野遊
シュレディンガーの獏
花蜜伊ゆ
川屋水仙
家藤正人選
初級コースの金曜日掲載は中級への昇級の目安。中でも特に目を惹く句についてピックアップコメントをお届けします。
「野遊びやカバの欠伸のような晴れ 花蜜伊ゆ」
語順の展開が独特な比喩を活かしています。上五「野遊びや」で広々とした空間を強く詠嘆。続く描写では、カバの大きな大きな欠伸がクローズアップされる……かと思いきや、中七の終わりには比喩であることがわかります。空間の広さ、カバの欠伸の巨大なのどかさ、それらが全て比喩の終着点である「晴れ」へと結びついていきます。野の水平方向の広がり、空への垂直方向の広がり。空間の立体的な広さが見えてきます。
「尾てい骨きよく正しく野に遊ぶ シュレディンガーの獏」
いったい「尾てい骨」をどう使っているのか。具体的な描写はありません。読み手は「きよく正しく野に遊ぶ」姿を「尾てい骨」という部位をキーワードに想像して楽しみます。ただ草に寝転んでいてもいい。転げ回って尻を草の汁に染めてもいい。強い尻餅に尾てい骨を痛めてもいい。その躍動感や自由を全て保証することが「きよく正しく野に遊ぶ」ことなのです。
「野遊びは星ほろぶ日の午後のごと 川屋水仙」
明るく描かれることの多い「野遊び」ですが、こんな屈折した描き方もできるのか、と唸らされました。もう星がほろぶのだとわかっている日。その午後。明日の予定もない。時間の制約もない。インフラだって死んでいるでしょう。誰からの連絡もない。滅びを受け入れて、ただ最後の時を心ゆくまで過ごす春の野。草の青い匂いに囲まれ、退廃的な明るさのなかで過ごす姿は印象派の絵画のようですらあります。
いずれもお見事でした。自信がついたら中級にもぜひ挑戦してみましょう!
かりそめのビギン
清瀬朱磨
緩木あんず
紗千子
浩子赤城おろし
しみず 茜湖
すみれ(5さい)
ヒマラヤ杉
竹内ダイアナ
周防の鼠
ゆうゆう朔ら望
足立とんび
しぶ亭
永井無々
星詩乃すぴか
ぴょんばぁ
へたおかまこ
あらあらた
金子加行
慈夢りん
みなみほ
ねうねうこ
椿 律
加田紗智
伊予素数
選者コメント
家藤正人選
初級コースの金曜日掲載は中級への昇級の目安。中でも特に目を惹く句についてピックアップコメントをお届けします。
「野遊びやカバの欠伸のような晴れ 花蜜伊ゆ」
語順の展開が独特な比喩を活かしています。上五「野遊びや」で広々とした空間を強く詠嘆。続く描写では、カバの大きな大きな欠伸がクローズアップされる……かと思いきや、中七の終わりには比喩であることがわかります。空間の広さ、カバの欠伸の巨大なのどかさ、それらが全て比喩の終着点である「晴れ」へと結びついていきます。野の水平方向の広がり、空への垂直方向の広がり。空間の立体的な広さが見えてきます。
「尾てい骨きよく正しく野に遊ぶ シュレディンガーの獏」
いったい「尾てい骨」をどう使っているのか。具体的な描写はありません。読み手は「きよく正しく野に遊ぶ」姿を「尾てい骨」という部位をキーワードに想像して楽しみます。ただ草に寝転んでいてもいい。転げ回って尻を草の汁に染めてもいい。強い尻餅に尾てい骨を痛めてもいい。その躍動感や自由を全て保証することが「きよく正しく野に遊ぶ」ことなのです。
「野遊びは星ほろぶ日の午後のごと 川屋水仙」
明るく描かれることの多い「野遊び」ですが、こんな屈折した描き方もできるのか、と唸らされました。もう星がほろぶのだとわかっている日。その午後。明日の予定もない。時間の制約もない。インフラだって死んでいるでしょう。誰からの連絡もない。滅びを受け入れて、ただ最後の時を心ゆくまで過ごす春の野。草の青い匂いに囲まれ、退廃的な明るさのなかで過ごす姿は印象派の絵画のようですらあります。
いずれもお見事でした。自信がついたら中級にもぜひ挑戦してみましょう!