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初級者結果発表

2024年11月20日週の兼題

氷柱

【曜日ごとに結果を公開中】

【優秀句】

  • からっぽの朝のおなかだ氷柱に陽

    毬雨水佳

  • 軽トラの顎の氷柱を蹴り攫う

    かげのゆ

  • ふるさとはひりんほろんと氷柱の音

    稲川ほろろ

選者コメント

家藤正人

初級コースの金曜日掲載は中級への昇級の目安。中でも特に目を惹く句についてピックアップコメントをお届けします。



「からっぽの朝のおなかだ氷柱に陽   毬雨水佳」


起き抜けの空腹を思わせるあっけらかんと楽しい口語句です。夜は小食なのか、それとも病み明けの身か。おなかの中はからっぽで、いっそ飢餓感が爽快ですらあります。そんな自分自身の肉体感覚と氷柱の透き通った光とが詩的スパークを生んでいます。外の空気は透徹と冷えていて、からっぽのおなかにキーンと響くんだろうなあ。


「ふるさとはひりんほろんと氷柱の音   稲川ほろろ」


聴覚によって「氷柱」を描いた句の中でも、空間の広さを感じさせる展開が秀逸です。氷柱一つの発する音ではなく、ふるさとという空間に垂れるいくつもの氷柱の間を風が通り抜けていくような感覚。特に冷える冬のこの時期にだけ、風の響きがひりんほろんと変わって聞こえるのです。ああ、これぞふるさとの響きだなあ……というしみじみとした感慨がひらがなの柔らかな表記からも伝わります。


「軽トラの顎の氷柱を蹴り攫う   かげのゆ」


氷柱を折ったり蹴ったり持っていったりしたくなるのは人の好奇心の性といいましょうか。時にそこには少しのむこうみずさや暴力性も混じり込みます。「軽トラの顎」は前部バンパーかなあ。一晩の間に垂れ下がった「氷柱」。カッコイイ。欲しい。その衝動に任せて、蹴り折って持ち攫う作者。決して軽トラ自体に悪さをしてるわけじゃないんだけど、どこか後ろ暗い気分で逃げ去るのでしょう。下人の行方は誰も知らない、てなもんで。



いずれもお見事でした。自信がついたら中級にもぜひ挑戦してみましょう!


  • 氷柱いま光の珠を産み落とす

    風薫子

  • 大氷柱雫カノンを奏でけり

    如月 さら

  • 湯けむりの朝や饅頭屋に氷柱

    水口真奈

  • 氷柱落つる音や囲炉裏の真朱色

    ねうねうこ

  • 高千穂の氷柱に神の遊びおり

    チョコ沢ブラウニー

  • 水こおろこおろ氷柱が地に届く

    茶々子

  • つらら光るぼくが見つけたたからもの

    けいた7歳

  • 白亜紀の鱗の傷や大氷柱

    想楽 前走

  • 氷柱にもよくない氷柱いい氷柱

    小林一弓

  • 藁ぶきの屋根から氷柱暇そうに

    藤井舞月

  • 氷柱とは夜の詩人の抜いた牙

    鶴舞櫻山

  • 蓄へし月光を解く大氷柱

    金子加行

  • さみしさの青含みをる氷柱かな

    ミセスコロンボ

  • 動けない代わりに泣いてくれ氷柱

    ツキミサキ

  • 今際ゆく父よ朝を透く氷柱

    アナミスト

  • 父となる朝の氷柱や直ぐ蒼く

    竹石猫またぎ

  • 旅立ちや氷柱の溶けた駅舎から

    なかおくじら

  • 氷柱垂る此の世の涯の杭として

    積 緋露雪

  • 豚小屋の氷柱は太し豚五匹

    虎の尾

  • 薪運び氷柱に映る兄二人

    高石蓬莱

  • 光より風を愛する氷柱かな

    井出一葉

  • ちょうどいい太さの氷柱吾を刺すに

    月夜田しー太

  • 軒氷柱太りて赤児よく眠り

    池野五月

  • 氷柱太る座敷童の足音に

    れい

  • 氷柱折って吾の決意真っ直ぐ

    三谷あいこ

  • 夕張のなんだか甘いつららかな

    ひさもとゆう

  • あいみての後に沙汰無し氷柱折る

    西間木獣魂碑

  • 絞り出す声を氷柱の芯に置き

    濱野 五時

  • 運命線辿る氷柱の一雫

    吉田白山

  • 非常食試食氷柱はまだ溶けず

    島江凪雅

  • 軒氷柱光る乳歯の放物線

    谷 斜六

  • 後悔のような氷柱の黒き影

    雨水 二三乃

  • 革命の密談氷柱を長くする

    山葵わさび

  • 氷柱なら望遠鏡に成りそうよ

    鳴川尚好

  • 相続が終はつた氷柱薙ぎ払ふ

    かときち

  • 軒氷柱払ひ僧待つ忌日かな

    かわいはる

  • 氷柱垂る牛舎響き渡るおくび

    山口百太郎

  • つららのぶ鶴の噴水羽豊か

    美村羽奏

  • 淋しき君とゐて水割りに氷柱

    秋月あさひ

  • 空の青溶けし氷柱の雫哉

    英公蒲

  • 氷柱ララワタシヲ刺シテラララ死ラ

    峠の泉

  • 古倉庫われら氷柱の一等地

    中山長風

  • 念力で氷柱砕ける孤独かな

    松橋春水

  • 白煙を立てて氷柱の崩落す

    澤木樹心

  • 山神へ沢たどりゆく草氷柱

    松本くらり

  • じいさんが我が家の氷柱見て行けと

    雨逸福

  • 氷柱の光もらって独り立

    バーバラ

  • 氷柱とは神の吐息か臍の緒か

    足立とんび

  • 氷柱折り星なき街を貫きぬ

    横井あらか

  • 垂氷やわく初恋はふれざりし鈴

    高山玲徹楚々

  • アダージョは氷柱の細りゆく拍子

    喜祝音

  • 週一の移動スーパー氷柱落つ

    枝葉

  • 幾本の中より選ぶ我が氷柱

    遠山貴弘

  • 殺したい奴の数だけ氷柱折る

    藤原訓子

  • 踏石を穿つ氷柱や能登の晴れ

    ルック鷹丘

  • 氷柱やユニコーンの和毛の香

    死似 季残

  • 地蔵さまの鼻の氷柱をとりにけり

    桜ことり

  • 氷柱溶け空っぽになる保健室

    花蜜伊ゆ 

  • 美味さうな脂のにほひ軒氷柱

    慈夢りん

  • つらら越しのそらは金剛石のいろ

    雪待月 田猫

  • 胸貫かれたきほどの大氷柱

    夏山栞

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