類想一覧(選外)
バーボンの氷を回す夜の秋
dragon
床の間に静寂招きて夜の秋
宮川武久
夜の秋虫の死骸と風の音
富士桜花
死を想い生を想うや夜の秋
夏草はむ
ぐい呑みの手触り優さし夜の秋
増本空ふね
泣きやまぬ揺する浜風夜の秋
kikuti-aya
夜の秋聞こゆ室外機の静か
たこ山焼之輔
新しいシャンプー香る夜の秋
なつめモコ
変人を恋人と読み夜の秋
榎美紗
今日からは寝間着が揃う夜の秋
平川一空
夜の秋妣の庭下駄のひんやりす
らん丸
ダージリンは二杯目夜の秋
山本マユミ
和かに湯気立つ白湯や夜の秋
小倉あんこ
友集ひ侃々諤々夜の秋
田邉真舟
窓を開け息深く吐き夜の秋
山城明子
横丁の灯の一つ欠け夜の秋
仮名鶫
夜の秋眉間の皺のゆるみたる
木村となえーる
戦後八十安穏辿る夜の秋
中島諒吾
数Ⅰの点数睨む夜の秋
くみくまマフラー
夜の秋何かを羽織る刹那あり
月夜案山子
歳とらぬ遺影の夫や夜の秋
ななかまど
失ひて気付くばかりや夜の秋
鶴見ツル
子の寝息満足気なり夜の秋
かなの りえこ
ほろ酔いもすぐに覚めやる夜の秋
空流峰山
終電を降りて一人の夜の秋
甘泉
傍らのひとの恋しく夜の秋
北乃薫衣草
篠笛の音色澄みけり夜の秋
五島 潮
ころあひの風となりけり夜の秋
かん かんし
湯殿の戸開ける衿元夜の秋
ほのぼぉの (蚊帳のなか)
雨にほふ夜の秋駅の灯(ひ)も消ゆ
夏雨ちや
夜の秋カランコロンと下駄の音
月城龍二
寛解とや深呼吸する夜の秋
麗し
夜の秋つかむカーテンふと褪せて
鹿野川小舟
夫と子のゐてもひとりや夜の秋
ことまと
宿題は親子合作夜の秋
一本杉
湿布する母の小さき背夜の秋
水野 寿香
夜の秋術後の母の寝息聴く
みつき 夏
夜の秋積み上げた本捗りて
藤村 一寿
窓少し開けて夜の秋を覗く
河野灰土
スマホ置き文庫を開く夜の秋
羽馬愚朗
夜の秋這い這い稽古力尽き
糺 森子
寝返りが少し減ったよ夜の秋
清鱒
角刈りも夢の跡かな夜の秋
片山蒼心
夜の秋川面を走る風の息
竹の子
日本酒の頬を冷まして夜の秋
中川青嵐
風入れて上衣はおりし夜の秋
白石彌生
湯上がりのほつれ髪にも夜の秋
柊瞳子
『虫の音』を三味で爪弾く夜の秋
かんこ鳥
子ら帰り気だるき余韻夜の秋
村上継鳥
謎解きの最後のページ夜の秋
スモールちもこ
恋破れやけ酒進む夜の秋
原島ちび助
冷よりもぬる燗所望夜の秋
卓司
夜の秋夫の布団によせて敷き
彩 詩充
夜の秋背を向けて人愛しませ
片平仙花
夜の秋お隣お風呂沸いた声
黙々笛
弾みたる隣家の声や夜の秋
冬乃子
ふと我に返る一瞬夜の秋
平野恵風
ヘアダイのやめ時思案夜の秋
案浦笑里
焼鳥の匂ふ路地裏夜の秋
竜胆
君宛ての書簡見つめ入る夜の秋
風のピアノ
パレオ干しパックに潤む夜の秋
有骸蟲蜴
読経の静に沈む夜の秋
立歩
うたたねし目覚め無音の夜の秋
清水千種
一言も口きかずして夜の秋
伊藤勘太郎
家々の夕餉の香り夜の秋
健
夜の秋や母の骨折見舞ふ道
風虎
窓静か3センチ開け夜の秋
山海動静
鳥虫も草木も安堵夜の秋
日暮ひぐらし
夜の秋や夫に内緒の缶チューハイ
くつの した子
娘来る話弾んで夜の秋
早坂 一周
体毛も白くなりしや夜の秋
木下風民
日中の火照り冷まして夜の秋
おおにしまこと
夜の秋ねこ忍び寄る枕もと
野田遊水
はやコーラ自販で買わぬ夜の秋
岡崎佐紅
寝静まる遠く電車の夜の秋
雨水 二三乃
夜の秋吾の太腿へ猫の添う
月見里ふく
夜の秋ばあちゃん風呂を炊いている
とき
夜の秋体感ずるくしゃみする
WEDA ASH
ペティキュアの根元剥がれし夜の秋
緩木あんず
夜の秋のしづかに帰る救急車
大黒とむとむ
窓開けて続きを読もう夜の秋
百日紅
父の背や何も語らず夜の秋
哲山(山田哲也)
夜の秋電器はオフで手うちわオン
ゆかりん
夜の秋紫煙がやけに目にしみる
入口弘徳
川の水ほのかに香る夜の秋
あおのめ
夜の秋今日も自分が風になる
眞さ野
死に目には会えず爪切る夜の秋
山和子
ヨーキーがグイグイ引っ張る夜の秋
