風光る
春風京桜
猫塚れおん
かときち
家藤正人選
初級コースの金曜日掲載は中級への昇級の目安。中でも特に目を惹く句についてピックアップコメントをお届けします。
「料理するように書く日々風光る 春風京桜」
文章を生業とする方、あるいはその道を志す方の自画像の十七音。食べることとは生きること。日々料理をし自らを長らえさせるのと同じように、書くこともまた作者にとっては生きる日々そのものなのです。使命感や執念に突き動かされての行動ではなく、あくまで自分が自然に生きるためのふるまい。その清貧な軽やかさが「風光る」と似合います。きっと綴られる文字の中には、吹きすぎる春の風の美しさも留められているに違いありません。
「風光る方へ疑似餌を放つなり かときち」
釣り人なら思い描くだけでにやりと相好を崩しそうなシチュエーション。疑似餌は渓流釣りにも海釣りにも使われますが、より季語「風光る」が際立つのは渓流釣りでありましょう。渓流釣りの解禁は春。浮きたつ心のまま清流に赴き、釣り人の目は流れを見定めます。森と水の冷気に風はさらに澄んでいくかのようです。そこへ向かって放たれるのはルアーか、毛針か。方向を示す助詞「へ」が読者の視線を縫い止め、「なり」の言い切りが気持ちよく一句の世界を閉じる語順もお見事。
「左遷とは言わせぬ街だ風光る 猫塚れおん」
有無を言わせぬ力強さがなんといっても魅力です。口語の助動詞「だ」は断定を表します。読者はこの十七音を味わいながら想像を広げるわけです。さて、実際はどんな「街」なんだろう。左遷だと陰口を叩かれて送り出されたけど案外立派で良い街じゃないか! と読むか、それとも必死に新たな土地に立つ己を鼓舞していると読むか。あるいは左遷だと揶揄されて向かった先は大切な我が故郷だった……なんて読みもできるかもしれません。様々な心模様の可能性をはらんで「風光る」が七彩を放ちます。
いずれもお見事でした。自信がついたら中級にもぜひ挑戦してみましょう!
静 うらら
佐藤夏みかん
土居みこ
白川ゆう
ケセラセラめだか
佐藤白行
黍団子丸
睦月長月
城扇尋
田中つきひ
巻貝
井川矢亜子
加藤遊鹿
金子加行
布施 木啄
清見敏水子
風間 爺句
宮崎梅電
桂 歩
タツキ ヨシコ
前田まだら
照輝坊主
柚子こしょう
喜祝音
丸山美樹
生季音
干天の慈雨
八ちゃん
青雨青緒海
嶋 有賀
欣喜雀躍
高山玲徹楚々
群青江戸きりこ
選者コメント
家藤正人選
初級コースの金曜日掲載は中級への昇級の目安。中でも特に目を惹く句についてピックアップコメントをお届けします。
「料理するように書く日々風光る 春風京桜」
文章を生業とする方、あるいはその道を志す方の自画像の十七音。食べることとは生きること。日々料理をし自らを長らえさせるのと同じように、書くこともまた作者にとっては生きる日々そのものなのです。使命感や執念に突き動かされての行動ではなく、あくまで自分が自然に生きるためのふるまい。その清貧な軽やかさが「風光る」と似合います。きっと綴られる文字の中には、吹きすぎる春の風の美しさも留められているに違いありません。
「風光る方へ疑似餌を放つなり かときち」
釣り人なら思い描くだけでにやりと相好を崩しそうなシチュエーション。疑似餌は渓流釣りにも海釣りにも使われますが、より季語「風光る」が際立つのは渓流釣りでありましょう。渓流釣りの解禁は春。浮きたつ心のまま清流に赴き、釣り人の目は流れを見定めます。森と水の冷気に風はさらに澄んでいくかのようです。そこへ向かって放たれるのはルアーか、毛針か。方向を示す助詞「へ」が読者の視線を縫い止め、「なり」の言い切りが気持ちよく一句の世界を閉じる語順もお見事。
「左遷とは言わせぬ街だ風光る 猫塚れおん」
有無を言わせぬ力強さがなんといっても魅力です。口語の助動詞「だ」は断定を表します。読者はこの十七音を味わいながら想像を広げるわけです。さて、実際はどんな「街」なんだろう。左遷だと陰口を叩かれて送り出されたけど案外立派で良い街じゃないか! と読むか、それとも必死に新たな土地に立つ己を鼓舞していると読むか。あるいは左遷だと揶揄されて向かった先は大切な我が故郷だった……なんて読みもできるかもしれません。様々な心模様の可能性をはらんで「風光る」が七彩を放ちます。
いずれもお見事でした。自信がついたら中級にもぜひ挑戦してみましょう!