冴ゆ
麻Y音
ドナウ絵蓮
黒木なずな
家藤正人選
初級コースの金曜日掲載は中級への昇級の目安。中でも特に目を惹く句についてピックアップコメントをお届けします。
「山の端の冴ゆ山際のさらに冴ゆ ドナウ絵蓮」
似て非なる言葉を組み合わせて作る対句表現。繰り返される「山~冴ゆ」の韻律は心地良く、「山の端」と「山際」の冴え具合の差がクリアに言語化されています。「山の端」は山が空に接する部分を意味し、「山際」は空が山に接する部分を意味します。空間的にはほぼ同じ位置でありながら、空に軸足を置いた「山際」の方が一段強い冴えを湛えている、というわけです。強く二度繰り返される「冴ゆ」はその大気に身を置くことを憧れるように切々と響きます。
「冴ゆる夜や父の汚した布団干す 黒木なずな」
「布団」も季語ではありますが、主たる季語は「冴ゆ」だと考えます。介護の現場でありましょうか。「父の汚した布団」は淡々とした事実の描写であると同時に、老いと介護の避けがたい悲哀の象徴のようでもあります。できる限り汚れを落とした布団を干す、その夜の大気のなんと冴えていることか。冴え冴えとした夜にはきっと星も灯っていることでしょう。感情の語りに逃げなかったからこそ、読者の心を「冴ゆ」という季語の持つ力が満たしていきます。
「スクロールする青い退屈月冴ゆる 麻Y音」
現代的な句材。「スクロールする青い退屈」をどう解釈するか、多少迷いますが、この感覚には共感を覚えます。スマホなどを指が滑る皮膚感覚、暗がりにディスプレイだけが発している白っぽい光、何も得ないまま惰性で流れていく画面と時間……そんな陰鬱な自己客観を展開したあとだからこそ「月冴ゆる」が加えてくれる一匙の詩情が沁みます。連体形「冴ゆる」の着地は、語りきれない心中があるとも、無為の永遠性の象徴とも読めます。さて作者の心づもりやいかに。
いずれもお見事でした。自信がついたら中級にもぜひ挑戦してみましょう!
高橋こう
佐藤史緒
松の本の芭蕉
千里灰汁太
晩乃
弥栄弐庫
山 びこ
しなもりいふ
開山Moon
小花風美子
須臾猩々
児玉すいか
椎名二紋
ねうねうこ
和脩志
ナカニシマメ太
詩雲
羽根井しの
千嶋紗香
織波
前川 葉月
湧別川
小川雷夏
竹石猫またぎ
豆野まね
阿野比等
加田紗智
竹林子
月待 小石
里山まさを
アツシ
清水猿虎
喜祝音
仲村江子
白井和玄
米山
膝丸佳里
舞矢愛
金子加行
蝦夷やなぎ
水引草
東雲 文丹
横浜順風
選者コメント
家藤正人選
初級コースの金曜日掲載は中級への昇級の目安。中でも特に目を惹く句についてピックアップコメントをお届けします。
「山の端の冴ゆ山際のさらに冴ゆ ドナウ絵蓮」
似て非なる言葉を組み合わせて作る対句表現。繰り返される「山~冴ゆ」の韻律は心地良く、「山の端」と「山際」の冴え具合の差がクリアに言語化されています。「山の端」は山が空に接する部分を意味し、「山際」は空が山に接する部分を意味します。空間的にはほぼ同じ位置でありながら、空に軸足を置いた「山際」の方が一段強い冴えを湛えている、というわけです。強く二度繰り返される「冴ゆ」はその大気に身を置くことを憧れるように切々と響きます。
「冴ゆる夜や父の汚した布団干す 黒木なずな」
「布団」も季語ではありますが、主たる季語は「冴ゆ」だと考えます。介護の現場でありましょうか。「父の汚した布団」は淡々とした事実の描写であると同時に、老いと介護の避けがたい悲哀の象徴のようでもあります。できる限り汚れを落とした布団を干す、その夜の大気のなんと冴えていることか。冴え冴えとした夜にはきっと星も灯っていることでしょう。感情の語りに逃げなかったからこそ、読者の心を「冴ゆ」という季語の持つ力が満たしていきます。
「スクロールする青い退屈月冴ゆる 麻Y音」
現代的な句材。「スクロールする青い退屈」をどう解釈するか、多少迷いますが、この感覚には共感を覚えます。スマホなどを指が滑る皮膚感覚、暗がりにディスプレイだけが発している白っぽい光、何も得ないまま惰性で流れていく画面と時間……そんな陰鬱な自己客観を展開したあとだからこそ「月冴ゆる」が加えてくれる一匙の詩情が沁みます。連体形「冴ゆる」の着地は、語りきれない心中があるとも、無為の永遠性の象徴とも読めます。さて作者の心づもりやいかに。
いずれもお見事でした。自信がついたら中級にもぜひ挑戦してみましょう!