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初級者結果発表

2023年2月20日週の兼題

花冷

【曜日ごとに結果を公開中】

【優秀句】

  • 花の冷あをき焔の角砂糖

    樋口滑瓢

  • 草の色淡し花冷えの草すべり

    田村ヒロミ

  • 血は赫し花冷の絵金のをんな

    織部なつめ

選者コメント

家藤正人

初級コースの金曜日掲載は中級への昇級の目安。中でも特に目を惹く句についてピックアップコメントをお届けします。


「血は赫し花冷の絵金のをんな 織部なつめ」

絵金とは、幕末から明治初期にかけて活躍した土佐の町絵師。極彩色の芝居絵はおどろおどろしくもあり、特に血赤と呼ばれる赤色は観る者に強烈な印象を与えます。上五「血は赫し」の言い切りから始まる一句の世界もまた同様。芝居絵の中の「をんな」が流す「血」の鮮烈さに捕らえられた作者の心。絵に相対する空間を包むように「花冷」の艶やかな冷たさが満たします。


「草の色淡し花冷えの草すべり 田村ヒロミ」

「草の色淡し」から始まるカメラワークが的確です。晩春の草の、若々しさから濃い緑へと移り始める頃合いの表情。「淡し」の言い切りがしっかりと映像化してくれます。続く「花冷え」はその場のあらゆるモノと空間の温度を少し冷たくします。花冷の草を潰し、冷たい空気を突っ切っていく「草すべり」はなんと気持ち良く楽しいことでしょう。滑る速度がさらに一句の世界の新鮮さを増します。


「花の冷あをき焔の角砂糖 樋口滑瓢」

炎色反応の実験かと思い調べてみましたが、全然違うものが出てきて驚きました。おそらくここで描かれている場面はカフェ・ロワイヤルというコーヒーの作り方。ブランデーを染み込ませた角砂糖を専用のスプーンの上で燃やし、混ぜる。なんともお洒落な飲み物です。あをき焔と共に立ち上るブランデーの芳香と、食い入るようにその様を観察する俳人の眼。花冷と取り合わせるバランス感覚も◎。


いずれもお見事でした。自信がついたら中級にもぜひ挑戦してみましょう!

  • 石ころになりたい花冷の宝石

    八田昌代

  • ソリストのブレス鋭く花の冷え

    九重かずら

  • アルゴーの円盤の微動花の冷え

    朱胡江

  • 空色のスカーフ花冷の霊園

    かねつき走流

  • 花冷やうるせえ母はもういない

    こぐまたいぼく

  • きりん今きらめくよだれ花の冷

    玉家屋

  • 橋渡る波立つ川の花冷に

    sodeco

  • 花冷のジェラルミンケースへ校旗

    山田どゞこ

  • 花冷や平たき耳のお役人

    トラヴィス・ビックル

  • 花冷えやかなしいくらい星の数

    桜木レイ

  • 缶コーヒー固し花冷の深爪

    こてぬぐい

  • 花冷や飛騨の地酒に美濃の猪口

    鈴木古舟

  • 花冷や美術教師の鼻濁音

    清瀬朱磨

  • 花冷の鼻先つんと水苦し

    小 日音

  • スムーズに畳めぬ地図や花の冷

    すずき 弥薫

  • 花冷えの魂抜けた部屋に椅子

    春村実季果

  • 花冷えを来て振り仰ぐ鳳凰図

    美竹花蘭

  • 花冷えやさよならだけの手紙ゆえ

    霧潤(むじゅん)

  • 「学童落ちた」快晴の花冷

    蝦夷の子

  • 遊具みな少し濡れたる花の冷え

    竹八郎

  • 動かざる大西郷や花の冷え

    生田萩の

  • 花冷えの非正規の朝のキャラメル

    吉河好

  • 花冷の社務所の薄いお座布団

    ギボウシ金森

  • 花冷の素直に開かぬジャムの蓋

    かまど猫

  • 花冷や故郷に誰も会はぬ径

    金子加行

  • 斜光浴ぶ花冷えの太陽の塔

    真心素秋

  • 花冷えの野に滴るや鳥の聲

    ねうねうこ

  • クリムトの金の接吻花の冷え

    みくにく

  • 花冷えや南に靡く屋敷林

    垣我実

  • 円山や小夜なほ匂ふ花の冷え

    井出譲

  • 花冷えつてやつだねと言ふ手の湯呑

    小田緑萌

  • 花冷えやおてんとさまの砕き方

    時小町

  • 花冷やなけなし叩き買う戒名

    アクエリアスの水

  • 花冷えの澪白々と帰り来る

    岡 草紅葉

  • 路地裏の三味花冷の墨田川

    浜小鉢

  • 花冷や充たす麻酔の水のあじ

    傘子

  • 花冷の艶メレンゲに立ちし角

    滝上 珠加

  • たたみたる実家の広さ花の冷

    ふるしょう福花

  • 花冷や水都へ下りゆく舟運

    近江菫花

  • 新しき職場の椅子や花の冷え

    南 楕円

  • 花冷えや落とした缶の泡吹き出

    齋陽花

  • 花冷えや金のコインを売りに行く

    周防の兎

  • 花冷や予約客来ぬ山の小屋

    池弘庵翁

  • 花冷や自販機のミサイル情報

    猫舌扁平足

  • 献杯や車窓には花冷の宇治

    杼 けいこ

  • 花冷や飛び出し君の目が黒い

    髙倉光

  • 花冷や洞窟風呂に灯の一つ

    細川鮪目

  • 花冷や行き交う貨物船の色

    瀬戸 岬

  • 花冷えのハローワークの手話ひそか

    成瀬理子

  • 目薬のしみる右目や花の冷え

    笹倉沙希

  • 新装開店花冷の二時間前

    おでめ

  • 花冷の町を小さき探検隊

    風来坊健丸

  • 花冷のボルシチ熱し君を泣く

    草秋桃源

  • 花の冷え休職の爪伸び易し

    鷺沼くぬぎ

  • 花冷をたゆたふ鈍き月経痛

    つばさ

  • 花冷えや二歳の姪の骨白し

    鉄腕二十八衛門

  • 花冷えや本に栞があるように

    ならば粒あん

  • 花冷の空が離婚を推していた

    満生あをね

  • 花冷えや疼く予感の親不知

    風かおる

  • 花冷の硯こつんと墨を受く

    とおやまみえこ

  • 花冷や空の高さは木の高さ

    延邨佳直

  • 筆圧のやさしき文字に花冷えに

    潮ベルト

  • 花冷の手はびんずるさまの胸へ

    田川泥舟

  • 売り切れた米屋のむすび花の冷え

    章@ノエル

  • 花冷や朝がゆ会のにぎわえり

    PONホンダ

  • 花冷えや今年のシラバスは萌葱

    水取 象

  • 花冷の朱房の湿りらっぱ隊

    釋 北城

  • 花冷の朝は薄闇月は櫛

    北青山晋

  • 偽薬めく嘘やはらかに花の冷え

    前田いろは

  • 花冷の宵寺田屋の刀傷

    米山

  • 花冷やキスは静電気の苦み

    舞童あづき

  • 花冷や柳刃を研ぐそして研ぐ

    豆柴

  • 花冷えのキルギスの蜜濁り居り

    永井うた女

  • 花冷の鏡は片仮名の固さ

    喜祝音

  • 煙草屋の引戸に忌中花の冷え

    袋小路 綴乃

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