南全星達
夜の秋宿題よ私を見るな
岡田道一
月照らすぼた山の影夜の秋
ふじかつとび
帰り途頬に感じる夜の秋
一 華楓
杖つきておもてに出れば夜の秋
みにとまあいこ
ここまでと栞を挟む夜の秋
みやかわけい子
久方の名出てこぬ友夜の秋
反芻医 時光
天の友心でかたる夜の秋
水野 孝
星捜し煌めきに逢う夜の秋
田畑せーたん
夜の秋や絡繰時計あとしじま
てるきち
重ねても思い薄れし夜の秋
鈴屋玲瓏
墨書きの店仕舞いビラ夜の秋
篠雪
室外機は静か夜の秋を読書
一山いくら
我が家は魚隣家はカレー夜の秋
道歩
明日君に別れを告げる夜の秋
夏目あかり
お湯に割る酒のゆらぎや夜の秋
わおち
夜の秋ブックカバーを交換す
太之方もり子
仲直りの言葉を探す夜の秋
富田健朗
夜の秋ぽっかり浮かぶ月がゐて
中島穂華
本屋まで散歩がてらに夜の秋
悠雨木 はな
独り飲みながながとなる夜の秋
中村笙平
夜の秋愛しき人の泣き黒子
林 和寿
長生きは二人がよろし夜の秋
とも子
月光清かに改む夜の秋の風
有名人一字違い
ベランダでひとりじゃないと夜の秋
子杜 水琴
風受けて二駅歩く夜の秋
石神湖畔
冷凍庫開けるの減った夜の秋
ひまわり怪獣
外を行く人の声音か夜の秋
まんはく
散歩する人も増へたり夜の秋
立野音思
韓ドラを一気見するか夜の秋
高岡春雪
ひとり居に歌劇視聴す夜の秋
亀亀子
菊判の歳時記膝に夜の秋
杣むぎ
燭光のぢりりゆらめく夜の秋
華胥醒子
サイレンがまた遠ざかり夜の秋
池の端昇雲
デカフェなる一杯の湯気夜の秋
月見柑
夜の秋赤ちょうちんの灯も消えて
神谷史記
1日を労い合えり夜の秋
卯の花雅子
ネオン街ネオンが消えて夜の秋
ミント・スチュワート
夜の秋猫の食欲戻りけり
上村茶娘
見つからぬ老眼鏡と夜の秋
古都 鈴
ひととせを問わず語りや夜の秋
サツキトラヲ
既読無しLINEを閉じて夜の秋
小薗紀彦
ピロリンと眠れぬ友か夜の秋
辻󠄀勢
夜の秋結婚四十年のぬる湯
時まる
仕舞い風呂少し湯をたす夜の秋
眠 睡花
夜の秋ふとんを足でひきよせる
風花
夜の秋君の拙い嘘一つ
俳句王
まんじゅうの代替わりの味夜の秋
中嶋奈緒子
夜の秋洗い晒しに日の匂い
いとう香り子
バンガロに忍び込むよに夜の秋
あらかわすすむ
夜の秋隣家の風呂の窓のうた
北爪いく葉
籐むしろひと足ごとに夜の秋
三木青猫
寝返えればシーツひんやり夜の秋
鵬
有栖川有栖とトリス夜の秋
せいち
風鈴をしまいこみけり夜の秋
藤 柳絮
かこちつつ厠にかよふ夜の秋
藤井赤童子
LINE既読スルーいよよ夜の秋
新山晶花
何気なく閉じたる窓や夜の秋
増田楽子
夜の秋やショートホープの煙の輪
ちやあき
対岸のネオン揺るるや夜の秋
陽光樹
旅終えて里灯迎える夜の秋
岡 草紅葉
夜の秋日記の筆の進むこと
大空輪夢
寝返りて夢のつづきへ夜の秋
儚子
終車灯遠ざかりゆく夜の秋
杼 けいこ
テレビ消し静を楽しむ夜の秋
空心菜
周波数合はせしラジオ夜の秋
伊集院紅緒
録り溜めた『鬼滅』一気見夜の秋
井田みち
夜の秋妻の繰り言生返事
北斗星
君が目を合わせなくなる夜の秋
宇佐美好子
後ろ髪を引かれてふと夜の秋
千曜 桜
もう一杯呑んでもいいよ夜の秋
スズランチイ子
煮物よし日本酒がよし夜の秋
松浦 姫りんご
マジックナンバー一桁に減り夜の秋
はなだんな
寂寥の老いた母の背夜の秋
桃姫
今電話してもいいかな夜の秋
谷本均
未熟なる果実の六十路夜の秋
武田豹悟
膝枕夢から醒めて夜の秋
響楽境
ざわめき去り星と露天湯夜の秋
あらいすみこ
夜の秋窓辺の童星を繋ぎ見
夕凪灯凜
夜の秋また明日ねと閉じる本
だいやま
なんとなくラジオを点ける夜の秋
ヤヒロ
前髪を切られベソかく夜の秋
飯沼比呂倫
コンサートの余韻にひたる夜の秋
小泉久美子
夜の秋寝間にひとりの静寂かな
家古谷 硯翠
チリリンが心に沈む夜の秋
テラゴン
もう少し居て欲しくもあり夜の秋
中村 自在
少しだけ道順変へる夜の秋
天王谷 一
夜の秋柱時計の低き音
