牡蠣
一ノ瀬慧
星屑今日子
茂里憲之
家藤正人選
初級コースの金曜日掲載は中級への昇級の目安。中でも特に目を惹く句についてピックアップコメントをお届けします。
「「阿保」の「ほ」に吸い込まれゆく大き牡蠣 星屑今日子」
カギ括弧を使った形に賛否はあるかもしれませんが、表現したい内容に対して必然性を持っているなら許容して良いと個人的には考えています。この句の場合は、会話であること、そして「ほ」の音を発した口の形を描写するために必要な手段です。共に牡蠣を食べる仲です。罵倒、といっても気心の知れた仲での軽口の範囲でありましょう。「ほ」と発した楕円形の口へと、屈託なく吸い込まれていく牡蠣の美味しそうなこと。牡蠣の滋味が二人の人間関係の質を暗に示しているようでもあります。
「牡蠣香り島の民家を店と知る 茂里憲之」
お商売をやってる風だが、看板もあるわけでなし、なにをやってる家なのかわからない。そんな家が潮の匂いのする島にあるのです。一度通りがかった時にはわからなかったが、ある瞬間に、その民家から牡蠣の香りがしてくる。ああ、ここは店であったか、と合点がいくわけです。まるで夏目漱石か志賀直哉の小説の一節のようなさりげなさの中に「牡蠣」の季感が活きています。乾燥した冬の大気が一層牡蠣の香り高さを際立たせてくれました。
「掌に牡蠣みるざらりざらり夕 一ノ瀬慧」
牡蠣に触れる触覚と心理とをうまく融和させています。その上で重要な役割を果たしているのが「ざらりざらり」の配置場所です。「掌に牡蠣みる」から連なる触覚のオノマトペであると同時に、切れの読み取り方によっては「ざらりざらり夕」と読むこともできます。一日が終わっていこうとする夕方という時間の持つ、心理的なざらつき。疲労や不安、そんな負の感情のざらつきと、牡蠣殻の手を傷つけんばかりのざらつきとがシンクロします。
いずれもお見事でした。自信がついたら中級にもぜひ挑戦してみましょう!
鈴野冬遊
二城ひかる
野村酔狐
林 うんべらーた
かまど猫
一人男
飯田蛙子
茂田野マイ子
鬼石 祥子
金子加行
鬼石 祥瑞
鈴川晴海
のなめ
太陽魚
明月詩悠
喜祝音
桂佐ん吉
吉成小骨
三角山子
アガニョーク
流鏑馬
松山 風
るりゆるり
城 幸女
月下檸檬
竹石猫またぎ
白川ゆう
ハンファスター
ちくばやしうたこ
夏野夏湖
和田宏泉
痴陶人
季與子
山下健太朗
鈴木青翠
選者コメント
家藤正人選
初級コースの金曜日掲載は中級への昇級の目安。中でも特に目を惹く句についてピックアップコメントをお届けします。
「「阿保」の「ほ」に吸い込まれゆく大き牡蠣 星屑今日子」
カギ括弧を使った形に賛否はあるかもしれませんが、表現したい内容に対して必然性を持っているなら許容して良いと個人的には考えています。この句の場合は、会話であること、そして「ほ」の音を発した口の形を描写するために必要な手段です。共に牡蠣を食べる仲です。罵倒、といっても気心の知れた仲での軽口の範囲でありましょう。「ほ」と発した楕円形の口へと、屈託なく吸い込まれていく牡蠣の美味しそうなこと。牡蠣の滋味が二人の人間関係の質を暗に示しているようでもあります。
「牡蠣香り島の民家を店と知る 茂里憲之」
お商売をやってる風だが、看板もあるわけでなし、なにをやってる家なのかわからない。そんな家が潮の匂いのする島にあるのです。一度通りがかった時にはわからなかったが、ある瞬間に、その民家から牡蠣の香りがしてくる。ああ、ここは店であったか、と合点がいくわけです。まるで夏目漱石か志賀直哉の小説の一節のようなさりげなさの中に「牡蠣」の季感が活きています。乾燥した冬の大気が一層牡蠣の香り高さを際立たせてくれました。
「掌に牡蠣みるざらりざらり夕 一ノ瀬慧」
牡蠣に触れる触覚と心理とをうまく融和させています。その上で重要な役割を果たしているのが「ざらりざらり」の配置場所です。「掌に牡蠣みる」から連なる触覚のオノマトペであると同時に、切れの読み取り方によっては「ざらりざらり夕」と読むこともできます。一日が終わっていこうとする夕方という時間の持つ、心理的なざらつき。疲労や不安、そんな負の感情のざらつきと、牡蠣殻の手を傷つけんばかりのざらつきとがシンクロします。
いずれもお見事でした。自信がついたら中級にもぜひ挑戦してみましょう!