• セーター脱ぐさびしき髪が追ひすがる

  にゃん

  選者コメント

  

  夏井いつき選

  　起こっている事象としては、静電気によって髪が逆立っているだけなのです。が、あれは「さびしき髪」が追いすがっているのだよ、という詩的定義をされたとたん、作者のさびしさが読者の心にひたひたと流れこんできます。下五「追ひすがる」という複合動詞は心情に流れるとベタになりがちですが、これを映像として見せているあたりが、巧いものだなあと感心します。
• セーターの白わたくしを追熟す

  ぐ

  選者コメント

  

  夏井いつき選

  　白いタートルネックのセーターを想像しました。「追熟」とは、 果実などに使う言葉。早めに収穫して、あとで完熟させることを意味します。躰にぴったりと添った白いセーターの中にあるのは、青い果実のような躰でしょうか。白は清楚で美しいけれど、着こなすには勇気がいる色。「わたくしを追熟す」という詩語の、なんと初々しくもなまめかしいことでしょうか。
• セータ洗う胸より溺れさせるかに

  金曜カル@妹のりこ

  選者コメント

  

  夏井いつき選

  　ニットの手洗いです。洗濯用ボウルにぬるま湯を溜め、おしゃれ着用洗剤を入れ、セータを静かに沈めていきます。ゆっくりと押し洗いしようとする自分の手が、誰かを「胸より溺れさせ」ているかのように感じた。その感知そのものに詩があります。水に濡れたニットは、かすかな獣臭を発しているのかもしれません。下五「～かに」の比喩の余韻も効果的です。

次回の兼題も
皆さまふるって投句してください。
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