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初級者結果発表

2022年2月20日週の兼題

百千鳥

【曜日ごとに結果を公開中】

【優秀句】

  • 月の香を皆で喰うたか百千鳥

    潮ベルト

  • 飯盒の火の落ち着きよ百千鳥

    長野 雪客

  • 竹林の陽のをとあはし百千鳥

    駒村タクト

  • 百千鳥鳴く鳴く五百二十色

    半ズボンおじいさん

  • 百千鳥逸れて二羽の追いあへり

    藤 えま

選者コメント

家藤正人

初級コースの金曜日掲載は中級への昇級の目安。中でも特に目を惹く句についてピックアップコメントをお届けします。


「百千鳥鳴く鳴く五百二十色 半ズボンおじいさん」

賑やかに入り混じる「百千鳥」の声。その多彩な音色は音の一粒一粒まで色を持つかのよう。「五百二十色」と明確な数を言い切る詩心が読み手をうっとりとさせます。「鳴く鳴く」のリフレインも効果的。「百」の字が二回登場する表記の工夫もにやりと楽しい。


「竹林の陽のをとあはし百千鳥 駒村タクト」

一瞬、仮名遣いを間違っているのか? と調べてしまいましたが、さにあらず。「をと」とは「彼方」を意味する古語なのだそうです。言葉がわかると画布に絵が浮かび上がるように光景が見えてきます。竹林に射す陽光、春の瑞々しい大気、淡く霞む竹林の奥行、見えつ隠れつ鳴き交わす百千鳥の数はうかがい知れず……と。幽玄な空間の入口に佇むような魅力がありました。


「百千鳥逸れて二羽の追いあへり 藤 えま」

百千鳥はある種正体不明な季語です。多くの鳥が鳴き交わしている集合体こそが「百千鳥」。しかしなにかの拍子で集団から抜け出した「二羽」が追いあいを始めた。様子を眺めていると、追って逃げての声は確かにさっきまでの「百千鳥」の一部を構成していた音に違いない、と確信するわけです。聴覚と視覚で観察する一物仕立て。


「飯盒の火の落ち着きよ百千鳥 長野 雪客」

懐かしいなあ。飯盒で米を炊いて、しばらくひっくり返して置いておくんですよね。飯盒を熱くねぶっていた火勢は衰え、辺りには米の煮えた甘い匂いが漂って。そんな待ちの時間を愛しむような余韻を中七の「よ」が生んでくれます。静かで満ち足りた上五中七と「百千鳥」との取り合わせも◎。飯盒を開くまでのワクワクするような期待は明るい鳥の騒ぎ声にも似て。


「月の香を皆で喰うたか百千鳥 潮ベルト」

詩の感覚に強い魅力を感じます。「きっと鳥たちは月の香を喰ったのだろうよ」なんて台詞の登場する小説が生まれそうだなあ。夢枕獏先生、いかがですかね。(個人の趣味)

詩語「月の香」への想像も豊かに広がります。出初めの淡い月か、はたまた昨夜の見事な月が心に落とした余韻のようなものでしょうか。百千鳥の声の一つ一つが月のつやめきを手にしたような、独特の響きを夢想する豊かさ。


いずれもお見事でした。自信がついたら中級にもぜひ挑戦してみましょう!

  • 百千鳥まだ筆入れぬ白き画布

    村岡花風

  • 赤い実のなる木を庭に百千鳥

    どこにでもいる田中

  • 痴話喧嘩めきて百千鳥のとりどり

    彫刻刀

  • 陽和らぎ森の噂を百千鳥

    望月ぽん

  • 暖かいクレヨンの色百千鳥

    大井ゆめか

  • 木葬に光くれたる百千鳥

    みつき 夏

  • 校庭でさいごの話百千鳥

    スモールちもこ

  • 溢液の珠くすぐるや百千鳥

    千歳みち乃

  • 百千鳥お七の塚のあたりより

    中 はじめ@木ノ芽

  • 空海の悟りの窟や百千鳥

    里山まさを

  • 山行の目覚め清かに百千鳥

    放浪者

  • 百千鳥吸い殻入れの褪せた赤

    かねつき走流

  • 百千鳥金策尽きたような夢

    渡野しえん太

  • 百千鳥同じ木の名をまた尋ね

    おのまい

  • 盗蜜の花びら散って百千鳥

    ハルノ花柊

  • 石仏の苔大楠の百千鳥

    みなみほ

  • 墓石の字は溶けており百千鳥

    春羽さゆみ

  • 鯉重吹くぬめり金色百千鳥

    佐伯仙明

  • 百千鳥かげの礫によろめきぬ

    外鴨南菊

  • 絹色に雨きらめかせ百千鳥

    山姥和

  • 土踏まず豊かなる子や百千鳥

    根なし草

  • 出社前も乗るトラクター百千鳥

    小迫さこ

  • 合格の文字はララララ百千鳥

    伊予素数

  • 百千鳥くたびれるまでコロブチカ

    蒼空蒼子

  • 百千鳥父の遺灰の薄紅色

    川上美馬

  • 医学部に記念樹多し百千鳥

    小栗あきこ

  • 日本酒に五つの音色百千鳥

    泥塗れのポスト

  • 百千鳥ぷちゅんと鳴いた今日は晴れ

    けしみずちゃん

  • 百千鳥パンク日和と腹くくり

    アナミスト

  • チョキで勝ち六段上がる百千鳥

    あらあらた

  • 仮名文字の筆の流れや百千鳥

    美村羽奏

  • 百千鳥老いてすべてをゆるしあふ

    磯貝あさり

  • パレットに足りない絵具百千鳥

    すずき 弥薫

  • 口すすぐ清流甘く百千鳥

    石井茶爺

  • 独りに慣れる今日は四時間百千鳥

    頭足人

  • 百千鳥大叔父設計の校舎

    服部 あや

  • ポリバルーンの光ふるわせ百千鳥

    オーガストスガワラマサト

  • 百千鳥ミカド座したる岩ぞ其れ

    南 楕円

  • 品川は銀色のまち百千鳥

    松 山陽兵

  • 西島の熱き地表や百千鳥

    ミエコハマタニ

  • 命名の墨は柔らか百千鳥

    ナタデココ

  • 子規囲む仲間はたえず百千鳥

    和田まさやん

  • 糸島は古代島らし百千鳥

    ららやにほ

  • 人間の言葉に飽きて百千鳥

    ひろ笑い

  • 百ちどり子どもが転ぶ木の根っこ

    桃園ユキチ

  • 柔らかな空の上澄み百千鳥

    喜祝音

  • 高原に到り百千鳥と別る

    薩克期風

  • 百千鳥五教科分のノートの塔

    西森笙

  • 百千鳥告げよ聖者のおでましを

    江澪

  • 愛猫の墓のさみしさ百千鳥

    蓼科 嘉

  • 百千鳥中国製の万国旗

    嶋村らぴ

  • 霊園の電話ボックス百千鳥

    みくにく

  • 百千鳥耳のきれいなこどもたち

    天風

  • ともだちが知らん子とおる百千鳥

    ゴリコのむすこはだれだ?9才

  • 朔太郎の帰郷の詩碑や百千鳥

    水上ルイボス茶

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