蜜柑
米山
濱野 五時
アナミスト
家藤正人選
初級コースの金曜日掲載は中級への昇級の目安。中でも特に目を惹く句についてピックアップコメントをお届けします。
「アトリエを蜜柑いのちも揮発性 アナミスト」
句跨りの型で作られた、言葉の経済効率に優れた句。アトリエで製作されるのは絵でしょうか。あるいは木工なんて可能性もあるかなあ。画材や工具には揮発して匂いを発するものもあるでしょう。その匂いにサッと花開くように薫る蜜柑の飛沫。ここでの「を」は時間と空間を表す助詞です。並列の助詞「も」も上手い。慣れ親しんだ揮発するものたちと生ある蜜柑が作者の中で等しく結びつく、気づきの瞬間が語られています。
「蜜柑採り終へて紀州の軽くなり 米山」
蜜柑のある光景、否、なくなった光景を大風呂敷を広げて描写するのがなんとも粋。蜜柑の最盛期を迎え、紀州はてんてこ舞いの収穫作業だったに違いありません。山という山が蜜柑の明るいオレンジ色をたわわに実らせ、紀州全体がずしっと重く感じられるほど。収穫までの間をタイムラプスで眺めたとしたら、次々とその色はもぎとられ、緑の山へと変わっていくはず。こざっぱりと軽くなった姿に労働の達成感と一区切りの寂寥があります。
「蜜柑までたどり着けない地図だった 濱野 五時」
変な句だけど妙に笑えて愛してしまったなあ(笑)。手書きの地図を渡されて言われたんじゃないかな。蜜柑の木が目印だから、とかなんとか。嗚呼、しかし手書き地図の悲劇よ。地図通り歩いてるつもりが目的地どころか蜜柑の木すら見えやしない。もはや諦めに近いつぶやきと化している「地図だった」がまた悲哀と笑いを誘います。まだ姿は見えなくとも、胸のなかに「蜜柑」は希望のように灯っているのです。
いずれもお見事でした。自信がついたら中級にもぜひ挑戦してみましょう!
城山 鷺
ガーランド那智蔵
加藤理恵子
ぱぷりかまめ
めりっさ
美竹花蘭
小林土璃
金子加行
酒井丈綱
高山玲徹楚々
仲西たえ
島 白椿
蜜柑様
立町力二
小田緑萌
吉田竹織
玉家屋
若狭
松山松男
ゆりのいろ
いぬいぬい
花岡貝鈴
喜祝音
閏ゆうすみ
名前のあるネコ
高重安眠
勝本熊童子
須川えい
吉河好
原貼女
池野五月
選者コメント
家藤正人選
初級コースの金曜日掲載は中級への昇級の目安。中でも特に目を惹く句についてピックアップコメントをお届けします。
「アトリエを蜜柑いのちも揮発性 アナミスト」
句跨りの型で作られた、言葉の経済効率に優れた句。アトリエで製作されるのは絵でしょうか。あるいは木工なんて可能性もあるかなあ。画材や工具には揮発して匂いを発するものもあるでしょう。その匂いにサッと花開くように薫る蜜柑の飛沫。ここでの「を」は時間と空間を表す助詞です。並列の助詞「も」も上手い。慣れ親しんだ揮発するものたちと生ある蜜柑が作者の中で等しく結びつく、気づきの瞬間が語られています。
「蜜柑採り終へて紀州の軽くなり 米山」
蜜柑のある光景、否、なくなった光景を大風呂敷を広げて描写するのがなんとも粋。蜜柑の最盛期を迎え、紀州はてんてこ舞いの収穫作業だったに違いありません。山という山が蜜柑の明るいオレンジ色をたわわに実らせ、紀州全体がずしっと重く感じられるほど。収穫までの間をタイムラプスで眺めたとしたら、次々とその色はもぎとられ、緑の山へと変わっていくはず。こざっぱりと軽くなった姿に労働の達成感と一区切りの寂寥があります。
「蜜柑までたどり着けない地図だった 濱野 五時」
変な句だけど妙に笑えて愛してしまったなあ(笑)。手書きの地図を渡されて言われたんじゃないかな。蜜柑の木が目印だから、とかなんとか。嗚呼、しかし手書き地図の悲劇よ。地図通り歩いてるつもりが目的地どころか蜜柑の木すら見えやしない。もはや諦めに近いつぶやきと化している「地図だった」がまた悲哀と笑いを誘います。まだ姿は見えなくとも、胸のなかに「蜜柑」は希望のように灯っているのです。
いずれもお見事でした。自信がついたら中級にもぜひ挑戦してみましょう!