啓蟄
文室七星
夏野夏湖
ちょうちょう
家藤正人選
初級コースの金曜日掲載は中級への昇級の目安。中でも特に目を惹く句についてピックアップコメントをお届けします。
「啓蟄や影太くなる御神木 文室七星」
啓蟄はその由来から地面との親和性を発揮します。堂々たる「御神木」に意識を引っ張られそうになりますが、この句で注目しているのは、御神木が地面に投げかける「影」の方。春が深まり日が長くなるにつれて、日々少しずつ影の輪郭は力強く太っていくかのようです。個人的には豊かな黒土を想像しました。啓蟄の土は御神木を育むと共に、御神木を中心とした生態系からふくふくと恩恵を受けているのでしょう。
「啓蟄の土へ和金をかへしけり 夏野夏湖」
季重なりを乗りこなし一句の世界を「啓蟄」の懐に収める手腕が見事。「和金」は金魚の基本となる品種で、大型に育ち十年以上生きることもあります。命尽きた和金を土へと葬るのでしょう。自ら土を掘り、柔らかく湿った穴へと和金を横たえます。弔いの土をかけ戻しながら、いずれその身が分解され土へと還っていく事実にはたと気づく「けり」の詠嘆がシブい。いつか啓蟄の土には色鮮やかな花が生えるような日もやってくるだろうと祈りつつ。
「啓蟄やひっこしの分からぬ二人 ちょうちょう」
「ひっこしの分からぬ二人」には色々な解釈が浮かびます。転居先不明説? 老齢で記憶が怪しくなった説? いえ、個人的には幼い子どもを連れての転居説を推します。まだ物心つくかつかないかの子どもには、住むおうちが変わることも、「ひっこし」の理由もわかりません。願わくば、このひっこしが新しい希望へと踏み出せるものでありますように。「啓蟄」が踏み出す一歩の確かさを伝えます。
いずれもお見事でした。自信がついたら中級にもぜひ挑戦してみましょう!
ほしのり
モモザウルス
おんぷ(7さい)
ともや10才
原田くろなつ
春の風花
澤木樹心
若海真
前田まだら
葉之 月
俳句川棒人間
かい みきまる
藤井荘太
門のり子
池野五月
高山玲徹楚々
森脇かな子
谷しゅんのすけ
喜祝音
鬼石 祥瑞
山本薩埵
足立とんび
米山
ねうねうこ
柊
忠園太冨三
大石鉄馬
小山まきに
鉢垂藤
ふう兎
みかん成人
鈍子
茗乃壱
野江門美
ヤギリワタル
選者コメント
家藤正人選
初級コースの金曜日掲載は中級への昇級の目安。中でも特に目を惹く句についてピックアップコメントをお届けします。
「啓蟄や影太くなる御神木 文室七星」
啓蟄はその由来から地面との親和性を発揮します。堂々たる「御神木」に意識を引っ張られそうになりますが、この句で注目しているのは、御神木が地面に投げかける「影」の方。春が深まり日が長くなるにつれて、日々少しずつ影の輪郭は力強く太っていくかのようです。個人的には豊かな黒土を想像しました。啓蟄の土は御神木を育むと共に、御神木を中心とした生態系からふくふくと恩恵を受けているのでしょう。
「啓蟄の土へ和金をかへしけり 夏野夏湖」
季重なりを乗りこなし一句の世界を「啓蟄」の懐に収める手腕が見事。「和金」は金魚の基本となる品種で、大型に育ち十年以上生きることもあります。命尽きた和金を土へと葬るのでしょう。自ら土を掘り、柔らかく湿った穴へと和金を横たえます。弔いの土をかけ戻しながら、いずれその身が分解され土へと還っていく事実にはたと気づく「けり」の詠嘆がシブい。いつか啓蟄の土には色鮮やかな花が生えるような日もやってくるだろうと祈りつつ。
「啓蟄やひっこしの分からぬ二人 ちょうちょう」
「ひっこしの分からぬ二人」には色々な解釈が浮かびます。転居先不明説? 老齢で記憶が怪しくなった説? いえ、個人的には幼い子どもを連れての転居説を推します。まだ物心つくかつかないかの子どもには、住むおうちが変わることも、「ひっこし」の理由もわかりません。願わくば、このひっこしが新しい希望へと踏み出せるものでありますように。「啓蟄」が踏み出す一歩の確かさを伝えます。
いずれもお見事でした。自信がついたら中級にもぜひ挑戦してみましょう!