雷
天雅
天野若花
すげがさ
家藤正人選
初級コースの金曜日掲載は中級への昇級の目安。中でも特に目を惹く句についてピックアップコメントをお届けします。
「地球儀の「ソ連」剥げかけ日雷 天雅」
ソ連ことソビエト連邦の崩壊は1991年。少なくともこの地球儀は1991年以前に作られ、長い時間を少しずつ痛みつつ今に至っているわけです。「剥げかけ」という映像のディテールがあれば「ソ連」にカギカッコをつけなくても良いか? と思いつつも、その配慮の意図はわかります。空気を震わせる「日雷」は剥げるラベルの端をもまた震わせます。ロシアによるウクライナ侵略という災禍も句の底に潜められているようです。
「雷鳴痛快ラーメン屋に一人 すげがさ」
八音+九音の破調の型が外と内との空間的断絶を表現してくれています。恐ろしい「雷鳴」ですが、その脅威に直接晒されない場であればこんな楽しみ方もできるでしょう。他に客もない「ラーメン屋」となれば、あまり快適でも味が良くもなさそう。油ぎった店内にまでガラゴロと騒々しい迫力で転がりまわる「雷鳴」。自分ひとりのためにこの場があるかのような「痛快」な一時です。
「雷の化石隆起する大陸 天野若花」
雷そのものが化石になるわけではありません。では「雷の化石」とはなにか? 個人的には、長い時間をかけて隆起を繰り返した地球という巨大な大陸への詩的断定であると読みました。世界中のあらゆる場所で起きた雷、その閃きや音が震わせた粒子ひとつひとつを地層が記憶しているかのような、大胆な詩のスケール。現在形「隆起する」によって、その着想が過去・現在・未来へと至る永遠性を獲得しています。
いずれもお見事でした。自信がついたら中級にもぜひ挑戦してみましょう!
高山玲徹楚々
十月小萩
すずき 弥薫
玉家屋
かりそめのビギン
阿蘇の乙女
前田いろは
ならば粒あん
小椋チル
南 楕円
茜咲
川屋水仙
細野めろん
神戸の老寺士
小田緑萌
町田明哉
山本美奈友
藤井舞月
うめのうぐいす
滝上 珠加
山口葵生
野洲慧
堀江むすぶ
ハンマーヘッド会釈
多数野麻仁男
とはち 李音
白川ゆう
茂田野マイ子
柳ゆるり
春あおい
春野ぷりん
蝦夷やなぎ
喜祝音
いその松茸
三毛猫モカ
選者コメント
家藤正人選
初級コースの金曜日掲載は中級への昇級の目安。中でも特に目を惹く句についてピックアップコメントをお届けします。
「地球儀の「ソ連」剥げかけ日雷 天雅」
ソ連ことソビエト連邦の崩壊は1991年。少なくともこの地球儀は1991年以前に作られ、長い時間を少しずつ痛みつつ今に至っているわけです。「剥げかけ」という映像のディテールがあれば「ソ連」にカギカッコをつけなくても良いか? と思いつつも、その配慮の意図はわかります。空気を震わせる「日雷」は剥げるラベルの端をもまた震わせます。ロシアによるウクライナ侵略という災禍も句の底に潜められているようです。
「雷鳴痛快ラーメン屋に一人 すげがさ」
八音+九音の破調の型が外と内との空間的断絶を表現してくれています。恐ろしい「雷鳴」ですが、その脅威に直接晒されない場であればこんな楽しみ方もできるでしょう。他に客もない「ラーメン屋」となれば、あまり快適でも味が良くもなさそう。油ぎった店内にまでガラゴロと騒々しい迫力で転がりまわる「雷鳴」。自分ひとりのためにこの場があるかのような「痛快」な一時です。
「雷の化石隆起する大陸 天野若花」
雷そのものが化石になるわけではありません。では「雷の化石」とはなにか? 個人的には、長い時間をかけて隆起を繰り返した地球という巨大な大陸への詩的断定であると読みました。世界中のあらゆる場所で起きた雷、その閃きや音が震わせた粒子ひとつひとつを地層が記憶しているかのような、大胆な詩のスケール。現在形「隆起する」によって、その着想が過去・現在・未来へと至る永遠性を獲得しています。
いずれもお見事でした。自信がついたら中級にもぜひ挑戦してみましょう!