紅 珊瑚
人去りし浜の潮香に夜の秋
三村武信
夜の秋出せぬ手紙の消しし跡
ちょうさん
夜の秋気配も見せぬ季語悲し
寺木 風宣
街灯のぼやけて白し夜の秋
羅美兎
夜の秋吹けぬ口笛吹いてみる
みみみ
身ほとりの皆寝静まり夜の秋
畑中幸利
夜の秋今日の寝息の深きこと
小林理真
カルピスの味は薄くて夜の秋
花咲めだ香
つい団扇つかひて止まる夜の秋
水木合歓
団塊の世代の憂ひ夜の秋
伊藤 蒼邨
待受を替えたくなりし夜の秋
忠園太冨三
カウンターテナーの澄めり夜の秋
ふじこ
さらさらと夫の寝息の夜の秋
稲川ほろろ
夜の秋やがて水洗静まりて
沖乃しろくも
激動の選挙終わりて夜の秋
田中紺青
サンダルに銭湯帰りの夜の秋
中島満足山
忘れじの言の葉散るや夜の秋
おおいし 陽葵
残照の温もり嬉し夜の秋
高旗みつき
病室のちいさき母よ夜の秋
菅原ゆう
終電車見送りてをり夜の秋
まるかじり
豆腐屋のラッパ素通り夜の秋
はれみちる
靴下の親指の穴夜の秋
リカ
夜の秋まくらの熱に顔埋め
小湊 八雲
一日の終り労う夜の秋
越中之助
カクテルと追憶に酔ふ夜の秋
青雨青緒海
ジョッキ置きワイングラスに夜の秋
ゆきなごむ
言の葉を伝えきれずの夜の秋
雅蔵
シャンソンをラジオとはハモる夜の秋
sekiいつき組広ブロ俳句部
夜の秋ふと触れる肌憎からず
広島あーやあーや
淋しくない?問われるままに夜の秋
星影りこ
夜の秋縁台占めて腕枕
くろべぇ
夜の秋やさしき風に潮の香
山田翔子
次回の兼題も
皆さまふるって投句してください。
お待ちしています!
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選者コメント
夏井いつき選
◆兼題「夜の秋」は、比較的若い季語です。
元々は、「秋の夜」と同じ意味の季語でしたが、近代以降になって「秋の夜の気配が漂いはじめる晩夏の夜」という意味で独立しました。まずは、この季語の本意をしっかり押さえていただく必要があります。
今回の投句の中には、「(夜の秋なのに)まだ暑い」という句意のものが散見されました。が、「まだ暑い」という段階では、「夜の秋」ではないということですよね。
◆更に、季語を「夜の秋」ではなく、むしろ「秋の夜」としたほうが良いのではないか? という句もあり、なかなかに悩ましい選句となりました。選ばれなかった自句を、皆さん是非検証してみて下さい。
◆類想という意味では、「夜の秋にはこんなことをする」という括りでみれば、
・ 読書……ミステリーやら純文学やら
・ 子供に絵本の読み聞かせ
・ 音楽を聴く 楽器を弾く
・ 手紙を書く LINEやメールを送る → 返信がこない
・ パズルなどを解く
・ 星を見る 星座を探す
・ 散歩する
・ 酒を飲む (あたたかな)紅茶やコーヒーを飲む
・ 煙草を吸う
・ ゆったり風呂につかる 旅の露天風呂
・ 窓を開ける
・ 泣く
・ 故人を偲ぶ 遺影
様々ありましたが、入選句の中には、これらの類想の範疇に入るものも多くあります。それらの句には、「読書」や「音楽」ならば具体的な書名や曲名を入れたり、どんな仕様の本であるのか、どんな楽器であるのか等、ささやかなオリジナリティを入れる工夫が見てとれます。他の類想例でも、会話の形にしてみる、数詞で映像を作る等、小さなアイデアが入っていますので、是非参考にして下さい。
◆ついでといっては何ですが、最近の投句には「大屋根リング」「ミャクミャク」「大谷」がコンスタントに登場するのは、ご愛嬌というやつです。
◆また、毎回のことですが、類想句の中には、兼題「夜の秋」に限らない(どんな兼題の季語でもでてくる)ありがちな句意、凡人フレーズがそのまま使われているものもあります。類想句は、参加者みなで共有するデータです。それらの土台を踏まえた上で、小さな工夫を重ねていきましょう。
※今回の兼題「夜の秋」中級者以上投句欄へのご投句は、投句数4407句、投句人数1794人となりました。以下、類想句の一覧です。