俳句ポスト365 ロゴ

初級者結果発表

2025年9月20日週の兼題

【曜日ごとに結果を公開中】

【優秀句】

  • 柿色の全き柿の影静か

    鷺沼くぬぎ

  • 柿熟るる空き家の床を三度拭き

    瀬戸 岬

  • 山姥の出そうな森で柿食む夜

    詩小桃

選者コメント

家藤正人

初級コースの金曜日掲載は中級への昇級の目安。中でも特に目を惹く句についてピックアップコメントをお届けします。



「柿色の全き柿の影静か   鷺沼くぬぎ」

精度の高い一物仕立てに惚れ惚れします。一物仕立てとは、十七音全部を季語の持っている情報だけで作る手法のこと。柿色の影が見えているということは、樹上の柿が光に透けているのを見上げているのだと推察します。鳥に突かれず、全き形を保っている柿のシルエットのなんと美しいことか。描写に徹しながらもラスト三音「静か」によって、その姿に心打たれる作者の静謐な感動が差し込まれているのも心憎い。


「山姥の出そうな森で柿食む夜   詩小桃」

うーん、なんとも気味の悪い森。柿もまたずるっと吸って食べるような熟れ具合を想像いたします。秋には柿の他にも様々な実りがあるわけですが、「柿」である必然性をいかに確保するかは大事なポイントです。栗では昔ばなしの印象が強くなりすぎるし、梨では音も味覚も爽やかすぎる、茸では採ってすぐ食う即時性に欠ける……など、比較検討すると柿は良い選択だと再認識できます。夜の森に畏れを抱きながら食う柿は喉に甘く絡まるようであります。


「柿熟るる空き家の床を三度拭き   瀬戸 岬」

柿のたわわに実り、熟れるままに任せている空き家。この「空き家」との関係性をどう捉えるかによって味わいが変わってきます。たとえば「空き家」=住む者のいなくなった実家と考えれば、いつか帰ってくる誰かのため健気に保守する哀惜を思わせます。一方、「空き家」=入居を決めた中古物件、といった読みもできるでしょう。そうなれば「三度拭き」は新生活を始めるための丁寧な最初の掃除と、早くも湧き始めている新たな愛着を思わせます。庭に生えた「柿」をレトロな象徴と見るか、豊かな実りと見るか。味わいがいのある一句でした。



いずれもお見事でした。自信がついたら中級にもぜひ挑戦してみましょう!

  • 無器量の柿の甘さを言いあへり

    へたおかむこ

  • 柿落つや空の青さを厭うごと

    糸川綾

  • 吊ればすぐ風をまとひて柿日和

    森脇レイ

  • 独り居の掌の柿温まりぬ

    湧別川

  • 半月板損傷の母柿鈴なり

    南回帰線

  • 柿の実にやさしい嘘を隠しけり

    終山人

  • ゆっくりと剥くさみしさと柿の皮

    汐海 岬

  • 枝の端に力溜めたる柿ひとつ

    絡丸いと

  • 柿たわわ廃屋抉るショベルカー

    茂田野マイ子

  • 柿ちぎり空の青だけ残りけり

    大石鉄馬

  • 切る落ちるよける拾う食う庭の柿

    山川十日

  • 柿ひとつ分け合う艷やかな無言

    喜祝音

  • 政党のポスター乾く柿の家

    野野あのん

  • 八歳は罪を知る年次郎柿

    月野風花

  • 柿の木に昔話のような柿

    ピコリス

  • 政局はぐちゃぐちゃ柿喰らう

    青井游

  • 柿食うや昭和は遠く吾の舌

    盛堂恒子

  • 柿ふたつ居間通り抜け仏前へ

    むさし野まさこ

  • 柿の秋本家の屋根はずつと先

    故里恋心

  • 熟柿食ふゆふべ恋などしてをらず

    チバミロ

  • 輿入れに古家の柿をくぐりけり

    ルック鷹丘

  • 間違えて吾ここに在り柿の朱

    千里灰汁太

  • 柿の実の潰れっぱなしの通学路

    糸田 つぶさ

  • 何処となく妻に似ているあんぽ柿

    大壽

  • 渋柿や金環蝕は音もなく

    藤井桃圓

  • 柿喰へばみな鐘の音聴きたがる

    若狭

  • 三日月の触れなば落ちん熟柿かな

    杉田ひらさこ

  • 金輪際無口な人と柿を食う

    いもがらぼくと

  • 柿の木の温かな赤哀しい赤

    Mat ひめりんご

  • こつねんと這いだしそうな柿のたね

    かまど猫

  • まが玉をみがき上げる手柿の秋

    ともや10才

  • 叔父さんの家は燃えたと柿をもぐ

    世良智

  • 柿剥いてやはり慕情なのかもしれぬ

    神津三徳

  • 柿剥くや祖母は少女に応援歌

    児玉すず子

  • 初戀は遠きまほろば柿もぎる

    風待ラテ

  • 柿うまし食・眠・便や至極快

    なかの巡界

  • この齢で修羅場三度目柿を喰ふ

    杉崎拙訓

  • てつぺんの柿はお空に食はせます

    弥栄弐庫

  • 柿持ちてロッカー式の祖母の墓

    椎名花風

  • 遺品処分潰れた柿を見ない母

    豆祭 くぐい

  • 複式の二年は柿を干す係

    大月 銀

  • 柿ってさ夕日みたいな味するね

    夏野夏湖

  • 思春期や噛み付く柿はだる甘く

    くらきまあこ

  • カリンカリン噛み噛み噛みん柿の唄

    一期一会

  • 暮色より濃い柿ひとつもぎりけり

    川端妙松

  • 柿のほの甘くて読みかえす手紙

    白川ゆう

  • 柿むいて京極夏彦のページをめくる

    御雰小雰

  • 心臓のような柿の実潰したき

    海瀬マルコ

  • 遠方は震度三なり柿熟るる

    夢バーバ

  • 柿ジャキジャキ齧る首相は誰になる

    水口 真奈

  • 傷つきて身を甘くする山の柿

    松本マンボウ

投句はこちら