蜘蛛
樽熊だん
茂田野マイ子
水無瀬りりー
家藤正人選
初級コースの金曜日掲載は中級への昇級の目安。中でも特に目を惹く句についてピックアップコメントをお届けします。
「生け垣の蜘蛛や光を食べに食べ 樽熊だん」
蜘蛛の口元に焦点を絞って描く、広義の一物仕立て。蜘蛛の動きをよく観察していると、しきりに顎を動かしている場面に遭遇します。生け垣に止まった小さな蜘蛛の、さらに小さな口元。本当になにかを食べているのかもわかりません。しかしその様を「光を食べに食べ」ているのだと描写するのが俳人の目線です。無心に繰り返す動作の連続を「食べに食べ」と下五のリフレインで表すのも確かな技術。
「壁に蜘蛛クレームはまた同じ声 茂田野マイ子」
蜘蛛は益虫だから殺してはならないとも言われます。壁に蜘蛛が這っているのも見慣れた光景。また鳴る電話も、同じ声が告げるクレームも聞き慣れた音。「また」の二音が言葉の経済効率良く、人物と仕事との関係性を示していて上手い。倦怠と厭わしさが絶妙に折り合って続く日常に強いリアリティがあります。「壁に蜘蛛」から始める語順も言葉のパワーバランスを季語へと傾ける一工夫。
「屋久島の蜘蛛は少しだけ喋れる 水無瀬りりー」
本当はあり得ないことを無理矢理言い切ってしまうというのも、詩を発生させるためのテクニックのひとつ。古からの自然が残る「屋久島」ならもしかして……と思わせるだけの力が固有名詞にあります。きっと大きな蜘蛛もいるでしょう。大顎と牙を擦り合わせて微細な音を出すかもしれない。それは彼らなりの会話かも……と想像すると、意識の中の蜘蛛たちは徐々にそのリアリティを増していきます。
いずれもお見事でした。自信がついたら中級にもぜひ挑戦してみましょう!
竹石猫またぎ
三緒破小
バンブー
知無須園
まつたいら西
山月
伊代ちゃんの娘2
たこ山焼之輔
かい みきまる
星鴉乃雪
高重安眠
シュレディンガーの獏
ハンマーヘッド会釈
澤木樹心
岩清水 彩香
春あおい
たきるか
山口葵生
十月小萩
高山玲徹楚々
風路観徒 宮崎
選者コメント
家藤正人選
初級コースの金曜日掲載は中級への昇級の目安。中でも特に目を惹く句についてピックアップコメントをお届けします。
「生け垣の蜘蛛や光を食べに食べ 樽熊だん」
蜘蛛の口元に焦点を絞って描く、広義の一物仕立て。蜘蛛の動きをよく観察していると、しきりに顎を動かしている場面に遭遇します。生け垣に止まった小さな蜘蛛の、さらに小さな口元。本当になにかを食べているのかもわかりません。しかしその様を「光を食べに食べ」ているのだと描写するのが俳人の目線です。無心に繰り返す動作の連続を「食べに食べ」と下五のリフレインで表すのも確かな技術。
「壁に蜘蛛クレームはまた同じ声 茂田野マイ子」
蜘蛛は益虫だから殺してはならないとも言われます。壁に蜘蛛が這っているのも見慣れた光景。また鳴る電話も、同じ声が告げるクレームも聞き慣れた音。「また」の二音が言葉の経済効率良く、人物と仕事との関係性を示していて上手い。倦怠と厭わしさが絶妙に折り合って続く日常に強いリアリティがあります。「壁に蜘蛛」から始める語順も言葉のパワーバランスを季語へと傾ける一工夫。
「屋久島の蜘蛛は少しだけ喋れる 水無瀬りりー」
本当はあり得ないことを無理矢理言い切ってしまうというのも、詩を発生させるためのテクニックのひとつ。古からの自然が残る「屋久島」ならもしかして……と思わせるだけの力が固有名詞にあります。きっと大きな蜘蛛もいるでしょう。大顎と牙を擦り合わせて微細な音を出すかもしれない。それは彼らなりの会話かも……と想像すると、意識の中の蜘蛛たちは徐々にそのリアリティを増していきます。
いずれもお見事でした。自信がついたら中級にもぜひ挑戦してみましょう!