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初級者結果発表

2023年5月20日週の兼題

蜘蛛

【曜日ごとに結果を公開中】

【優秀句】

  • 生け垣の蜘蛛や光を食べに食べ

    樽熊だん

  • 壁に蜘蛛クレームはまた同じ声

    茂田野マイ子

  • 屋久島の蜘蛛は少しだけ喋れる

    水無瀬りりー

選者コメント

家藤正人

初級コースの金曜日掲載は中級への昇級の目安。中でも特に目を惹く句についてピックアップコメントをお届けします。



「生け垣の蜘蛛や光を食べに食べ   樽熊だん」

蜘蛛の口元に焦点を絞って描く、広義の一物仕立て。蜘蛛の動きをよく観察していると、しきりに顎を動かしている場面に遭遇します。生け垣に止まった小さな蜘蛛の、さらに小さな口元。本当になにかを食べているのかもわかりません。しかしその様を「光を食べに食べ」ているのだと描写するのが俳人の目線です。無心に繰り返す動作の連続を「食べに食べ」と下五のリフレインで表すのも確かな技術。


「壁に蜘蛛クレームはまた同じ声   茂田野マイ子」

蜘蛛は益虫だから殺してはならないとも言われます。壁に蜘蛛が這っているのも見慣れた光景。また鳴る電話も、同じ声が告げるクレームも聞き慣れた音。「また」の二音が言葉の経済効率良く、人物と仕事との関係性を示していて上手い。倦怠と厭わしさが絶妙に折り合って続く日常に強いリアリティがあります。「壁に蜘蛛」から始める語順も言葉のパワーバランスを季語へと傾ける一工夫。


「屋久島の蜘蛛は少しだけ喋れる   水無瀬りりー」

本当はあり得ないことを無理矢理言い切ってしまうというのも、詩を発生させるためのテクニックのひとつ。古からの自然が残る「屋久島」ならもしかして……と思わせるだけの力が固有名詞にあります。きっと大きな蜘蛛もいるでしょう。大顎と牙を擦り合わせて微細な音を出すかもしれない。それは彼らなりの会話かも……と想像すると、意識の中の蜘蛛たちは徐々にそのリアリティを増していきます。



いずれもお見事でした。自信がついたら中級にもぜひ挑戦してみましょう!


  • 夕星や蜘蛛の見てゐる胸の痣

    竹石猫またぎ

  • 雨の日のジャズとエクセル表と蜘蛛

    三緒破小

  • 蜘蛛の囲の掛け違えたる歪みあり

    バンブー

  • 悪いこといふ口哀し夜の蜘蛛

    知無須園

  • 蜘蛛の囲の発火しさうな孤独かな

    まつたいら西

  • 嫁してまづ蜘蛛の巨大に驚きぬ

    山月

  • 恋なのか罠なのか光る蜘蛛の囲

    伊代ちゃんの娘2

  • 蜘蛛の眼の数はわたしの嘘の数

    たこ山焼之輔

  • 翅はまだ動きて蜘蛛の動かざる

    かい みきまる

  • リハビリも検査も飽きた蜘蛛ぽつん

    星鴉乃雪

  • 蜘蛛は皆女と思う雨の庭

    高重安眠

  • 履歴書のつくづく余白しずく蜘蛛

    シュレディンガーの獏

  • また蜘蛛を打つて遺品の整理かな

    ハンマーヘッド会釈

  • 蜘蛛の囲や遠く聞こゆる通りゃんせ

    澤木樹心

  • 狛犬の阿より下りくる女郎蜘蛛

    岩清水 彩香

  • みずからの重さを背負い蜘蛛おりる

    春あおい

  • 面接の机のキワのキワを蜘蛛

    たきるか

  • 蜘蛛の巣にひかりが引つかかつてゐる

    山口葵生

  • せっかちな蜘蛛月光を編んでいる

    十月小萩

  • 月蝕の滓に染まらず女郎蜘蛛

    高山玲徹楚々

  • 蜘蛛ぐらい出ますよ古い家だもの

    風路観徒 宮崎

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