夏休
渡辺純全
みたまん
髙田佳典
家藤正人選
初級コースの金曜日掲載は中級への昇級の目安。中でも特に目を惹く句についてピックアップコメントをお届けします。
「夏休ニワトリ小屋の鍵の熱 みたまん」
「夏休」の間、学校の鶏の世話当番を任されたのか、あるいは田舎の家に帰っているのか。その頃の記憶と実感を指先に留めているような一句です。ニワトリが逃げないように下ろした金属の鍵。陽に灼けた鍵に触れた瞬間の、熱に反射的に手を引っ込める動きまで追体験させてくれます。小さな体験がもたらす強いリアリティの力。
「野暮に鳴る取る切る怒る夏休 渡辺純全」
俳句のいわゆる定石の一つに「一句一動詞」という言葉がありますが、そんな定石一切無視! 「鳴る取る切る怒る」と動詞を四つも畳みかけております。それでいて破綻しておらず、季語「夏休」が背景を想像する余白を生み出しているのだから驚きです。夏休中のレジャー? 甘酸っぱい青春の一場面? どんな場面を邪魔する「野暮」でありましょうかねえ。うふふ。
「病院の枕は低い夏休み 髙田佳典」
多くの人が「夏休み」に対して抱くであろう溌剌とした明るさや楽しさを逆手にとったタイプの句。せっかくの夏休みを病院で過ごす境遇のなんとお気の毒なことか……。そんな中でも発見を忘れないのが見上げた俳人精神です。家の枕とは違う「病院の枕」の低さ。見慣れない天井の下に仰臥する不安。「夏休み」に得たほろ苦い経験知が平易な言葉だからこそ沁みます。
いずれもお見事でした。自信がついたら中級にもぜひ挑戦してみましょう!
寸草
むらのたんぽぽ
孝崎有辺
足立とんび
三角山子
どれみすみ
藤すみ
永田すずらん
渡邉 まつぼっけ
ハマゴー大佐
月奈利
花星壱和
むさし野まさこ
寺尾向日葵
千和ニノ
千華
かときち
小田緑萌
高田多寡太
風かおる
北田立緒
安曇 平
ドキドク
うどん大明神
城扇尋
濱野 五時
飯沼深生
髙田 佳歌
九天
蝦夷野ごうがしゃ
岡田一竿
なのはな(6さい)
芝歩愛美
藤田かのん
風薫子
夢散人
尾花照子
霧賀内蔵
そら野なずな
選者コメント
家藤正人選
初級コースの金曜日掲載は中級への昇級の目安。中でも特に目を惹く句についてピックアップコメントをお届けします。
「夏休ニワトリ小屋の鍵の熱 みたまん」
「夏休」の間、学校の鶏の世話当番を任されたのか、あるいは田舎の家に帰っているのか。その頃の記憶と実感を指先に留めているような一句です。ニワトリが逃げないように下ろした金属の鍵。陽に灼けた鍵に触れた瞬間の、熱に反射的に手を引っ込める動きまで追体験させてくれます。小さな体験がもたらす強いリアリティの力。
「野暮に鳴る取る切る怒る夏休 渡辺純全」
俳句のいわゆる定石の一つに「一句一動詞」という言葉がありますが、そんな定石一切無視! 「鳴る取る切る怒る」と動詞を四つも畳みかけております。それでいて破綻しておらず、季語「夏休」が背景を想像する余白を生み出しているのだから驚きです。夏休中のレジャー? 甘酸っぱい青春の一場面? どんな場面を邪魔する「野暮」でありましょうかねえ。うふふ。
「病院の枕は低い夏休み 髙田佳典」
多くの人が「夏休み」に対して抱くであろう溌剌とした明るさや楽しさを逆手にとったタイプの句。せっかくの夏休みを病院で過ごす境遇のなんとお気の毒なことか……。そんな中でも発見を忘れないのが見上げた俳人精神です。家の枕とは違う「病院の枕」の低さ。見慣れない天井の下に仰臥する不安。「夏休み」に得たほろ苦い経験知が平易な言葉だからこそ沁みます。
いずれもお見事でした。自信がついたら中級にもぜひ挑戦してみましょう!