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初級者結果発表

2023年12月20日週の兼題

蜜柑

【曜日ごとに結果を公開中】

【優秀句】

  • 蜜柑採り終へて紀州の軽くなり

    米山

  • 蜜柑までたどり着けない地図だった

    濱野 五時

  • アトリエを蜜柑いのちも揮発性

    アナミスト

選者コメント

家藤正人

初級コースの金曜日掲載は中級への昇級の目安。中でも特に目を惹く句についてピックアップコメントをお届けします。



「アトリエを蜜柑いのちも揮発性   アナミスト」

句跨りの型で作られた、言葉の経済効率に優れた句。アトリエで製作されるのは絵でしょうか。あるいは木工なんて可能性もあるかなあ。画材や工具には揮発して匂いを発するものもあるでしょう。その匂いにサッと花開くように薫る蜜柑の飛沫。ここでの「を」は時間と空間を表す助詞です。並列の助詞「も」も上手い。慣れ親しんだ揮発するものたちと生ある蜜柑が作者の中で等しく結びつく、気づきの瞬間が語られています。


「蜜柑採り終へて紀州の軽くなり   米山」

蜜柑のある光景、否、なくなった光景を大風呂敷を広げて描写するのがなんとも粋。蜜柑の最盛期を迎え、紀州はてんてこ舞いの収穫作業だったに違いありません。山という山が蜜柑の明るいオレンジ色をたわわに実らせ、紀州全体がずしっと重く感じられるほど。収穫までの間をタイムラプスで眺めたとしたら、次々とその色はもぎとられ、緑の山へと変わっていくはず。こざっぱりと軽くなった姿に労働の達成感と一区切りの寂寥があります。


「蜜柑までたどり着けない地図だった   濱野 五時」

変な句だけど妙に笑えて愛してしまったなあ(笑)。手書きの地図を渡されて言われたんじゃないかな。蜜柑の木が目印だから、とかなんとか。嗚呼、しかし手書き地図の悲劇よ。地図通り歩いてるつもりが目的地どころか蜜柑の木すら見えやしない。もはや諦めに近いつぶやきと化している「地図だった」がまた悲哀と笑いを誘います。まだ姿は見えなくとも、胸のなかに「蜜柑」は希望のように灯っているのです。



いずれもお見事でした。自信がついたら中級にもぜひ挑戦してみましょう!

  • 蜜柑の木この子に星の子守唄

    城山 鷺

  • 曇天に蜜柑実家を出て行こう

    ガーランド那智蔵

  • 電気生む山となり果て蜜柑山

    加藤理恵子

  • 落日のかけら掬うやみかん山

    ぱぷりかまめ

  • シベリアで曲がりし指が選る蜜柑

    めりっさ

  • 蜜柑の香届く距離置き夫と居て

    美竹花蘭

  • 蜜柑摘み昼の灯りを消してゆく

    小林土璃

  • 蜜柑剥く手を拭き子への保証印

    金子加行

  • 手に蜜柑見渡す限り海だった

    酒井丈綱

  • さみしいを山積みにして蜜柑山

    高山玲徹楚々

  • ふるさとに帰れぬどうし蜜柑むく

    仲西たえ

  • 初七日の喪服つめたき蜜柑食う

    島 白椿

  • 柿山を登りて蜜柑山下る

    蜜柑様

  • 太陽に優しくされた蜜柑です

    立町力二

  • 蜜柑箱北の廊下に祀らるる

    小田緑萌

  • みかん盛るつまみは考のをんなぐせ

    吉田竹織

  • 流れ来る蜜柑朗らかなる選果

    玉家屋

  • やっぱ神なんていないんだ蜜柑酸っぱ

    若狭

  • 蜜柑の断面は僕だけの朝日だ

    松山松男

  • 蜜柑湧く籠や吾家の七不思議

    ゆりのいろ

  • 奥の間の冷えを帯びたる蜜柑かな

    いぬいぬい

  • 未だ事件起きず蜜柑ばかり剥く夜

    花岡貝鈴

  • 胎動のきらきら三個目の蜜柑

    喜祝音

  • 瀬戸内を挟むあちらも蜜柑山

    閏ゆうすみ

  • 採点に迷い蜜柑をひとつ剥く

    名前のあるネコ

  • たましひを包みて丸き蜜柑かな

    高重安眠

  • 太陽の大きさ蜜柑で教えけり

    勝本熊童子

  • 運命線のみかん渦状紋が剥く

    須川えい

  • 蜜柑剥く娘で嫁で母で妻

    吉河好

  • しなしなの蜜柑だるそう匂ひ立つ

    原貼女

  • 蜜柑剥くパンフレットは家族葬

    池野五月

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