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初級者結果発表

2024年10月20日週の兼題

冬暖か

【曜日ごとに結果を公開中】

【優秀句】

  • 詩集とふ衛星を出て冬ぬくし

    緒 莉莉莉

  • 百選にもれし棚田や冬ぬくし

    藤井桃圓

  • おっちゃんは無職ふゆあたたかな釜

    瓦 森羅

選者コメント

家藤正人

初級コースの金曜日掲載は中級への昇級の目安。中でも特に目を惹く句についてピックアップコメントをお届けします。



「おっちゃんは無職ふゆあたたかな釜   瓦 森羅」


作者の弁によれば「釜」とは大阪西成の旧地名・釜ヶ崎のことだそうです。略した「釜」の一言に地元民らしい愛着が窺えます。かつてはいわゆるドヤ街として知られた街であり、多くの日雇い労働者が寝起きしました。昨日は労働者だった「おっちゃん」も今日には無職。日雇いで稼いだ金を酒に替えて路上で一杯。短い昼の太陽に身を暖めながら一日を乗り切る人の姿も「ふゆあたたかな釜」を形作るだいじな一ピースなのです。


「百選にもれし棚田や冬ぬくし   藤井桃圓」


「もれし」の「し」は過去の助動詞。もれたという事実は既に過去に起きてしまっているわけです。かつては風光明媚と讃えられ、棚田百選にまで選ばれた棚田なのでしょうか、その維持はなかなかままならないものです。しかしこの句にあまり悲壮感がないのは「冬ぬくし」が持つ季語の力のためでしょう。変化に抗うのではなく、ありのままを受け入れ、愛しむ心が実に日本的。冬の枯れ色のなかに切り取られた空間が穏やかに映像化されています。


「詩集とふ衛星を出て冬ぬくし   緒 莉莉莉」


あらゆる作品はそれぞれに固有の世界を持っています。たとえるならそれは独自の引力を持つ小さな星のようなもの。「詩集」という「衛星」の引力に囚われていた時間からはたと我に返った作者は、冬暖かな現実の空間に身を置く自分自身の輪郭を再認識します。日常生活へ戻って行くグラデーションのような効果をもたらす「出て」の接続が効果的。「冬ぬくし」は少し寂しいような、充実したような、入り混じる心理を感じさせて秀逸な取り合わせ。



いずれもお見事でした。自信がついたら中級にもぜひ挑戦してみましょう!

  • 冬暖か仁王像にも笑い皺

    蜜がけまやこ

  • 冬あたたか瓦礫の町に猫を待つ

    花見鳥

  • シフォンケーキ型からぽふん冬ぬくし

    水上ルイボス茶

  • 冬暖か老に歳月容赦なく

    池野五月

  • 冬暖か牛舎の奥の藁の束

    こうちゃんおくさん

  • 独り言歌になってく冬暖か

    中山黒美

  • つむじある牛の子の顔冬ぬくし

    おおね せん

  • 冬あたたか誰も拾はぬ一円玉

    みくにく

  • 永眠の予行演習冬暖か

    早足兎

  • 不夜城に酔ひ潰れたり冬ぬくし

    青井季節

  • 冬暖か埴輪の指の少し反る

    つくばよはく

  • 独学のウクレレポロン冬暖か

    仲村夏子

  • ポン菓子のポンに集まる冬暖か

    美んと

  • 猿山に群がる家族冬あたたか

    北田立緒

  • 殺される恋仲である冬暖か

    天海楓

  • かしゅるららもろみかぐはし冬あたたか

    摂田屋酵道

  • 冬暖か鬼がいたのださっきまで

    城扇尋

  • 冬暖の床の間父の紙おむつ

    犬人間陽子

  • しまうまの縦縞太し冬温し

    香山浩

  • 仲見世の飴切る音や冬ぬくし

    林としまる

  • 立位台談話室へと冬暖か

    濱野 五時

  • 冬暖かオルガンはファの溜息す

    野野あのん

  • 冬暖か実家の厨に米を炊く

    平田暮路伊

  • 剣玉の木目美し冬ぬくし

    松浦 姫りんご

  • 大仏の大きな耳や冬ぬくし

    シナモンティー

  • はひふへほほろ酔いの夜の冬ぬくし

    アガニョーク

  • 冬あたたか支援物資に漫画本

    北村 環

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