住む者としては鯛の塩釜を想像いたします。しかも買い求めたものではなく、自ら作る塩釜。美々しい鯛に相応しく、塩釜の表にも鱗や目を模して指で溝を掘る仕事の丁寧な手つきが見えてきます。


いずれもお見事でした。自信がついたら中級にもぜひ挑戦してみましょう!

  • 鰯雲朝礼台の脚の錆

    はづき昼花火

  • 鰯雲奔流あいだほの明かり

    比園 岳

  • 鰯雲流るやこれが水門か

    浦文乃

  • 祖父の数珠手からあふるるいわし雲

    葱ポーポー

  • 鰯雲この姓のまま生きてゆくには

    沢胡桃

  • 知らぬ言葉に逢ひに行く日や鰯雲

    小田緑萌

  • 鰯雲ほろほろ父の住む北へ

    麦のパパ

  • 鰯雲つかふあてなき登窯

    キートスばんじょうし

  • 「良いママ」をやれてるだろか鰯雲

    葉月ことり

  • 廃駅は肥料のにおい鰯雲

    太郎坊

  • 前転のマットの湿り鰯雲

    なつふじ

  • 鰯雲甘えてみたき木のくぼみ

    長良くわと

  • 叔父の吃音鰯雲の乱離

    さとマル

  • 試乗車の新車の匂ひ鰯雲

    鷹見沢 幸

  • 鯖雲や辞職する子は未だ来ず

    野菜α

  • ひとつづつ彫り出す螺髪うろこ雲

    一寸雄町

  • バランにお米つぶ鰯雲うふふ

    しんび

  • いわし曇ひらひら生きることにした

    かまど猫

  • 鯖雲の大路の果ての山鴉

    片山蒼心

  • 鰯雲三代伝ふる蝋燭屋

    ななかまど

  • 若冲のニワトリのはね鰯雲

    齋藤鉄模写

  • 立ち漕ぎの手は錆臭い鰯雲

    クロチョイス

  • ささくれのいらいらいわしぐもいっぱい

    つまりの

  • 軽トラは父の足なり鰯雲

    金子加行

  • 三度目の背面跳びや鰯雲

    高永 摺墨

  • 鰯雲だまって捨てし亡父の靴

    つたば海蘭

  • 宮入の古き石段鰯雲

    井上ヘボ孔球

  • 鰯雲わたしは陸の貝になる

    月野うさぎ

  • スターターの強張る背中いわし雲

    だいやま

  • 三塁のエラーを覆う鰯雲

    むらのたんぽぽ

  • 鰯雲ピザ窯の火に休みなし

    北の山猫 水島

  • 鰯雲九平次を手に入れた日にゃ

    有野 安津

  • いわし雲絵本ぶくろに五味太郎

    まつたいら西

  • 鰯雲二度洗はれし鳥の声

    蒼空蒼子

  • また城が登ってこいと鰯雲

    松山トラチャン

  • 鰯雲ヤギ三匹の除草隊

    卯之町 空

  • コブラ2機西北西へ鰯雲

    釜厚女子

  • 日めくりのめくってかろし鰯雲

    那津

  • ぼうずにて帰る古書市鰯雲

    杉﨑拙訓

  • いわし雲修道院に昼の鐘

    寺岡はる

  • 柴犬の鼻ひんやりといわし雲

    uryuu202

  • ポップコーン小鉢をこぼれ鰯雲

    永井うた女

  • 廃校にレモン石鹸鰯雲

    鷺沼くぬぎ

  • 球根の傷見つけたり鰯雲

    七国独楽男

  • 通院に区切らるる日々鰯雲

    松本厚史

  • 老老を遊ぶ軽さよ鰯雲

    生駒 遊

  • 亡き父の遺骨にボルト鰯雲

    痴陶人

  • 通院のための午後休鰯雲

    潮見悠

  • 摘果急く農婦の欠伸鰯雲

    しまのなまえ

  • 倒立の手のひらに砂利いわし雲

    ろまねす子

  • 鰯雲地下の水路の音高し

    きのと

  • 熱出した子に謝られ鰯雲

    四季春茶子

  • 鉛筆に木琴の音鰯雲

    櫂野雫

  • フィッシュパイはさくり鰯雲の鮮

    粒の杏子

  • 鰯雲しゆるしゆるしゆんと入るコード

    津々うらら

  • 鰯雲靴紐通す穴二十

    登子

  • かさぶたの剥がして増えて鰯雲

    高橋芽澄

  • 鰯雲ダートに向かう馬の尻

    網野れいこ

  • 鴉語を訳し終えたり鰯雲

    15センチの庭

  • 弔問の人波遠く鰯雲

    こたま

  • 雪国の屋根は鋭く鰯雲

    雑魚寝

  • 助走へと手拍子の波鰯雲

    桂子

  • 鰯雲ほろほろちぎり麺麭焼けた

    小椋チル

  • 女らしい名が欲しかった鰯雲

    仲間英与

  • 鰯雲古書を束ねる紐白し

    望月とおん

  • 搭乗便鰯雲越ゆあとは風

    秋野萱

  • 鰯雲ゆるり校庭に給水車

    瀬戸内海月

  • 鰯雲今日は梅煮にするとせう

    豚々舎 休庵

  • 墨磨れば青ゆらゆらと鰯雲

    青田ゆうみ

  • 出雲まで神乗り合うや鰯雲

    美津うつわ

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