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中級者以上結果発表

2023年8月20日週の兼題

夜長

【曜日ごとに結果を公開中】

秀作

  • 被虐待の夜長を塗りたくるカービィ

    草臥れ男

    選者コメント

    夏井いつき

    社会的事件を俳句にすることに懐疑的意見があることは承知していますが、「夜長」という季語の現場には「被虐待」という生々しい現実もあるのです。星のカービィの塗り絵をゴシゴシ塗りたくる、そのピンク色が余りにも痛ましく、心に突き刺さります。
  • 夜長とはさびしき鉄を熔かすやう

    ギル

    選者コメント

    夏井いつき

    「夜長」は映像を持たない時候の季語。それを中七下五で「さびしき鉄」を熔かすような時間と空間であるよ、と比喩しました。「さびしき鉄」とは固く冷たい我が心の実相であるのかもしれません。
  • CQCQこちら夜長のさびしんばう

    にゃん

    選者コメント

    夏井いつき

    「CQ」は、アマチュア無線のコールサイン。応答を呼びかける言葉です。後半、一気に詩の言葉となっていくのが、この句の魅力。「夜長のさびしんばう」は、人恋しさを含んだ甘えのようでもあり。
  • 長き夜の発芽しさうなラムプへ火

    石井一草

    選者コメント

    夏井いつき

    中七「発芽しさうな」は「ラムプ」の形の比喩だと読みました。実際にどんな形だろうと想像するのも楽しい一句。「~へ火」という措辞が、豊かな「長き夜」の幕開けを思わせる、詩的オリジナリティのある作品。
  • 供花むんとばけものじみてくる夜長

    播磨陽子

    選者コメント

    夏井いつき

    「供花むんと」から通夜の席を思いました。祭壇には溢れんばかりの菊や百合。その塊や薫りが「ばけものじみて」いるかのように圧してくるのです。死を受け入れられない家族の感情が噴き出してくるような慟哭の一句。
  • 積ん読の腰にくびれのある夜長

    石上あまね

    選者コメント

    夏井いつき

    「夜長」=「積ん読」はベタな類想ですが、積んでいくうちに歪む部分を「積ん読の腰にくびれのある」とは、よくもまあ描写したものです。観察力からリアリティのある詩が生まれる。お手本のような一句です。
  • 長き夜やミニシアターの塵の綺羅

    天陽ゆう

    選者コメント

    夏井いつき

    「ミニシアター」とは、独自に選択した作品を上映する小さな映画館です。投影機の光の筋の中に舞う塵を「綺羅」と表現。そこには「長き夜」を楽しむ心の弾みも感じとれます。レイトショーを楽しむ大人たちの夜です。
  • アロワナの浮きも沈みもせぬ夜長

    丁鼻トゥエルブ

    選者コメント

    夏井いつき

    「アロワナ」とは、成長すると一メートルにも及ぶ淡水魚。金属的な光沢のある鱗は、荘厳な雰囲気すらあります。大型の水槽で「浮きも沈みも」しない魚体と共に、冷ややかな「夜長」を過ごす作者がいます。
  • 遺されて夜長を鉛管とおもふ

    磐田小

    選者コメント

    夏井いつき

    「鉛管」は、ガスや水道に使われる鉛の管。大切な人を亡くした自分にとって「夜長」とは「鉛管」のように果てしなく続く暗い管だというのです。「遺されて~おもふ」という呟きに、読み手である私たちの心も慄きます。
  • 罵詈まぜて粥やはらかく煮る夜長

    秋野しら露

    選者コメント

    夏井いつき

    「罵詈まぜて」と悪態をつきつつ、「粥」は柔らかく煮てあげるのです。ゆっくりと煮る粥からは、優しい匂いも立ち上がってきます。「夜長」という時間と現実の生々しさ。煮上がるまでが、ささやかな私の時間です。

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