俳句ポスト365 ロゴ

初級者結果発表

2025年3月20日週の兼題

風光る

【曜日ごとに結果を公開中】

【優秀句】

  • 料理するように書く日々風光る

    春風京桜

  • 風光る方へ疑似餌を放つなり

    かときち

  • 左遷とは言わせぬ街だ風光る

    猫塚れおん

選者コメント

家藤正人

初級コースの金曜日掲載は中級への昇級の目安。中でも特に目を惹く句についてピックアップコメントをお届けします。



「料理するように書く日々風光る   春風京桜」

文章を生業とする方、あるいはその道を志す方の自画像の十七音。食べることとは生きること。日々料理をし自らを長らえさせるのと同じように、書くこともまた作者にとっては生きる日々そのものなのです。使命感や執念に突き動かされての行動ではなく、あくまで自分が自然に生きるためのふるまい。その清貧な軽やかさが「風光る」と似合います。きっと綴られる文字の中には、吹きすぎる春の風の美しさも留められているに違いありません。


「風光る方へ疑似餌を放つなり   かときち」

釣り人なら思い描くだけでにやりと相好を崩しそうなシチュエーション。疑似餌は渓流釣りにも海釣りにも使われますが、より季語「風光る」が際立つのは渓流釣りでありましょう。渓流釣りの解禁は春。浮きたつ心のまま清流に赴き、釣り人の目は流れを見定めます。森と水の冷気に風はさらに澄んでいくかのようです。そこへ向かって放たれるのはルアーか、毛針か。方向を示す助詞「へ」が読者の視線を縫い止め、「なり」の言い切りが気持ちよく一句の世界を閉じる語順もお見事。


「左遷とは言わせぬ街だ風光る   猫塚れおん」

有無を言わせぬ力強さがなんといっても魅力です。口語の助動詞「だ」は断定を表します。読者はこの十七音を味わいながら想像を広げるわけです。さて、実際はどんな「街」なんだろう。左遷だと陰口を叩かれて送り出されたけど案外立派で良い街じゃないか! と読むか、それとも必死に新たな土地に立つ己を鼓舞していると読むか。あるいは左遷だと揶揄されて向かった先は大切な我が故郷だった……なんて読みもできるかもしれません。様々な心模様の可能性をはらんで「風光る」が七彩を放ちます。



いずれもお見事でした。自信がついたら中級にもぜひ挑戦してみましょう!


  • 風光る龍の証たる鱗あり

    井川矢亜子

  • 母牛の乳まんまんと風光る

    土居みこ

  • 地図にない大地に立てば風光る

    ケセラセラめだか

  • 風光るレエスのカ一テンつばさめく

    丸山美樹

  • 風光る湖の漣足裏まで

    田中つきひ

  • 潮騒を縫うサックスや風光る

    生季音

  • ハードルを越える足裏風光る

    巻貝

  • 「ぶちかませ」って声が聞こえて風光る

    干天の慈雨

  • 風光るカーブミラーに小さき街

    加藤遊鹿

  • バンと鳴るキャッチャーミット風光る

    清見敏水子

  • 今朝よりの大人運賃風光る

    金子加行

  • 風光るキックボートは草まみれ

    宮崎梅電

  • 風光る象の放屁の伸び伸びと

    群青江戸きりこ

  • 風光るカノンのやうに潮満ち来

    白川ゆう

  • 風光るジャポニカ帳のあいうえお

    照輝坊主

  • 紙箱に恐竜の歯や風光る

    柚子こしょう

  • 風ひかる淋しき古都に石畳

    佐藤白行

  • 2Bのえんぴつがブキ風光る

    黍団子丸

  • 風光り蹄鉄に舞う土煙

    睦月長月

  • 立つ草の止め跳ね払ひ風光る

    風間 爺句

  • 風光る指フレームに青い海

    青雨青緒海

  • 風光るサドルに座り待つ通知

    欣喜雀躍

  • 骨清く罪なき軽さ風光る

    高山玲徹楚々

  • 風光るどの鳥の目も海の色

    佐藤夏みかん

  • 風光るツーバウンドの始球式

    前田まだら

  • 工房にカヌーの図面風光る

    喜祝音

  • 風光る君の母校が決勝へ

    城扇尋

  • 風光る遮光器土偶尻でかし

    布施 木啄

  • 姿良き我が甲山風光る

    八ちゃん

  • 県予選2秒差の負け風光る

    桂 歩

  • ふるさとに高き塔なし風光る

    嶋 有賀

  • 百歳を賜はる力風光る

    静 うらら

  • 風光るエコーに映る児のふぐり

    タツキ ヨシコ

投句はこちら