春陰
三毛
山崎さわさわ
龍崎ボロ
家藤正人選
初級コースの金曜日掲載は中級への昇級の目安。中でも特に目を惹く句についてピックアップコメントをお届けします。
「車置けない春陰のハローワーク 山崎さわさわ」
気の毒な状況に同情するやら笑ってしまうやら……。車が生活の足に欠かせない地域ではままある状況なのですが、味わい深いのは「ハローワーク」という場所の指定。求職か、保険の手続きか、職業訓練か。どんな理由にせよ、人生の局面で必要に迫られて訪れたハローワークでさえ、駐車場という名の席は既に埋まっており、自分の入る余地はない……なんて考えてしまうのは私がマイナス思考人間すぎるでしょうか。空間に圧し掛かるような「春陰」の重さがいたずらに心を急かします。
「春陰や父と具無しの即席麺 三毛」
陰鬱な描かれ方の多い春陰ですが、この父子が過ごす時空間には質素ながら満ち足りた春の気配を感じます。「即席麵」は俗にいう袋麺ってやつでしょう。「これでいいか」とおもむろに袋を開く音、小さな鍋を沸かせる熱の揺らぎ。ちょっと気の利く人なら野菜の一つでも添えるのでしょうが、器に移された麺は色気も素っ気もない完成形で互いの前に。そんな有様こそが父子にとっては自然体であるのでしょう。なんでもない日をなんでもなく描く、力の抜け具合が「春陰」と絶妙な距離感の取り合わせ。
「春陰や左向きをる子規・ニーチェ 龍崎ボロ」
俳人・正岡子規と、哲学者・ニーチェ。どっちの肖像も左を向いてるんだな、という単純な発見を発端に、知的好奇心が動き出します。二人は同時代に生きた人間であるとか、子規は哲学科で学んだ時期があるとか、直接の関係がなさそうな二人にも重なる要素が見つかるのが面白い。「春陰」の仄暗い光の分量と心理的な暗さは二人のモノクロームの肖像の印象を強めつつも、春という季節が持つ未来を志向するエネルギーも一句に与えてくれます。肖像の中で永遠に左を向き続ける両雄の目はどんな未来を思い描いていたものか。
いずれもお見事でした。自信がついたら中級にもぜひ挑戦してみましょう!
ぽっこり京番茶
ばんどうしんじろう
中澤不瑯
シナモンティー
痴陶人
藤かおる
鬼石 祥瑞
流鏑馬
畑山六十二
秋月あさひ
大石りん花
ケンケン
みくにく
鯨道 辿
レイン孤音
郁松 松ちゃん
いまい沙緻子
喜祝音
釣佑允
御雰小雰
おぎのりゆう
高橋 基人
橘柚色
足立とんび
選者コメント
家藤正人選
初級コースの金曜日掲載は中級への昇級の目安。中でも特に目を惹く句についてピックアップコメントをお届けします。
「車置けない春陰のハローワーク 山崎さわさわ」
気の毒な状況に同情するやら笑ってしまうやら……。車が生活の足に欠かせない地域ではままある状況なのですが、味わい深いのは「ハローワーク」という場所の指定。求職か、保険の手続きか、職業訓練か。どんな理由にせよ、人生の局面で必要に迫られて訪れたハローワークでさえ、駐車場という名の席は既に埋まっており、自分の入る余地はない……なんて考えてしまうのは私がマイナス思考人間すぎるでしょうか。空間に圧し掛かるような「春陰」の重さがいたずらに心を急かします。
「春陰や父と具無しの即席麺 三毛」
陰鬱な描かれ方の多い春陰ですが、この父子が過ごす時空間には質素ながら満ち足りた春の気配を感じます。「即席麵」は俗にいう袋麺ってやつでしょう。「これでいいか」とおもむろに袋を開く音、小さな鍋を沸かせる熱の揺らぎ。ちょっと気の利く人なら野菜の一つでも添えるのでしょうが、器に移された麺は色気も素っ気もない完成形で互いの前に。そんな有様こそが父子にとっては自然体であるのでしょう。なんでもない日をなんでもなく描く、力の抜け具合が「春陰」と絶妙な距離感の取り合わせ。
「春陰や左向きをる子規・ニーチェ 龍崎ボロ」
俳人・正岡子規と、哲学者・ニーチェ。どっちの肖像も左を向いてるんだな、という単純な発見を発端に、知的好奇心が動き出します。二人は同時代に生きた人間であるとか、子規は哲学科で学んだ時期があるとか、直接の関係がなさそうな二人にも重なる要素が見つかるのが面白い。「春陰」の仄暗い光の分量と心理的な暗さは二人のモノクロームの肖像の印象を強めつつも、春という季節が持つ未来を志向するエネルギーも一句に与えてくれます。肖像の中で永遠に左を向き続ける両雄の目はどんな未来を思い描いていたものか。
いずれもお見事でした。自信がついたら中級にもぜひ挑戦してみましょう!