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初級者結果発表

2022年10月20日週の兼題

立冬

【曜日ごとに結果を公開中】

【優秀句】

  • 立冬の看取りの床の洗面器

    緩木あんず

  • けふの夜は冬に入るなりちぶさの香

    川屋水仙

  • 立冬や新しい芽と寂しい木

    サーモン

  • 巻き上げる錨に立冬の火花

    喜祝音

選者コメント

家藤正人

初級コースの金曜日掲載は中級への昇級の目安。中でも特に目を惹く句についてピックアップコメントをお届けします。



「巻き上げる錨に立冬の火花   喜祝音」

鮮度とスピードのある映像が十七音で展開されます。何百キロとある濡れた鎖が海面から凄い勢いで飛び出してきます。次々と巻き上げられる錨の鎖。接触と摩擦でガリガリと散る火花。その火花は「立冬の火花」であると知覚する視線に詩があります。まだ秋の気配を残しつつ、冬らしい冷たさがたしかにある「立冬」の一場面。


「立冬の看取りの床の洗面器   緩木あんず」

淡々と映像を描きつつ、その奥には静謐な哀しみがあります。最期にあって、看取られる者と看取る者とが共有する切々とした時間が「立冬」という季語に凝縮しているような切なさ。湯を張り温かなタオルで身を清めもしたであろう「看取りの床の洗面器」がポツンと眼球に映ります。


「けふの夜は冬に入るなりちぶさの香   川屋水仙」

「ちぶさの香」をどんな場面と解釈するか。子に乳を吸わせる母親にも思えるし、働く女性の生活実感とも思えます。個人的には後者の読み。けふ一日の労働を終えて、夜。冷え込みから厚着をすることも増える時期でありましょう。脱衣場で服を脱ぎ、ふわっと霧散する自らの香り。むき出しになった肌を刺す夜の冷たさは間違いなく冬に入ったそれであります。


「立冬や新しい芽と寂しい木   サーモン」

立冬の冷たさの中で対比される「芽」と「木」の姿。「新しい」「寂しい」の口語表現に対して、「立冬や」の「や」は、文語の詠嘆として使われているのだろうと推測します。「や」の強い詠嘆で打ち出した季語の世界の内側で行われる私的対比。



いずれもお見事でした。自信がついたら中級にもぜひ挑戦してみましょう!

