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初級者結果発表

2022年6月20日週の兼題

夏の海

【曜日ごとに結果を公開中】

【優秀句】

  • 少年にメロスの踵骨夏の海

    シュレディンガーの獏

  • 夏の海ここはくじらのいるふかさ

    山月

  • 夏の海白いモスクのやうな船

    杏乃みずな

  • 夏の海はつと冷たき沖の水

    横山雑煮

選者コメント

家藤正人

初級コースの金曜日掲載は中級への昇級の目安。中でも特に目を惹く句についてピックアップコメントをお届けします。


「少年にメロスの踵骨夏の海  シュレディンガーの獏」

踵骨とは文字通り、踵の骨。夏の海にいる人物、その肉体の小さな部位へと映像の焦点を絞って描きます。健康的な「少年」の踵と、友を救うため駆け通した「メロス」の取り合わせ。なにをしているなどと語らずとも、この少年が躍動する様を読者は脳裏に思い描けます。砂を蹴立てる傍らには夏の海が青々と寄せています。


「夏の海白いモスクのやうな船  杏乃みずな」

読者が俳句を読む時、上五から順に脳内に映像を組み立てていきます。まず「夏の海」がどかんと広がる。次になにやら「白」いもの。その白は「モスク」に例えられ、その白の正体は「船」であることが明らかになります。「夏の海」という舞台にミニチュアが配置されていくような語順が楽しい。青と白とのコントラストが明るい。


「夏の海はつと冷たき沖の水  横山雑煮」

肉体感覚に強い共感を覚えます。気持ち良く沖へと遊んでいると、ある地点を境に急に水温が変わる。その瞬間、今まで意識しなかった恐怖がはっと心に兆します。同じ内容を描くにあたり季語は「遠泳」などでも成立するかもしれませんが、「夏の海」は行為ではなく光景に比重があります。楽しい「夏の海」からの変転が眼目。


「夏の海ここはくじらのいるふかさ  山月」

夏の海の深さや冷たさに驚く気持ちも、こどもの目線で捉えると全然違った表情を見せてくれます。足がつかない深さ、海底が見えない深さ。そんな未知の「ふかさ」には「くじらがいる」に違いないのです。童心を思い出した大人の句か、こどもの言葉を聞き取ってあげたおしゃべり俳句か。体験の中に詩は育っていくものですね。


いずれもお見事でした。自信がついたら中級にもぜひ挑戦してみましょう!

  • ハイウェイの荷台には豚夏の海

    りぷさりす園芸店

  • 瑞風は旅の途中か夏の海

    花根ひろこ

  • 弔笛の鈍き響きや夏の海

    ふくろう悠々

  • 夏の海あの塩辛き親子丼

    土井あくび

  • 夏の海今度の人は泳げない

    舞童あづき

  • 油絵に交じる砂粒や夏の海

    しまのなまえ

  • 駅ノート書けずに閉じる夏の海

    さきとみつきのジジ

  • 魂が孵る真夜中夏の海

    こまの

  • 掛ける帆の吠えるが如く夏の海

    岸 小広

  • 父の背中もりもり匂ふ夏の海

    松山のとまと

  • 夏の海彼は誰時のロングトーン

    あねもねワンヲ

  • 3号機余震にしづか夏の海

    せんだ ゆう

  • 足首のミサンガ夏の海に入る

    大山和水

  • 夏の海蒼い硝子の仏飯器

    金井登子

  • 夏の海基地を過ぎ行くレンタカー

    ねこか花はっか

  • 夏の海異国の歌を知る硝子

    水取 象

  • 夏の海顔の上なるペーパーバック

    蒼空蒼子

  • 轍濃し此処より夏の海ひらく

    アナミスト

  • 天までのサーブ打ち出す夏の海

    磯花 珊瑚

  • 夏海の香の違ふ地へ嫁ぎけり

    駒村タクト

  • 夏の海形見のラヂオから短波

    空想婆

  • 夏の海休校告げる漁の旗

    酒楽康庵

  • 喧しき夏の海鼻紙に砂

    松 山陽兵

  • 夏の海眩し戦艦などいない

    笑田まき

  • 米を研ぐ少年黙す夏の海

    土方雪駄

  • ゼラチンの余震の硬さ夏の海

    風かおる

  • 早々と夜明けをねだる夏の海

    つまりの

  • 叔父さんは東京の人夏の海

    はくたい

  • 夏の海地嘴もうもうと砕く波

    かいぐりかいぐり

  • 黎明の夏の海ごと深呼吸

    憩 真七桜

  • あの朝の光る爆弾夏の海

    康寿

  • ペディキュアの抜かりなき赤夏の海

    てつなお

  • 夏の海地曵きの朝の砂を踏む

    上原まり

  • 夏の海藍染める手も深き青

    与野小町

  • ゆで卵の塩持ち帰る夏の海

    阿部八富利

  • 大教室抜けし四人や夏の海

    青に桃々@いつき組俳句迷子の会

  • イヤフォン外し流れこむ夏の海

    霧島ちかこ

  • そちこちに祈りの小瓶夏の海

    出楽久眞

  • 夏の海鼻にガツンと煮干蕎麦

    竹暖簾

  • 速歩の馬のたてがみ夏の海

    森海まのわ

  • 受け取りし百円に砂夏の海

    ひめのつばき

  • 遠き日の妣の握力夏の海

    堀本チャイニーズハット

  • 百枚のシャツ干したくて夏の海

    パンの木

  • 白亜紀を溶かして混ぜて夏の海

    村上 雪笹

  • 赤道に別れて来たり夏の海

    ゆきなごむ

  • 出張の車窓の眩し夏の海

    ぽんたちん

  • 夏の海釣瓶の水に洗ふ足

    悪七兵衛

  • 夏の海誰も知らない背中たち

    荒井まき子

  • 夏海に惑星の丸みの集魚灯

    佐々木四郎

  • 墓石拭きあがる夏の海光る

    山姥和

  • 生臭きは何か首都の夏の海

    縞ふみ

  • 筆洗は真っ青あすも夏の海

    青嵐

  • ガラム嗅ぐ一瞬の空夏の海

    千加乃子

  • OHTANIのヒットラジオは夏の海

    村田のりと

  • 夏海や砂丘に埋まる防砂林

    泰山木

  • 松脂の風頬に受け夏の海

    冬井三月

  • 民宿の庭につながる夏の海

    鳥羽蒼香

  • 軟球の朽ちた黒さよ夏の海

    うえばまさき

  • たまごやきの層がふぞろい夏の海

    かさ野ろく11才

  • 告白の転調速く夏の海

    亘航希

  • 靴粘る舗装の歪み夏の海

    長田写々

  • 夏の海飲むや光と人の骨

    とまや

  • ひかがみの濃き塩の香や夏の海

    六地蔵と狛犬

  • 夏の海日輪一個冷やしかね

    芝G

  • グッピーの死や放課後の夏の海

    イドウタ

  • 部活さぼる理由夏の海が青い

    くぅ

  • 島唄を聞く水牛や夏の海

    ひろ笑い

  • おしゃべりな肩甲骨や夏の海

    十月小萩

  • 夏の海遠い記憶の貝多し

    藤 えま

  • 夏の海削ぎしソースの堅さかな

    富土真木

  • 夏の海空白となる現住所

    本村なつみ

  • 夏の海グラスに泡の輪が五つ

    愉来理あゆむ

  • 夏の海や貝のまたたき波となる

    齋藤ちの

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