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初級者結果発表

2021年4月20日週の兼題

【曜日ごとに結果を公開中】

【優秀句】

  • 残香をまさぐる蛇の舌あまし

    広木登一

  • 蛇搏ちしわれの心に暗き森

    綾瀬涼

  • 藝大遠く蛇の卵の丸きこと

    大久保五兆

選者コメント

家藤正人

金曜日掲載句は中級への昇級の目安。中でも特に目を惹く優秀句についてピックアップコメントをお届けします。


取り合わせの面白さでは「藝大遠く蛇の卵の丸きこと 大久保五兆」も佳句でした。憧れの「藝大」は遠い目標。デッサンに観察しているのは蛇の産み落とす「卵」。「丸きこと」は「なんと丸きことよ」という賛嘆の意味も含んでいます。細い蛇の身から産み落とされる卵の艶やかな生命。


「蛇搏ちしわれの心に暗き森 綾瀬涼」はおそろしい心の暗がりに惹きつけられます。その心象をもたらす原因になった上五「蛇搏ちし」は過去の出来事。手で打った蛇のぐにゃりと生きた肉の感触がいつまでも心を脅かします。


「残香をまさぐる蛇の舌あまし 広木登一」は「蛇の舌」だけに焦点を絞り、その動きの描写に徹しています。自分の眼球が捉えた映像に加え、作者ならではの感覚の溶かし込み方が魅力です。さっきまで獲物が存在した空間でしょうか。残り香のさぞあまそうで、蠱惑的な舌。


いずれもお見事でした。自信がついたら中級にもぜひ挑戦してみましょう!

  • 蛇の眼のギヤマンの如草深し

    マキコのねこ

  • 蛇のゐる枝の向こうの友の家

    矢口知

  • 捕らえたる蛇一匹の重さかな

    山中陽子

  • しなやかに泳ぎ来て蛇草に入る

    大塚 幸

  • 蛇進む鱗一枚ずつ動き

    玉響雷子

  • 蛇なんと可愛や人を知つてより

    カンガルーのしっぽ

  • 白き蛇礼拝堂の雨しづか

    小倉あんこ

  • 岩肌を這う蛇の跡濡れてをり

    朱夏A

  • 赤錆の廃工場の蛇からむ

    眠兎

  • 水しづか滑るくちなわなほしづか

    市橋正俊

  • 打ちし手に蛇の弾力残りけり

    工藤悠久

  • 蛇と蛇散散絡み合ひ四角い

    もりさわ

  • 蛇でいる他のものにはなれなくて

    鷺沼くぬぎ

  • 蛇の裁つ水面光の連なれり

    喜祝音

  • 半刻の雨降り止まず沼の蛇

    高山たーちゃん

  • サイレンに蛇居りさうな藪の闇

    速水渓雪

  • 蛇の子やおちてはのぼる幹太し

    侍真満陽陰

  • 月蝕の緋色吸ひたる蛇の舌

    岸来夢

  • 大蛇や日の陰もなき造成地

    鈴木直丁

  • 谷池を蛇泳ぎ行く山静か

    小熊 利雄

  • 三代に渡り寺守青大将

    ヤモリ

  • 蛇や聖書ぱたんと閉じた夜

    瓦すずめ

  • 種銭は寂しがり屋よ山楝蛇

    久美

  • 窮屈な庭を窮屈そうに蛇

    木染湧水

  • 蛇生まる飄々と父去りし日に

    諏訪ヤス子

  • 月光の宿りし蛇の鱗かな

    田中舵郎

  • 吾の影の首のところを蛇渡る

    升 丁茶

  • 将門塚蛇の匂いを染み込ませ

    高倉麻呂助

  • 蛇頬をこすり矢来をくぐり入る

    長ズボンおじさん

  • 蛇祀る地球は未だ夜明け前

    魔女のひすい

  • 政治家に福耳多し山かがし

    土方雪駄

  • 墓掃除蛇の卵の美しき

    高田翠穂

  • 放生の蛇さらさらと失せにけり

    鱫水草央

  • 水葬を知った日蛇の死は白い

    空野千鶴

  • 霊山を出れば只の蛇なりき

    大庭慈温

  • 錆色の蛇覗きたる慰霊塔

    野倉夕緋

  • 雨連れて蛇は静かに木を上る

    ルイボス茶

  • 井戸底へ蛇が淋しく堕ちる音

    主藤充子

  • 祖父住みし家を換気のたびに蛇

    小迫さこ

  • 杣人の腰の袋に蛇動く

    定吉

  • ゆびの背で撫づゆびほどの杜のへび

    瀬尾白果

  • 蛇が泣くこどくにたまごを産む夜は

    夢雨似夜

  • キッチンに蛇を見た日の微熱かな

    あなぐまはる

  • ぶら下がる蛇のまなこの眠さうに

    瀬尾白果

  • 白蛇や優しき嫁の物語

    魔女のひすい

  • 蛇絡む鼠の温度冷ゆるまで

    青色鳥子

  • あかときを蛇のかたちに蛇の水脈

    石上あまね

  • 蛇水面渡るを見たしまた捕らう

    高頼かづき

  • 這うことのまだ難きなる蛇の黒

    鵺駿明

  • 蛇濡れてクレオパトラの柔き肌

    桃香

  • 蛇滑りゆく石垣の目のかたち

    アロイジオ

  • ふる里を出られぬ僕ら蛇交る

    真井とうか

  • 蛇泳ぐ己が軌跡を拡げつつ

    熊本 与志朗

  • 濡れた月纏ひし蛇の眼の光

    鷹星

  • 尻と背に顎乗せてをり暮夜の蛇

    西川由野

  • 転生の阿弥陀はハズレ堀の蛇

    西川由野

  • 水揺れて蛇はみどりに色づきぬ

    桔梗

  • 星屑の零れて蛇となる夜明け

    玉響雷子

  • 彗星の石かな蛇のうろこかな

    中村すじこ

  • 手に余熱登り切る蛇見とどける

    葉るみ

  • 隠れ住む二匹の白蛇寡婦の家

    鶴岡木の葉

  • 水音は薬師のふもと蛇わたる

    柳生うっかり十兵衛

  • 白昼の蛇の長さをそれぞれに

    みくにく

  • せせらぎにくちなわみづをつかみけり

    駒水一生

  • くちなはに登校の列膨らみぬ

    雪音

  • 白蛇の縺れていて少し紅

    熊本 与志朗

  • 狂おしい突き刺すひかり蛇垂れて

    金野はるか

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