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中級者以上結果発表 秀作
2016年10月6日週の兼題
波郷忌
【曜日ごとに結果を公開中】
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波郷忌の日時計となる薬瓶
スズキチ
選者コメント
夏井いつき
選
枕辺のテーブルの同じ位置にいつも置かれている「薬瓶」。仰臥した視線の端に、「薬瓶」の影が見えます。それが「日時計」のように時を移していくのです。「日時計となる薬瓶」の影のみを見つめて過ぎる一日一日の切ないこと。「波郷」もまたこのように「日時計となる薬瓶」を見つめていたに違いないという思いが、一句に成りました。
波郷忌や水とグラスに灯はわかれ
すな恵
選者コメント
夏井いつき
選
「水とグラス」は、枕頭に置かれたガラスの水差しではないかしらと思うのも、季語「波郷忌」の連想力。勿論、病室に限定して読む必要はありませんが、「水とグラス」に映り込む「灯」が、違う質感をもって揺れていることに、心を動かす感性に共鳴します。同時投句「波郷忌やをぐらき昼の雲に金」にも心惹かれました。
波郷忌の呼気に湿りてゆく硯
Y音絵
選者コメント
夏井いつき
選
こちらは「波郷忌の呼気」です。病人の呼気だろうかと思わせるのが、の季語が持つ連想力。「呼気に湿りてゆく」と続く展開の果てに「硯」が出てくる意外性にハッとします。墨を擦る度に、ぐっと顔が近づく。丁寧にゆっくりと擦っているのでしょう。平常心の静かな「呼気」を思うか、病の身の熱ある「呼気」を思うか。「波郷忌」という季語の力がさまざまな方向に想像を誘います。 同時投句「水槽の底のあをぞら惜命忌」「波郷忌や砂糖のやうに入江に雨」にも心惹かれました。
二音残し止む波郷忌のオルゴール
このはる紗耶
選者コメント
夏井いつき
選
「波郷忌」という季語を中七にもってくるのは難しい技。それを軽々とやってくれるのが、この作家の実力です。「二音残し止む」という描写のリアリティ、それが「波郷忌のオルゴール」であるよと意味が続いていくと、この「二音」がまるで残した二児への思いであるかのような心持ちになります。
波郷忌の仰臥思はぬ骨の鳴る
希望峰
選者コメント
夏井いつき
選
「波郷忌の仰臥」ですから、自分自身の仰臥と読むのが妥当でしょう。今日は波郷忌だなあと思いつつ、何気なく「仰臥」すると、体のどこかの「骨」が思いもよらず鳴ったというのです。そのささやかな「音」が「波郷」の辛苦を思い起こせる。俳人にとっての忌日の季語はそういうものなのだなあと、改めて感じ入る次第です。
波郷忌の鉛筆錐の如く削ぐ
めいおう星
選者コメント
夏井いつき
選
この句も「波郷忌の○○」と続いて、モノがでてきます。「波郷忌の鉛筆」といわれると、俳句を記すための鉛筆に違いないと思います。「鉛筆」を「錐の如く削ぐ」行為は、己の中でかたちを作り始めている句をゆっくりと練る時間も想像させます。「鉛筆」を削るように、句の言葉を削ぎ落としつつ、作品が次第に結球していくのです。
波郷忌や手紙に慣れぬ詩を書けば
田中憂馬
選者コメント
夏井いつき
選
「波郷忌や」で切れる型の作品です。書き出した「手紙」に、がらにもなく「詩」のようなものを書き付けている自分がいるのです。「手紙に慣れぬ詩を書けば」のあとの余白を、どう読み取るか。書き留めたその詩には、どんな思いが込められているか。「波郷忌」という季語の力か……病臥にある人物が妻や子を思って書き付けた「詩」ではないかと思われてなりません。
波郷忌やみどりの夜の詩は淡し
土井探花
選者コメント
夏井いつき
選
季語「波郷忌」は、俳人石田波郷の病臥の生涯を否応なく思わせますが、この句の中七下五「みどりの夜の詩は淡し」は、美しい思いに溢れている詩句です。「プラタナス夜もみどりなる夏は来ぬ」という波郷の句を念頭においての一句だと思われますが、書き付けられた「詩」を「淡し」と語るところに青春性も読み取れます。
波郷忌の桃の缶詰今日開けよ
トポル
選者コメント
夏井いつき
選
病院のお見舞いに「缶詰」やバナナを持っていってた時代もあったなあと、しみじみ思い出します。お見舞いにいただいた「桃の缶詰」を、さあ「今日開けよ」、妻も子どもたちも見舞いに来てくれた今日。波郷一家のほのぼのとしたシーンを見せてもらえたかのような一句でした。
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