冬暖か
緒 莉莉莉
藤井桃圓
瓦 森羅
家藤正人選
初級コースの金曜日掲載は中級への昇級の目安。中でも特に目を惹く句についてピックアップコメントをお届けします。
「おっちゃんは無職ふゆあたたかな釜 瓦 森羅」
作者の弁によれば「釜」とは大阪西成の旧地名・釜ヶ崎のことだそうです。略した「釜」の一言に地元民らしい愛着が窺えます。かつてはいわゆるドヤ街として知られた街であり、多くの日雇い労働者が寝起きしました。昨日は労働者だった「おっちゃん」も今日には無職。日雇いで稼いだ金を酒に替えて路上で一杯。短い昼の太陽に身を暖めながら一日を乗り切る人の姿も「ふゆあたたかな釜」を形作るだいじな一ピースなのです。
「百選にもれし棚田や冬ぬくし 藤井桃圓」
「もれし」の「し」は過去の助動詞。もれたという事実は既に過去に起きてしまっているわけです。かつては風光明媚と讃えられ、棚田百選にまで選ばれた棚田なのでしょうか、その維持はなかなかままならないものです。しかしこの句にあまり悲壮感がないのは「冬ぬくし」が持つ季語の力のためでしょう。変化に抗うのではなく、ありのままを受け入れ、愛しむ心が実に日本的。冬の枯れ色のなかに切り取られた空間が穏やかに映像化されています。
「詩集とふ衛星を出て冬ぬくし 緒 莉莉莉」
あらゆる作品はそれぞれに固有の世界を持っています。たとえるならそれは独自の引力を持つ小さな星のようなもの。「詩集」という「衛星」の引力に囚われていた時間からはたと我に返った作者は、冬暖かな現実の空間に身を置く自分自身の輪郭を再認識します。日常生活へ戻って行くグラデーションのような効果をもたらす「出て」の接続が効果的。「冬ぬくし」は少し寂しいような、充実したような、入り混じる心理を感じさせて秀逸な取り合わせ。
いずれもお見事でした。自信がついたら中級にもぜひ挑戦してみましょう!
蜜がけまやこ
花見鳥
水上ルイボス茶
池野五月
こうちゃんおくさん
中山黒美
おおね せん
みくにく
早足兎
青井季節
つくばよはく
仲村夏子
美んと
北田立緒
天海楓
摂田屋酵道
城扇尋
犬人間陽子
香山浩
林としまる
濱野 五時
野野あのん
平田暮路伊
松浦 姫りんご
シナモンティー
アガニョーク
北村 環
選者コメント
家藤正人選
初級コースの金曜日掲載は中級への昇級の目安。中でも特に目を惹く句についてピックアップコメントをお届けします。
「おっちゃんは無職ふゆあたたかな釜 瓦 森羅」
作者の弁によれば「釜」とは大阪西成の旧地名・釜ヶ崎のことだそうです。略した「釜」の一言に地元民らしい愛着が窺えます。かつてはいわゆるドヤ街として知られた街であり、多くの日雇い労働者が寝起きしました。昨日は労働者だった「おっちゃん」も今日には無職。日雇いで稼いだ金を酒に替えて路上で一杯。短い昼の太陽に身を暖めながら一日を乗り切る人の姿も「ふゆあたたかな釜」を形作るだいじな一ピースなのです。
「百選にもれし棚田や冬ぬくし 藤井桃圓」
「もれし」の「し」は過去の助動詞。もれたという事実は既に過去に起きてしまっているわけです。かつては風光明媚と讃えられ、棚田百選にまで選ばれた棚田なのでしょうか、その維持はなかなかままならないものです。しかしこの句にあまり悲壮感がないのは「冬ぬくし」が持つ季語の力のためでしょう。変化に抗うのではなく、ありのままを受け入れ、愛しむ心が実に日本的。冬の枯れ色のなかに切り取られた空間が穏やかに映像化されています。
「詩集とふ衛星を出て冬ぬくし 緒 莉莉莉」
あらゆる作品はそれぞれに固有の世界を持っています。たとえるならそれは独自の引力を持つ小さな星のようなもの。「詩集」という「衛星」の引力に囚われていた時間からはたと我に返った作者は、冬暖かな現実の空間に身を置く自分自身の輪郭を再認識します。日常生活へ戻って行くグラデーションのような効果をもたらす「出て」の接続が効果的。「冬ぬくし」は少し寂しいような、充実したような、入り混じる心理を感じさせて秀逸な取り合わせ。
いずれもお見事でした。自信がついたら中級にもぜひ挑戦してみましょう!