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初級者結果発表

2023年6月20日週の兼題

【曜日ごとに結果を公開中】

【優秀句】

  • 地球儀の「ソ連」剥げかけ日雷

    天雅

  • 雷の化石隆起する大陸

    天野若花

  • 雷鳴痛快ラーメン屋に一人

    すげがさ

選者コメント

家藤正人

初級コースの金曜日掲載は中級への昇級の目安。中でも特に目を惹く句についてピックアップコメントをお届けします。



「地球儀の「ソ連」剥げかけ日雷   天雅」

ソ連ことソビエト連邦の崩壊は1991年。少なくともこの地球儀は1991年以前に作られ、長い時間を少しずつ痛みつつ今に至っているわけです。「剥げかけ」という映像のディテールがあれば「ソ連」にカギカッコをつけなくても良いか? と思いつつも、その配慮の意図はわかります。空気を震わせる「日雷」は剥げるラベルの端をもまた震わせます。ロシアによるウクライナ侵略という災禍も句の底に潜められているようです。


「雷鳴痛快ラーメン屋に一人   すげがさ」

八音+九音の破調の型が外と内との空間的断絶を表現してくれています。恐ろしい「雷鳴」ですが、その脅威に直接晒されない場であればこんな楽しみ方もできるでしょう。他に客もない「ラーメン屋」となれば、あまり快適でも味が良くもなさそう。油ぎった店内にまでガラゴロと騒々しい迫力で転がりまわる「雷鳴」。自分ひとりのためにこの場があるかのような「痛快」な一時です。


「雷の化石隆起する大陸   天野若花」

雷そのものが化石になるわけではありません。では「雷の化石」とはなにか? 個人的には、長い時間をかけて隆起を繰り返した地球という巨大な大陸への詩的断定であると読みました。世界中のあらゆる場所で起きた雷、その閃きや音が震わせた粒子ひとつひとつを地層が記憶しているかのような、大胆な詩のスケール。現在形「隆起する」によって、その着想が過去・現在・未来へと至る永遠性を獲得しています。



いずれもお見事でした。自信がついたら中級にもぜひ挑戦してみましょう!


  • 雷の止んで日当たるもぐら穴

    高山玲徹楚々

  • 伊邪那美はただ悲しんだ雷の夜

    十月小萩

  • 遠雷や上糸ばかりつるミシン

    すずき 弥薫

  • 肺胞の哀しき湿り雷兆す

    玉家屋

  • 遠雷やドロップ缶の錆熱し

    かりそめのビギン

  • 火の山を鎮め給ひしはたた神

    阿蘇の乙女

  • 猫の目はトパーズ雷の夜を光る

    前田いろは

  • 雷よ龍の鱗を削ぎったか

    ならば粒あん

  • 試薬ツンとして二発目の雷

    小椋チル

  • ガン病棟雷神誰を訪れり

    南 楕円

  • 迅雷や夕の米とぎ水ぬるく

    茜咲

  • 雷ひとつ雷ひとつティラノサウルス

    川屋水仙

  • 迅雷に軋む塩ビの屋根ぐわり

    細野めろん

  • 雷は天より落つる瀑布かな

    神戸の老寺士

  • 硝子器の薄き切身や昼の雷

    小田緑萌

  • 日雷寝直す床の生ぬるし

    町田明哉

  • 雷や置かれたままの櫛の艶

    山本美奈友

  • 雷落ちて動き出す蝋人形

    藤井舞月

  • 雷や遠く秘色に夜の海

    うめのうぐいす

  • 日雷造影剤の光る管

    滝上 珠加

  • 雷雨の夜安全太郎の腕の錆

    山口葵生

  • 髪の匂ひ思ひ出したる雷雨かな

    野洲慧

  • 雷落ちた今日は精神科に行った

    堀江むすぶ

  • いかづちやハブ酒の瓶にハブがゐて

    ハンマーヘッド会釈

  • 遠雷やボトルシップの帆が立たぬ

    多数野麻仁男

  • 逢はせたき人のゐるらしはたた神

    とはち 李音

  • いかづちの痕か背骨の昏きまま

    白川ゆう

  • みづうみに雷突き刺さり底静か

    茂田野マイ子

  • 雷や白くこわばる空の肌理

    柳ゆるり

  • 人形の薄目してゐる雷の夜

    春あおい

  • 雷鳴や産気づく猫は真白き

    春野ぷりん

  • 雷の中を羽田へ高度下ぐ

    蝦夷やなぎ

  • 雷や書斎に異国語の禁書

    喜祝音

  • なまめいてゐる遠雷逃げる逃げる

    いその松茸

  • 雷鳴やこの小説はむずがゆい

    三毛猫モカ

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