初級コースの金曜日掲載は中級への昇級の目安。中でも特に目を惹く句についてピックアップコメントをお届けします。

「理科室の結晶育つ星月夜　　　萩野穂々々」

「星月夜」は特に、月の無い秋の夜の星空を指します。月の光よりも遥かに弱い星々の光が主役に立てる季語なのです。理科の授業の結晶化実験でしょうか。小さな種結晶を核として、溶液の中で少しずつ大きくなる「結晶」。その様は星々の瞬きを吸収するようでもあり、新しく星たちの仲間になろうとしているようでもあります。生徒の数だけ容器の置かれた理科室はさながら星の生産工場のよう。

「獏百頭飼ひならす夢星月夜　　　北村　環」

「夢」には様々な解釈が持てます。寝ながら見る夢か、実現したい将来の目標か、はてしなく広がる夢想か。個人的には夢想に近いニュアンスで読みました。星々が瞬く度に、その間を満たしている暗黒は揺らぎます。時には星が潰えるように見失うこともあるでしょう。あれは獏が他の人たちの夢を食べてるからだ、なんて童話めいた空想も星月夜の下にいればしたくなるかもしれません。「百頭」の大胆な数詞が広々とした「星月夜」の面積を保証してくれます。

「薄荷飴噛むや星月夜のラリー　　　空地ヶ有」

「ラリー」は球技の応酬ではなく、自動車の耐久レースだと解釈しました。夜間レースの映像を観てみると一層この句ののっぴきならない迫力が伝わってきます。ヘッドライトの届くより先は星月夜のもたらす深い闇。車体の揺れる勢いや薄荷飴が歯に砕ける衝撃がガリッ！　と脳内で再生されます。ツンと強まる刺激によってさらに研ぎ澄まされる集中。相争う爆音がコンマ数秒をかけて星月夜を突き上げます。

いずれもお見事でした。自信がついたら中級にもぜひ挑戦してみましょう！