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初級者結果発表

2023年4月20日週の兼題

麦の秋

【曜日ごとに結果を公開中】

【優秀句】

  • 麦秋や風にあらがふ大鴉

    能研ショテカ

  • 信州に荒神をりて麦の秋

    林 壽

  • 靴音の明るき画廊麦の秋

    喜祝音

選者コメント

家藤正人

初級コースの金曜日掲載は中級への昇級の目安。中でも特に目を惹く句についてピックアップコメントをお届けします。


「麦秋や風にあらがふ大鴉   能研ショテカ」

時候の季語である「麦の秋」は具体的な映像を持ちません。映像を持たない季語と取り合わせるには具体的な映像を描写するのがセオリー。天を仰いだ視線の先には、向かい風に飛ぶ一羽の鴉。翼満々に風を受ける様を伝えて「大」の一字が効いています。風に抗う鴉の目線からは、遠く麦の熟れる広大な景色も見えているのでしょうか。


「靴音の明るき画廊麦の秋   喜祝音」

視線を誘導する語順の展開も上手い一句。足下を連想させる「靴音」から始まり、様々な靴が行き交う「画廊」という空間が立ち上がります。「明るき」は靴音の軽快さだけでなく、画廊を満たす光量や朗らかな雰囲気も伝えます。時候の季語である「麦の秋」の初夏の季感を活かしつつ、農耕と「麦」そのものからは距離を置いた描き方が内容に似合います。


「信州に荒神をりて麦の秋   林 壽」

荒神さま、荒神さん、とも呼ばれる存在は複雑な成り立ちを持つ神様です。一説には農業全般の神や竈の神とされ、火災や厄難から守ってくれるそうです。豊かな信州の地にもたらされる恵みは荒神さまの加護の賜物か。強い断定ではなく「をりて」と軽く受けて下五へと繋ぐ語りのさりげなさも上手い。ゆるっと視線が移り変わるように、広大な実りの遠景へと映像が結ばれていきます。


いずれもお見事でした。自信がついたら中級にもぜひ挑戦してみましょう!


  • ハーモニカ形見になって麦の秋

    しろくも

  • 麦秋の湖ひとつ産みさうな波動

    三尺玉子

  • 麦秋や詩情は昏い穴の底

    荒星笑石

  • 麦秋や少し悲しい童歌

    一寸雄町

  • 麦の秋レントゲンには痩せた骨

    染野まさこ

  • 新任へ地酒一献麦の秋

    福原あさひ

  • 麦秋や空の青さの潔さ

    水無瀬りりー

  • 麦秋の風神帰る寝床かな

    馬場めばる

  • 日の本の臍に立ちたる麦の秋

    浩子赤城おろし

  • 麦の秋急かすは風の繰る頁

    町田明哉

  • 母が逝き不意の自由や麦の秋

    禅心大河

  • 麦の秋放屁したげなカメレオン

    布施 木啄

  • 皿洗う水は柔らか麦の秋

    紫月歪丸

  • 麦の秋また明日って言いたいよ

    水桜

  • 麦の秋です今日だけは進め吾

    夢々

  • 致死量の恋ばかりして麦の秋

    シュレディンガーの獏

  • 麦の秋ロックは聴かないつもりだった

    足立とんび

  • 麦の秋クロスロードに労働歌

    アナミスト

  • ハーレーを残し父逝く麦の秋

    輝久

  • ハモニカの音ごちゃごちゃに麦の秋

    葱ポーポー

  • シャガールの太陽は朱に麦の秋

    花見鳥

  • 断崖に子牛落ちるな麦の秋

    岩橋夕紀

  • 異国より婿の来にけり麦の秋

    佐野すずめ

  • 諫早の海のあけすけ麦の秋

    玉家屋

  • 麦秋の風涙ふいた道に猫

    道将 ミチ

  • 口笛に応ふ口笛麦の秋

    藤原涼

  • 麦秋の風や翼の設計図

    紗千子

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