  • 今朝の冬辛き洗口液吐きぬ

    浜小鉢

  • 立冬の星空静かもつを煮る

    梅津桜子

  • 冬立ちて鳥の忘れし水皺かな

    秋野しら露

  • 立冬の光ほそぼそ食べてゆく

    松田あひる

  • 立冬のはさみ手紙がよく切れる

    霧島ちかこ

  • 立冬や雲の割れたる先の夕

    浅河祥子

  • タブタブと鳴る水枕今朝の冬

    わすれ傘

  • 立冬を削り出ださん肥後守

    遠藤玲奈

  • 立冬や並ぶ雀の胸白し

    村橋 桂

  • 保護猫の細き夜鳴きや冬に入る

    かりそめのビギン

  • 立冬の母校低すぎる鉄棒

    佐藤志祐

  • 軟膏を摺り込む脛や冬に入る

    岸 小広

  • 10年を空見る亀や冬に入る

    モンヌ組 宮本モンヌ

  • 放たれし子ら立冬の昼マック

    笹原あゆみ

  • 立冬の素足に昨夜切った爪

    アポカリプス

  • トーストを諦め予定なき立冬

    谷川炭酸水

  • 立冬や釘を真つ直ぐ打つあそび

    木野桂樹

  • 立冬やアルコール綿のつんとして

    蝦夷やなぎ

  • 仄白き影ひく卵冬に入る

    野口雅也

  • 立冬や鋸の歯二枚欠けてをり

    白神ハムサンド

  • 微かに香る湯気立冬の堆肥

    わかこ

  • 立冬のしづかにすくふモンブラン

    だいやま

  • ハモニカを吸ふ立冬のひかり吸ふ

    唯果

  • 立冬の日が看護師の影になる

    田村美穂

  • プロペラのゴムじぐざぐと冬来る

    松和み

  • 立冬や交換される網の焦げ

    芋一

  • 深み増すチェロの音色や冬に入る

    月待 小石

  • 立冬や遠くで疼く親知らず

    桂子

  • 朝練の道着の硬さ冬に入る

    美羽烏子

  • 立冬の雨よ雑事のあれこれよ

    あいまい もこ

  • 聖堂の塵きらめくや今朝の冬

    クロウメモドキ

  • 冬来る唐松林の踏み心地

    いつき組チクチク慶

  • 立冬の夜勤に響く輪転機

    小藤たみよ

  • 雨霏々として立冬の日本海

    晴鍬旅人

  • 立冬を跨ぎて旅のつつがなく

    さかい佳乃

  • 立冬や異国の鳥をお招きし

    東美節子

  • 立冬や胡椒パッパの夜泣き蕎麦

    松本ぐれみん

  • 立冬や軍手に長き薪の棘

    遊木葉子

  • 立冬の空へ空へとビル工事

    いまいやすのり

  • 立冬や庭に狸の糞温し

    粒野 餡子

  • 人生は錆のかたまり冬来る

    美佑紀まい

  • 穴深き工事現場や冬たちぬ

    葱ポーポー

  • 立冬や北向きに建つ古本街

    仁成

  • 左官のコテ冷し忙し今朝の冬

    尾頭朔江ヱゐチ

  • 立冬や旧家の庭に防空壕

    春蘭素心

  • 一年の喪くしたものを手に立冬

    白月 かなで

  • 笑う泣く手を振る立冬のパレード

    神島六男

  • さば猫の右目に涙冬来る

    花星壱和

  • 水銀の砕け散る夕冬立ちぬ

    かい みきまる

  • 制服の冷たき裏地今朝の冬

    小田緑萌

  • 九度目の立冬被害者遺族の会

    松山ぴの

  • スリッパをしぶしぶ犬にやる立冬

    羽織茶屋

  • 立冬を見つけに二人風の中

    渡辺 あつし

  • 立冬や牛の肛門衝く獣医

    ふくろう悠々

  • 立冬や小屋に響かせたるラジオ

    中山黒美

  • 教科書にポットの仕組み冬に入る

    阿部蓮南

  • 立冬を末期の酒を選びをり

    ティアラ文緒

  • 立冬ややよい時代の昼ごはん

    いぶき9才

  • 転ぶよに立冬夜を侵食す

    うぃーくねす

  • 張り替えし畳に香る今朝の冬

    渥美一弥

  • ムーミンの国の靴下冬に入る

    カワムラ一重

  • 襟の端の立冬の蟻吹き飛ばす

    空地ヶ有

  • 道端の石の声聞く今朝の冬

    月城龍二

  • コロッケは手で割り美味し冬に入る

    高村かな

  • 立冬の綺麗な翅と華奢な足

    朱久瑠

  • 立冬やボールのごとき鳥の影

    スターマンの息子

  • 立冬や去年死に損なった海

    たきるか

  • 指先の風の早さや冬に入る

    さきとみつきのジジ

  • 立冬や庭師の二人来る晴れ間

    月野うさぎ

  • 立冬の潰せば光るアルミ缶

    矢橋

  • 立冬の面接指の静電気

    秋白ネリネ

  • 走る馬走らぬ馬や冬に入る

    田中つきひ

  • 母の背の煌めく毛玉冬に入る

    いその松茸

  • 立冬の平均台を宙返り

    石井茶爺

  • 立冬や聳える楠の造る風

    すずき 弥薫

  • 立冬に触るるガラスの窓越しに

    山樫梢

  • 立冬や松枝護る縄の妙

    えちご散ざん

  • 深夜のスパ銭立冬のカルキ臭

    義勇和爾丸

  • 冬に入り下のレの音だけ出ない

    ささひので

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