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初級者結果発表

2024年12月20日週の兼題

春着

【曜日ごとに結果を公開中】

【優秀句】

  • 春着の腕振つて生放送さばく

    弥栄弐庫

  • 春着解く指にやんごとなき眠気

    喜祝音

  • 星へ干す春衣を明日に慣らすため

    波多露音

選者コメント

家藤正人

初級コースの金曜日掲載は中級への昇級の目安。中でも特に目を惹く句についてピックアップコメントをお届けします。



「春着解く指にやんごとなき眠気  喜祝音」

指に焦点を絞って春着を脱ぐ解放感を描きました。新年のハレを過ごした春着を今、解く。そういう場面を想像します。慣れない衣装の疲れと、気忙しく行事ごとをこなした疲れ。眠気も催されるでしょう。帯を解き、一枚ずつ衣を脱いでゆく手つき。その指には高貴な気怠さのような気品すら感じられるかのようです。


「星へ干す春衣を明日に慣らすため   波多露音」

読者の意表を突きつつ詩を生み出す語順の効果が的確です。太陽ではなく「星へ干す」ってなぜ? と思った瞬間、その対象は繊細な「春衣」だとわかります。大事に仕舞っていた春衣を星の光と夜気に晒し、俗世へと慣れさせてやるのです。方向を示す助詞「へ」によって、星へと差しのばし捧げる動作と、夜空を背景にした美々しい春衣が見えてきます。


「春着の腕振つて生放送さばく   弥栄弐庫」

職業的な共感もあって妙にツボに入ってしまったなあ。個人的な話で恐縮ですが、母・夏井いつきの長年の盟友でありますやのひろみ女史の姿と完っ全に重なってしまいまして……(笑)。新年の「生放送」を句材にしようと思いついたとしても「さばく」まで言い止められるのは稀です。「振つて~さばく」の動詞の斡旋が秀逸。大きな身振り手振りと共に、春着の艶やかな袖が場を切り盛りする勢いが力強い。



いずれもお見事でした。自信がついたら中級にもぜひ挑戦してみましょう!


  • 振り返る春着に春着振り返る

    吉田白山

  • 春着着て病得し身の仄明かり

    小田緑萌

  • ジョーカーの一巡りする春着の輪

    ぽちさんぽ

  • かすかすの俺に一度の春着かな

    sean

  • 叔母の名の刺繍なぞりて春着かな

    由比佐羅

  • 春着買へぬ闊歩のいざ式典へ

    紫檀豆蔵

  • 春着撮る妻美しく老いにけり

    みにとまあいこ

  • 春着着て写真の母と目を合はす

    慈夢りん

  • 白湯甘し春着を畳む昼下がり

    もつ鍋

  • 春着とは知らぬ我が子の後を追う

    佐藤推敲子

  • 春着着て友と繰り出す十八禁

    秋月あさひ

  • 春着きて開演ベルの長きかな

    佐伯仙明

  • 最後まで漢気づかぬ春着かな

    みくにく

  • 春着の子見ている吾子の肩を抱く

    わだつみ

  • チャイルドシート弾み春著の広がりぬ

    藍時 湘

  • 鼻歌に♯がついた春着きた

    柿本苧麻

  • 春着の子何かの剣を手に入れた

    月枝いと

  • 新品のわたくしになる春着きて

    森ともよ

  • そこそこの春着昭和の百年目

    鷺沼くぬぎ

  • 人麻呂を狙う春着の乙女たち

    北乃羆

  • 気に入らぬ髪なほ気に入らぬ春着

    風待ラテ

  • 箸一膳衣桁に春着の閑かなり

    そーめんそめ

  • 帯解いて光のかたち春小袖

    高山玲徹楚々

  • 春着きて優しい姉として過ごす

    すずき 弥薫

  • あたらしき吾春着より孵りけり

    かときち

  • 空青く音降る陽気春着かな

    鈴屋玲瓏

  • 春着着てくぐる縁切寺の門

    雨戸 ゆらら

  • はるばると生きて白髪の春着かな

    矢口知

  • 春着着ている間は親切だったのに

    山川十日

  • 春着着て文化包丁研ぎにけり

    朝香碧心

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