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初級者結果発表

2023年8月20日週の兼題

夜長

【曜日ごとに結果を公開中】

【優秀句】

  • 本を読む勘を夜長に戻しつつ

    金子加行

  • 父を待つ孫と星釣る夜長かな

    櫂野雫

  • 犬の来た日いなくなった日夜長し

    音拍

選者コメント

家藤正人

初級コースの金曜日掲載は中級への昇級の目安。中でも特に目を惹く句についてピックアップコメントをお届けします。



「父を待つ孫と星釣る夜長かな   櫂野雫」

俗に「孫俳句は難しい」と言われますが、こういう佳句を見ると要はやり方次第なのだと改めて思わされます。登場人物の関係性と背景がわかる前半、静かな時間を共有する後半。「星釣る」は海面あるいは湖面に散らばる星月の光を映像化する美しい詩語。詠嘆がしっとりと夜長の湿った闇を纏わらせて現実感を強めます。


「犬の来た日いなくなった日夜長し   音拍」

犬が来た日からいなくなった日まで、どれくらいの時間だったのかは読み手の鑑賞に委ねられています。数日の出会いと別れか、長年の家族か。あるいは犬と関わる仕事の一環なんて読みもできるかもしれません。いずれにせよ心寂しく思い出のパズルを抱えて夜長を過ごしているのです。上五をあえて字余りにして表す繊細な心模様。


「本を読む勘を夜長に戻しつつ   金子加行」

本好きとしてほろ苦く共感……。しばし読書から遠ざかり、久々に本を手に取ると自らの読書体験に違和感を感じます。身体の動かし方を忘れてしまったような感覚はまさに「勘」とも呼ぶべきもの。もどかしくもページを捲り、失った勘を取り戻そうと時間をかけてもがく。そんなままならなさも含めて愛しい、読書の秋のとっぷりと深い夜長であります。



いずれもお見事でした。自信がついたら中級にもぜひ挑戦してみましょう!


  • 予後の良き夜長さりさりシュレッダー

    三緒破小

  • 髄液の綺麗やおもふ夜長かな

    煉獄佐保子

  • 虫瘤の秘密ふくれゆく夜長

    山内蛙

  • 匿名希望葉書読まれる夜長

    秋月あさひ

  • こころ風邪気味につき夜長をひとり

    粒野 餡子

  • 星さがす術忘れたる夜の長き

    田中つきひ

  • 語るにも黙るにもよき夜長かな

    緑 萃生

  • とろとろと醤油しみこむ夜長かな

    川屋水仙

  • 夫も子も夕飯要らぬ夜長さて

    窪田よっこばあ

  • 父の死を待ちて夜長のベッド脇

    賀茂ももか

  • 父の死におさまりのよい雨夜長

    赤坂みっけ

  • 恋敗れパンをこねたる夜長かな

    柚子 檸檬

  • 長き夜や吾子の義足に注すオイル

    松山松男

  • 歯切れよきファゴット鳴らす夜ぞ長し

    木化石

  • 伏線を拾ふ夜長の乱歩かな

    花蜜伊ゆ

  • 思ひ出し笑ひ三度の夜長かな

    山月

  • 家系図の私は他人夜長かな

    花咲春

  • 南座の番付めくる夜長かな

    高保ちこ

  • 看板は見切れ難波の夜長かな

    となりの天然石

  • 長き夜を裂きタンカーの浪ますぐ

    アナミスト

  • 星座盤携え夜長の風となる

    水上ルイボス茶

  • 五線紙に記する鳥語や夜の長し

    すずき 弥薫

  • 悪筆に添える折り鶴長夜かな

    ひな子桃青

  • 長き夜灯は蝋燭をはなれ得ず

    高山冷徹楚々

  • 夜長から逃げよ私の影法師

    志都はねこ

  • 遠き背に口が乾きてあゝ夜長

    高原未春

  • 長き夜指はユーラシアを西へ

    鳥乎

  • 長き夜のストマ袋も吾の臓器

    あらあらた

  • つながらぬ電話震度五の長き夜

    花星壱和

  • 長き夜や四国は縁に光あり

    田中知宏

  • 明日捨てる子供机や夜長し

    灰田兵庫

  • 川の字で母を話題に長き夜

    満月堂

  • 鍋磨き怒り冷めゆく夜長かな

    ひめのつばき

  • 長き夜や難民住まう車庫いびつ

    しまのなまえ

  • 旋盤の鉄粉吹いて夜長かな

    咲間元文

  • 長き夜や糠床じとと呼吸する

    花見鳥

  • しんみりとかさぶた取れる夜長かな

    dare!?のがれ 明美

  • 長き夜や義姉のいちいち東京弁

    ピノ ピノ子

  • 秘めごとをラジオネームで告ぐ夜長

    かなの りえこ

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