• ガジュマルに薬缶ぶら下げ夏の海

  山田蹴人

  選者コメント

  

  夏井いつき選

  　「ガジュマル」が自生する南国の浜。枝にぶらさげている「薬缶」は、水分補給のためか。キャンプやバーベキューの準備か。大きな丸い「薬缶」が弾く太陽も見えてくる、「夏の海」の一場面です。
• 突堤を空へ踏み切る夏の海

  深山むらさき

  選者コメント

  

  夏井いつき選

  　助走をつけて「突堤」から海へ飛び込む。中七「空へ踏み切る」という措辞が、跣足の感触、太陽に熱せられた突堤のコンクリート、空中から海への滞空感覚などをリアルに思い出させてくれました。
• 夏海の端の拙き波を踏む

  沖原イヲ

  選者コメント

  

  夏井いつき選

  　「夏海の端」によって波打ち際を、「拙き波」は映像を、「踏む」は作者自身の動作を丁寧に描写しています。季語「夏海」を一物仕立てに近い形で表現できていることに、拍手を贈りたい作品です。
• 敵機も鳥も夏の海をすべる影

  いさな歌鈴

  選者コメント

  

  夏井いつき選

  　「敵機」であろうが「鳥」であろうが、それらは皆「夏の海をすべる影」なのだという把握。季語「夏の海」が抱える陰と陽を「影」という視点で描ききりました。「すべる」の一語の映像化も巧みです。
• JAF遅し夏の海ひたすら眩し

  倉木はじめ

  選者コメント

  

  夏井いつき選

  　「JAF」の到着を待つのはパンクかガス欠か。「夏の海」を目指す途中のアクシデントだと読んだ方が、「遅し」の一語に籠る溜息が深くなります。「ひたすら眩し」の描写が、皮肉に巧い一句です。
• ドローンはるか夏海の縦×横

  金朋かいと

  選者コメント

  

  夏井いつき選

  　「ドローン」で撮影した「夏海」の大景を描くのは難しいですが、「夏海の縦×横」という発想は、まさにコロンブスの卵。「はるか」の一語が、さりげなく映像を確保しているのもささやかな技です。
• かと言って、貯金も無いが夏の海

  嶋村らぴ

  選者コメント

  

  夏井いつき選

  　「かと言って」から始まる技法が成功。「貯金も無い」という現状によって、上五以前に何を話していたか思っていたかが、手に取るように分かります。「夏の海」は嫌味なほど明るく弾けてますね。
• 息継ぎの目に桜島夏の海

  蓮花麻耶

  選者コメント

  

  夏井いつき選

  　クロールの「息継ぎ」でしょうか。顔を傾けた時の、その「目」に「桜島」が見えるのです。下五「夏の海」が出現したとたん、光景が完成し、我が身を包む南国鹿児島の海がバーンと広がります。
• シャワー三百円夏の海頑強

  山田蚯蚓

  選者コメント

  

  夏井いつき選

  　海水浴場のコインシャワーは「三百円」。規定量の水が出るタイプか、代金を払えば使いたい放題か。いずれにしても「夏の海」の潮気は「頑強」。下五の言い切りに、強いリアリティがあります。
• 吊革の夏海揺れてゐて平ら

  すいよう

  選者コメント

  

  夏井いつき選

  　「吊革」の輪の中に「夏海」が揺れています。揺れているのに夏の海そのものは「平ら」にそこにある。光景を切り取っただけなのに、一句の底に作者の様々な感情が見え隠れする興味深い作品です。

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