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初級者結果発表

2022年8月20日週の兼題

【曜日ごとに結果を公開中】

【優秀句】

  • 芒刈るやちさき馬頭碑あらわるる

    杜の声

  • いたいって今きづいたの夕すすき

    山の上のさん

  • 橋渡る僧はせわしや土手芒

    流藻

  • 火の性の耳鳴として花薄

    高山玲徹楚々(沖弦水から変更しました)

選者コメント

家藤正人

初級コースの金曜日掲載は中級への昇級の目安。中でも特に目を惹く句についてピックアップコメントをお届けします。



「火の性の耳鳴として花薄   高山玲徹楚々」

火の性は人の性質を表す言葉と読みました。かっと頭に血の上る、火のような生まれ持った性。まだ頭にも胸にも消せない炎が猛っています。柔和な銀色の薄が風に乱れます。胸中の熱に炙られるようにざわざわと鳴る薄。その音も気に食わない耳鳴りめいて心を引っ掻き続きます。


「いたいって今きづいたの夕すすき   山の上のさん」

薄の葉で手足を切ってました……なんて読みでは単純すぎて面白くありません。自分の心の痛みへの気付き、だと読みたいなあ。心があげていた悲鳴に気付き、誰かへ話す。あるいは夕陽の色に染まるすすきに語りかけているのでしょうか。口語でぽろりとこぼれ落ちる切なさ。


「芒刈るやちさき馬頭碑あらわるる   杜の声」

「馬頭碑」はとくに馬を供養し、無病息災を祈願する馬頭観音碑でしょう。農耕や畜産を続けてきたであろうこの土地の背景が察せられてきます。丈高い芒を払って碑が現れる静かな驚き。下五の連体形「あらわるる」の後の空白がハッと息を飲む感覚を追体験させてくれます。


「橋渡る僧はせわしや土手芒   流藻」

白いキャンバスに言葉が一つ一つ映像を生みます。まずは橋という舞台が現れ、次に僧が登場。その忙しげな足取りを俳諧味たっぷりに詠嘆するやいなや、カメラのレンズを緩めるように映像はぐぐーっと画面手前へと引き、作者の立つ土手へ至ります。こうして生み出された映像の奥行きを芒が満たします。遠近感の作り方が上手い!


いずれもお見事でした。自信がついたら中級にもぜひ挑戦してみましょう!

  • 振り回す芒に風が逃げていく

    吉岡幸一

  • 花芒通夜に明るき幼声

    庭野環石

  • バス停のベンチ短し夕芒

    秋白ネリネ

  • 発電機芒と吾子を照らす夜

    あいみす

  • ひかりあふ夜半の芒を束ねたる

    小田緑萌

  • 夕芒母の細りし髪を梳く

    前田いろは

  • お日様のこぼす息です芒野は

    有野 安津

  • サハラより帰りし夜の目に芒

    山田はち

  • 縁側に叔父のチェリーの香や芒

    神宮寺るい

  • 花芒名乗りて鏑矢を空へ

    織部なつめ

  • 錆びたのはチェーンか俺か小夜芒

    ぽんたちん

  • ウォーホルの自画像歌舞伎町の芒

    この世の果て

  • 隣家の芒やつわりの引き篭り

    可秘跳

  • 芒凪ぐ蔵はほんのり糀の香

    摂田屋酵道

  • 保育所のオルガン遠く芒かな

    ぽちさんぽ

  • まだ雲の川に明るき芒かな

    咲元無有

  • 芒野や財布に潜む一フラン

    江國優笑

  • 名のつかぬ病すすきの野は眩し

    青井えのこ

  • 彼の星へ芒の海を漕ぎ歩む

    想予

  • 芒挿す今宵も酒に逃げる父

    千の都

  • 芒揺れ小さきバスの扉閉じ

    ほのぼぉの@蚊帳のなか

  • この家にとうとうひとり芒挿す

    東の山

  • 芒採る手にはリードを引くちから

    中野 三日月

  • 駅ふたつ歩き芒の城の跡

    大橋

  • 芒揺れ山羊の瞼の重さかな

    河野八葉

  • 芒の刃月半分を切り落し

    あらかわすすむ

  • 廃鉱へ水たどりたり薄原

    キートスばんじょうし

  • 知らん間に店やめはった穂の芒

    れい

  • ナナハンを尾花が撫でしモツ定屋

    をぎやかなた

  • 大振りに活ける芒や夜の空

    郁爺

  • 芒原古地図に残る沼の文字

    森海まのわ

  • 断層の軋み万年芒生ふ

    真心素秋

  • 鉢植えの芒ねこ背の君の首

    千田とまと

  • 縦笛の和声にひらき花芒

    尾頭朔江ヱゐチ

  • 薄野の風その先は海と告ぐ

    平野佳音

  • 夜半の雨芒の原は寝付かれず

    小 日音

  • 兜脱ぎ芒の丘のロケ弁当

    ギボウシ金森

  • シナモン芳し真赭の芒かな

    かいぐりかいぐり

  • 猫毛雨月命日の芒かな

    宝塚御殿子

  • 芒道キャラメル溶けるまでの距離

    三杏樹

  • すすき挿す月のかしづくやうに挿す

    工藤遊子

  • 多摩川を渡れば晴れや芒の穂

    たかはし千百

  • 庭芒小さな小さな針の穴

    侍真満陽陰

  • 花芒軽々とゆれ軽く生く

    多摩川風子

  • 土星の環むずと毟りて芒の束

    アナミスト

  • 女王の訃報を聴いてゐた芒

    塩の司厨長

  • 雲切れて光の束の芒かな

    なつふじ

  • 鬼芒山城跡に墓ふたつ

    山姥和

  • 芒撫でる母撫でられぬ時の分

    遠藤波留

  • 骨拾う箸となりたる芒かな

    高石蓬莱

  • 合鍵も貰えぬ夜の芒かな

    江南和波

  • 新宿発奥飛騨着に花芒

    小林昇

  • 芒打つ風音よ瞽女の一列

    あいみのり

  • 芒の音しては義眼の乾き居り

    渡辺香野

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